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アンナさんはモテたい

 デレンシアという花があります。

 花言葉は、

「清純な恋」

「忠実」

「誠実な思い」。


 その純白な花弁の美しさから、古代から清らかなものの象徴として描かれてきました。


 私たちの国、エルドアント王国でも、神話の中で聖女様がこの花を持っていたという記述があることから大変重用されてきました。

 神話をなぞらえて、デレンシアの花は「聖女の花」として大聖殿の中にも数多く生けられています。



 生けられているのですが……



「なんで、デレンシアの花弁がこんなに散らばっているんですか!!!」



 大聖殿の中に入ると、床一面に散らばっているデレンシアの花弁。

 部屋の中の花が全て散ってしまったのではないかと思うほどの量の花びらが舞い散っています。



 そして、その真ん中に座る1人の聖女。

 その儚い…………ようで、ただただ欲望に身を委ねた表情を浮かべるのはただ1人しかいません。



「ちょっとアンナさん! これは一体なんなんですか!」


「なんだよエルサ。こんな朝っぱらから大きな声出すなよ!」


「アンナさんこそ、こんな朝っぱらから何やってるんですか! 大聖殿の中のデレンシアの花をこんなに散らかして……」


「何って見りゃわかるだろ?」


「そんなのわかるわけ」



 アンナさんは何を今更と言った表情で、デレンシアの花弁を1枚1枚むしり取っています。

 これは、まさか。



「花占いに決まってるだろ?」


「はあ……」



 思わずため息がこぼれます。

 でも、ここはひとまず落ち着きましょう。

 そんな毎話毎話突っ込んでいたらキリがありません。


 そうです、これはただの花占い。

 アンナさんはただデレンシアの花をむしり取っているだけ……



「って、大事なデレンシアの花で何やってくれてるんですかーー!!」


「うわっ! 結局キレるのかよ!! 心の中の葛藤はなんなのさ」


「当たり前です。なんで私たちの象徴でもある花をこんな簡単にむしり取れるんですか!! この人でなし!」


「だって、どうせ占うなら気高いお花でやった方がご利益ありそうじゃん?」


「ご利益なんてないですよ! むしろ罰が当たりますよ、いや当たれ!」



 私の抵抗むなしく、アンナさんは結局全ての花弁をちぎってしまいました。



「好き、嫌い、好き、嫌い、好き……あーっ!! 結局全部嫌いになるじゃないか!!」


「逆になんなんですか、その運の使い道」


「あらあら残念ですわね、アンナ」



 アンナさんの声を聞き付けたドリアードさんも大聖殿の中に入ってきました。



「うわっ! ドリアードさん居たんですか!」


「ええ、ちょっと手紙だけ確認しに外に出てましたの……それでアンナ、結局全部ダメだったんですの?」


「あーあーあーあー、ダメでしたよー! 笑いたきゃ笑え」


「オーホッホッホ。面白いわね〜」


「本当に笑うんじゃないわい!!」



 アンナさんとドリアードさんは仲良くわちゃわちゃやっています。

 この2人は似たもの同士なのか、なんだかんだ仲がいいです。


 その絆をお務めに使ってくれれば良いのですが。



「もう散らかさないで、片付けますよ。まったく、こんなに散らかしちゃって……」


「えー、エルサやっといてよ」


「は?」


「……いえ、ゴメンナサイ」



 デレンシアの花を粗末に扱われたのは許せませんが、何はともあれお片付けです。



「それにしても、どうして花占いなんて始めたんですか? 好きな殿方でも出来たんですか?」


「いやー、そういう訳じゃないんだけどさ」


「え?! じゃあ一体なんのためにこんな無駄遣いを!」


「ドウドウ、落ち着け。決して無駄遣いをしたわけでは無い」


「本当ですか? 思いつく限り、無駄遣いなものしか出てこないのですが」


「だから、あれだよあれ。この世界中の男どもが私のことを好きにならないかな〜って。デレンシアに占ってもらったのさ」


「やっぱり無駄遣いじゃないですか!!!」

 ゴワシ!!



 なんてくだらない理由でしょう!

 これには正義の鉄槌炸裂です。



「いきなり殴るなんてひどいじゃないかー! この闇聖女!」


「闇じゃありません。くだらない理由でデレンシアの花を無駄にしたからです!」


「いやでもさ、そういうこと言うけどエルサも考えてみてくれよ?」


「なにがですか?」



 どうせくだらない理由でしょうけど、アンナさんは自信満々に喋りだします。



「ほら、私ってビジュアルはいいわけじゃん? エルサと違って胸もそこそこあるわけだし」


「急にどうしたんですか? ケンカ売ってるんですか?」


「それなのに、男どもが私の魅力に気づかないって言うのはおかしいと思うわけなんですよ!!」


「はーーっ、そういう発言が殿方を逃がしているんだと思いますよ?」



 たしかに、アンナさんは綺麗な方です。

 それこそ、ちゃんと聖女としての役目を果たせばとても光り輝く魅力を手に入れられるはずです。


 それを全て台無しにしているのは、あのどうしようもない性格のせいでしょう。

 間違いありません。



「かーっ! エルサはいつもそうやって屁理屈ばっかり言ってくるよな」


「屁理屈じゃありません。真実ですよ!」


「私も真実だと思いますわ」


「なっ! ドリアードまで裏切るのか……」


「私はアンナの味方になった記憶などありません」



「そういえば、」なんて言ってドリアードさんは手に持っていた手紙のひとつを私に渡してくれました。



「エルサ宛に手紙が来ていましたわよ。もう一通は私宛みたいですわ」



 それだけ言ってドリアードさんは、自分宛の手紙を捨ててしまいます。



「いいんですか、開けて中を確認しなくて?」


「ええ…………どうせ、借金の催促状ですから」


「ああ、」



 ともあれ、私宛の手紙なんて珍しいので中を開けてみることにします。


 薄い桃色の封筒に入った小綺麗な手紙です。

 こんな封筒、始めてもらいました。



「なんだかいい匂いのする手紙ですね……」


「中は何が書いてあるんですの!」


「読んでみますね」



 えーっと……


 親愛なるエルサ様


 初めまして。突然のお手紙失礼します。

 私は王城の中で働く者の1人です。

 本来であれば、聖女であるあなたにこのような手紙をお送りすることは良くないことなのでしょうが、どうしても想いが止められなくなってしまいました。

 なので、せめてもの想いだけこの手紙にしたためさせてください。


 エルサ様。私はずっとあなたの事を目で追ってきました。

 来る日も来る日もあなたの事を見る度に胸の鼓動が高まり……


 ってこれ、もしかして



「ラブレターじゃねえかあああああああああ!!」


「あ、ちょっとアンナさん。奪わないでください!!」



 鬼のような形相をしたアンナさんは、私宛の手紙を奪うとそのまま全文に目を通しました。



「けっ! 聖女がこんな手紙貰ってるんじゃねえよ!!」

 パクリ。


「あ、ちょっとアンナさん!!」



 これは驚き。

 怒りに狂ったアンナさんは、私宛のラブレターをそのまま飲み込んでしまいました。



「くわーっ! 人のラブレター食うのうめー!!」


「サラッと人外にならないでくださいよ。てか、それ悪魔がやることですよ」


「いいさ! お前の恋路を邪魔できるなら悪魔でもなんでもなってやるさ!」


「ええ、、」



 すっかり悪魔になってしまったアンナさん。

 デレンシアの花の件と言い、そろそろ本当に雷でも当たって貰えないでしょうか?



「それで、エルサ。返事はどうするんですの?」


「え? 返事ですか?! でも、手紙はもうアンナさんの胃の中だし」


「そんなの、アンナの胃を切り裂けばいいだけでしょ? 王城の人なんだし探せばすぐに見つかるわよ」


「おい、ドリアード。怖いこと言うなよ」



 ラブレターの返事ですか。

 そんなの貰ったことないからどうしましょう。



「手紙の書き主には申し訳ないですが、私はこの方の想いにはお応えできません」


「あら、そうですの? もったいない」



 ええ。

 だって、私にはベルちゃんという心に決めた人が……


 ゴニョゴニョ。



「え、ベルがどうかしたのだ??」


「ベッベ、べべべべべべ、ベルちゃん!!!」


「うん、遅れたのだ!」



 突然のベルちゃんの襲来!

 というか、今日の私、なんだか心の声聞かれてません?



「エルサの心の声、全部ダダ漏れなのだ! それで、ベルがどうしたのだ?」


「ナナナナナナ、なんでもないですよ。ベルちゃんは今日も可愛いですねー!」


「あら、ベルガモントに甘えて全部誤魔化しましたね」



 ドキッ。

 ま、まあそういうことです。



「あーあ、やってらんねえ。私は今日は帰るわ」


「あ、ちょっとアンナさん。まだお務め始まってないですよ!」


「いいんだよ、今日は。こんな気持ちじゃお祈りも出来ねーや」


「それいつも言ってるじゃないですか」



 また勝手に帰ろうとするアンナさん。

 でも、今日の彼女の背中は少しだけ寂しそうです。



「ねえ、エルサ」


「なんですか?」


「私ってなんでモテないんだと思う?」


「……そういう発言のせいじゃないですかね?」



 アンナさんはその後1週間くらい寝込んだみたいです。



【続く!!】

お読みいただきありがとうございます!


煩悩とはおそろしや



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