67 光エン万丈 (こうえんばんじょう)
67 光エン万丈 (こうえんばんじょう)
軟派な冒険者ギルドのギルドマスター、アトフィスさん共々、改めてスラクロの町の石壁の上から、遠くの森より群がって出てきている魔物の群れを眺める。
ゴブリンやコボルト、市場で見たデビルロブスターなど数種類の魔物が、スラクロの町にむかって迫ってきていた。
結構、数が多い。
幸いと言うべきか、今は冬で、森までの間にある畑は育てている作物もなく更地に近い。
そのため、折角育った収穫物を荒らされて被害を受けるという事も心配しなくても良さそうだ。
以前、ボクたちのケスバ村の時は2回とも収穫期真っ只中だったもんな。
ちなみにアトフィスさんはクリアお母さんを口説こうとして「人妻ですから」と断られたら、即座にティニアお姉ちゃんの後ろに異動し、両肩に手を置き先ほどの口説きの再開をしている。
格闘系のティニアお姉ちゃんの背後を素早く取るとは流石はギルドマスターと賞賛すべきか? それとも軟派野郎と呆れるべきか? 迷うところである。
ティニアお姉ちゃんはというと、相手がギルドマスターだからか振りほどくべきかどうか戸惑っている様子だ。
この辺は人生経験の差が出ているようだ。
そういえば、前世社会人の頃、研修でいろいろやったっけ。
セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、カスタマーハラスメント、マタニティーハラスメント……後、何だっけか?
にしても、こっちの世界にはセクシャルハラスメントの概念はまだ広がりどころか、生まれてもいないだろうからなあ。
「さて、丁度、畑も冬場のおかげでそこまでの被害にはならなさそうだし、少し派手目に行きますか。サーベニアも手伝ってくれるだろ?」
言動と状況が合っていない状態で、アトフィスさんがサーベニアお姉ちゃんに問いかける。
「当たり前でしょ。スタンピードが起こった時に協力するのは冒険者の決まり事なんだから」
「私も微力ながらお手伝いします」
「お嬢さん、魔術師だよね。火系等は使える?」
「はい。サーベニア師匠から、中級クラスまでなら一通り教わっています。あと私はクリアです。その子、セイル君の母になります」
「なるほど、なるほど。いいねえ。人妻でなければ口説いているところだよ。そんじゃあ、下の冒険者達が門から出る前にある程度数を減らしますか」
いや、口説いてたよね、しっかりと。
「クリア。『ファイヤートルネード』、合わせるわよ」
いつになくサーベニアお姉ちゃんがキリッとした口調で言う。
「はい! 分かりました、師匠」
そう言うと、壁の上で三人が等間隔に並んで立つ。
クリアお母さんもいつも雑気味に扱っているサーベニアお姉ちゃんに、敬意の籠った口調で返している。
それだけ緊迫しているという事が、嫌でも伝わってきた。
入り口に近いところから、サーベニアお姉ちゃん、クリアお母さん、冒険者ギルドのギルドマスターのアトフィスさんだ。
ルーに乗ったボクとアトフィスさんから解放された? ティニアお姉ちゃんは一歩後ろに下がって成り行きを見守っている。
広いとはいえ、魔物たちの多くはもう畑の真ん中あたりまで進軍してきていた。
あまり時間はないようだ。
「「「我が前に立ちはだかるすべての物を焼き尽くす炎の鞭を宿し、坂巻く渦となりて一切を灰と化せ! ファイヤートルネード!」」」
三人の詠唱が見事に揃い、丁度、畑の真ん中あたりに、3つの炎の竜巻が立ち昇る。
流石にこれだけの熱量だと、距離があるとはいえ、ここまで熱気が伝わり、かなり熱い。
その炎の竜巻に巻き込まれ、かなりの魔物が炎に包まれている光景が広がっている。
ルーが気を使ってくれたのか、ボクの視界を塞がない程度にお腹の袋を閉じて熱気から守ろうとしてくれていた。
「有難うルー」
やがて、その炎の竜巻も収まってくる。
後には焼け焦げた大地と、同じく焼け焦げた魔物たちの死骸が広がっている光景が目に入ってきた。
だけど、その後から魔物は続々と現れてくる。
けど、こちらもこれだけじゃないようだ。
『『うおおおおぉぉぉー!!』』
タイミングを計っていたのか、下の門が開かれたらしく、領主様の騎士団が来るまでのあいだの防衛線に冒険者ギルド所属の冒険者達が一斉に勢いよく飛び出して、魔物たちへの元へと向かっていった。
その中に混じって、ランスお父さんも一早く飛び出していく。
ボルファスおじちゃんは戦斧を構えて門の前を固めるように立ちはだかっている。
そして、あちらこちらで防衛線が開始され、人間と魔物との戦いが始まっていく。
なんだけど。
その中に、意外な人物達を見つけてしまった。
なんであの二人が魔物退治の冒険者達の中に混ざってるんだよ!?




