11話:眩む幻影
狂った世界で少女は、狂った笑みを浮かべる。
ゴシックロリータの少女。
まるで人形のような少女。
鴉のような色の髪と目。
白い肌。頬は、朱に染まる。唇は血のような赤。
大きな目。黒い瞳は、狂ったように光を帯びていない。本当に黒い瞳。
未発達の身体。子供の身体。それを狂ったようにふらふらと当てもなくぶらぶらさせている。
首を狂ったように左右に振り続ける。
それは、篠宮フウキと言う少年が、【壊れた輪廻のセカイ】に踏み入れる前までのことだ。
そして、フウキが、躑躅の世界に足を踏み入れた、そのとき、彼女は、狂った笑みと狂った動きをやめた。
世界は相変わらず狂っているが、それでも、少女は狂った動きをやめた。
目には光が差し込んだ。鴉のように黒い眼が黄色に染まる。
まさに鴉のような少女だった。
相変わらずの狂った世界だけど、少女は、いやらしい笑みを浮かべ、空を見る。
ここは狂った世界。世界の成れの果て。終わった世界の残骸。
彼女以外に何もない世界。いや、世界だった空間。
彼女は、いやらしくフウキを見る。
「やっと、彼が、根幹へと行き着いたみたい。長かった。永かった、ねぇ」
彼女は、何もない場所に声をかける。
「さてっ、と」
パチンと指を鳴らす彼女。
「行こうかしら」
白い光の道が現れる。
それは、見えないくらい眩い。
真っ黒な少女の姿が眩むほどの光の道。
それは、かつて世界の中心に繋がっていた道。いや、今も、か。
少女は、眩む視界でも、しっかりと目を開けて、進む。
少女は、たどり着く。数日掛けて、光の中を通り。
「八雲……。背負い込みやがって……」
そんな声が聞こえ、少女は、馬鹿らしくなって、思わず失笑してしまった。
「クスッ」
少女は、フウキの前に立つ。
「背負い込んでるのは、使命と言う名の枷。それはもう、外れた枷。彼女は、外れた枷をつけたまま彷徨う狂った娘」
そう、かつての自分によく似た娘、と心の中で少女は付け加えた。
フウキは驚き、目を擦る。
その頃には少女は、既にそこに居なかった。
ただ、夕暮れに、「カァ、カァ」と鴉が鳴いていただけ。




