20話:【帝華】
シリウスが帰った。その頃には、すっかり熱が下がり、安定した状態になっていた。シリウスにはなんだかんだで感謝しなきゃならないな。
しかし、秋の暮れだと言うのに、部屋に熱気がこもり暑い。一体何事だ。熱源は近くにないし。
何が原因かは分からないが、シリウスが帰った直後からだ。何かないかと、部屋を探してみるが、特に何も見当たらない。他の部屋かと思い、家中を探してみるが、特に変った点は見られない。
しかし、両親の部屋に入った時に、違和感を察した。母、父ともに、行方不明。なので、俺が触らない限り、部屋のものが動く事はない。シリウスも掃除をしたのは、俺の部屋だけと言っていたので、シリウスが動かした可能性はない。
ふと気付くと、右腕が熱い。黒い呪印が、大きな渦を形成して闇色を纏っている。何だ、コレは。
気づけば、俺の視界は、銀色に染まっていた。躑躅でも狂った黒でもない。光でもなく。煌く銀色。
眩い世界。そこは、雪の降り積もる白銀の世界だった。そこにぽつんと浮かぶ、紫の光。
「はじめまして、かしら。それとも久しぶり?」
その女性は、美しかった。
長い紫色の髪に白雪のように白い肌。
すらっと高い背にバランスのよい四肢。
とても気品のある整った顔立ち。
美人や美女と言う言葉では表しきれない美貌。
発せられた声は迦陵頻伽のごとき美しさ。
シリウスよりも美しいと思う。この世のものとは思えない美しさ。
「貴方は……」
「私は、そうね……。貴方の祖母、に当たるのかしら」
母方の、と付け足す女性。
祖母と言うには若すぎる。まだ二十代だろう。
「とってもそうは見えないんだけど」
「あら、若く見られるのは嬉しいわね。でも、本当に祖母よ」
嬉しそうに微笑む女性。
「マジで祖母っつーかばあちゃん?」
「ええ、まあ、ばあちゃんなんていわれるのは新鮮だけれど、そうよ」
どうやら本当らしい。
「ふふっ、その腕、もう熱くないでしょ?」
「あっ、そう言えば!」
先ほどまで熱く滾っていた右腕は、冷え切っていた。
「それにしても【輪廻】ねぇ。フウキ。貴方、【輪廻】を分かってもらったわけじゃないでしょう?」
この呪印、【輪廻】って言うのか。
「あー、そこから分かってなかったのね?【輪廻】と言うのは、ね」




