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雨は夕方まで降り続いた。
ただ、激しい雨だったからその後はすっきりと晴れ、燃える炎のような夕焼けが雲ひとつ無い空に広がっていた。
じき、夜になる。
夏が始まりかけているとはいえ、濡れた服のままで夜を迎えるのは得策ではない。そもそも、抱き合ったままで雨の間中寝転がっていたんだから、身体中泥だらけでとても寝れたもんじゃない。なにより、傷が化膿する危険性もある。
傷を新しい水で洗い、身体の泥を布や近くの草を束にして拭い、身繕いしていると、不意に背中に声が掛けられた。
「傷跡が、多いんだね」
サラシと腹当て、それに、外套も外していたからか、俺の身体を見ていたエレオノーレがしみじみと呟いた。
不躾な視線が俺の身体を上から下まで這っている。
「お前は、自分の裸を見られると騒ぐくせに、俺の裸は見るんだな」
右手を腰に当てながら、両手が自由な分俺よりも先に身支度を整え――、おそらく少し前から背中を覗き見ていた女に、皮肉たっぷりに言ってやる。
「あ……う。その、ごめんなさい」
フン、と、鼻で笑い、マシになった身体に予備のさらしを再び巻いていく。エレオノーレは無言で背中側を巻くのを手伝ってくれた。
ふと、腰ぐらいの高さのエレオノーレの頭が目に入った。
「お前は――」
「ん?」
「思ったより、長かったんだな、髪」
雨に濡れたのを乾かそうとしているのか、エレオノーレは今は髪を縛っていなかった。肩甲骨ぐらいの長さだと思っていたエレオノーレの髪は、実は背中の半分ぐらいまでの長さだった。
少し荒れていたり、日光で脱色されたような部分はあるが、全体的にまとまりはあり、癖の無い良い髪だと思う。
「うん。縛るとキュッとなるから。降ろしてた方がいい?」
上目遣いに尋ねてきたエレオノーレに、俺は現実的な判断を下す。
「動きの邪魔になるだろ。縛っとけ」
「……うん」
少し残念そうな、しょげたような顔でエレオノーレは俺の身支度を最後まで手伝ってくれた。
激しく動いたのと、その後の冷たい雨で体力を削られたせいか、今日は傷の熱や痛みに煩わされることも無く深く夢の中へと落ちていった。




