75 快気エン
75 快気エン
スラクロの町のモンスタースタンピードの騒ぎから数日。
ひと段落付いたところで、ようやく家に帰ることができるようになった。
というのも、後処理に少し時間がかかってしまったからだ。
まあ、被害こそ少なかったけど大事件と言っていいものだったんだから仕方がないんだけどね。
数人の死者も出たみたいだし。
町の外であっても被害なしとはいくわけがない。
その人達は町を守って、立派に戦って亡くなったんだ。
せめて、冥福と来世での幸福をを祈ってあげよう。
実際に転生しているボクが言うんだから、来世があるのは間違いないことだし。
朝、ボクたちはスラクロの町の門の前にいた。
冒険者ギルドのギルドマスターのアトフィスさんをはじめとした、数人の人が見送りに来てくれている。
「お世話になりました」
クリアお母さんが挨拶をする。
「いやいや、こちらこそ。サーベニアたちがいてくれて助かったよ。おかげでモンスタースタンピードという割には被害はかなり軽微で済んだからね」
「領主への対応は正直助かったわ。わたし、ああいうの苦手なのよね。それにセイルくんのこともあるし」
「あははっ、サーベニアらしいね。まあ、確かにセイルのことはちょっと今は伏せておいた方がいいかもね」
こちらではアンザスさんとダニエルさんがボクを抱えたティニアお姉ちゃんと対峙している。
んっ、ボクと対峙しているでいいのかな?
視線の高さが、誰かに抱っこしてもらわないと合わないから、まあ、いいや。
「おじちゃんたち、こんどはまじめにぼうけんしゃしないと、メッだからね」
一応、子供らしく諭してみる。
『子供らしく諭す』って、何か変だな。
「幼児にチャンスを貰ったんだ」
「これで応えられなかったら、冒険者以前に男が廃るってもんだ」
まあ、奮起してくれたみたいだから、良いとしておくか。
ボクがというよりギルドマスターのアトフィスさんの提案に乗っかっただけなんだけどな。
さっき、こっそりとアトフィスさんに耳打ちされていた。
「あの二人にはセイルからお願いされたと言ってあるから。その方がやる気も起きるでしょ。と、いうことでよろしく」
いや、茶目っ気たっぷりに片目を瞑られても、その需要はボクにはないと思うよ。
それに、3才児に何を期待しているんだか。
……もしかして、何かバレてる?
『普通じゃない子』くらいには思われてはいるのかもしれないね。
多少、やらかしているから、仕方がないことだけど。
それにしても、ほんと、この人は……。
やっぱ、食えない人だな。
なんかこんなところで魔人族らしいと思うとは思わなかったよ。
良い意味でだけど。
「あんたたち、セイルくんのおかげで冒険者に復帰できる可能性が見えたんだから、ずっと感謝しなさいよね」
「「ありがとうございます、姐さん! 心に刻んでおきます!」」
アンザスさんとダニエルさんはピシッという音が聞こえてきそうなくらいの直角お辞儀を披露してくれた。
「誰が姐さんよ! 私はセイルくんのお姉ちゃんなの!」
そう叫ぶとティニアお姉ちゃんは抱っこしていたボクを、ギューーッと強く、それはもう強く抱きしめてきた。
くっ、苦しい。
なまじ格闘家のティニアお姉ちゃんなだけに抱き締める圧が半端ない。
胸が大きいので通常はフカフカしているんだけど、力を込めて圧迫されたら、その大きい分逃げ場がなくなり動きが取れなくなる。
顔が外側を向いていて埋もれてなくて助かった。
それだと窒息してそうだ。
あと、もう今更でどうでもいいのかもしれないけど、おまけついでに。
ボクも実際のお姉ちゃんではないのだけど。
「なんやかんや言ってても、狼人族は種族的に面倒見の良い人が多いんだよ」
ボクが場違いな逃避に走っていると、いつの間にか横に来ていたアトフィスさんが笑いながら言った。
あと、何故か、羨ましそうな視線をボクに向けてくる。
羨望の眼差しといってもよいかもしれない。
「さて、そろそろ行くとしようか」
ボルファスさんの一声でみんな馬車に乗り込んだ。
ちなみに、ティニアさんも一緒に来ることになったらしい。




