56 気エンを吐く
56 気エンを吐く
「出た~! コイツだ! コイツ!」
「なんで、ギルドの中に魔物がいるんだ!」
「それよりも今コイツ喋ってなかったか?」
おうおう、パニクッとるパニクッとる。
冒険者の男達は人? を指さしながら後ろに、は受付のカウンターがあって飛びのけなかったので、横に飛びのいた。
なかなかコミカルな動きをする。
コイツ等、本当に冒険者なのだろうか?
と言うより、前世のお笑い芸人向きな気がするんだけど。
さて、ここまでは予定通り。
あとはルーがゴーレムじゃなくて、Aランク冒険者のサーベニアお姉ちゃんの契約している土の中位の精霊ということで、サーベニアお姉ちゃんに話を進めてもらえば、ルーの魔物疑惑に関しては万事丸く収まるはず。
実際上、精霊と契約しているのは精霊使いの中でも珍しいらしい。
大体はその場の精霊に自分の魔力を提供して、その対価に精霊魔法を振るってもらうのが常なのだそうだ。
契約しているのはよほど精霊に気に入られないと無理だそうで、ボクの歳で契約している、しかも中位の精霊と契約しているとなるとそれなりに大事になる可能性が高いらしい。
だから、Aランク冒険者であり、尚且つ、中位の精霊と契約していてもおかしくないエルフ族のサーベニアお姉ちゃんがルーと契約していることにして、ボクの子守り役をしてもらっていることにするという筋書きを咄嗟に取ることにしたわけだ。
で、ちょっと思ったんだけど。
ボク、今ルーの中に入って隠れている必要ないんじゃない?
さっきまで姿を堂々と見せて冒険者ギルドに入ってきたわけだし。
赤頭巾ちゃんが路地裏に連れ込まれたときは安全もかねてルーのお腹の袋の中に隠れながら、様子を見るために必要なことだったけど、今は周りにランスお父さんたちがいるんだから、何か起きても安全だと思うし。
何よりボクとルーの真後ろにサーベニアお姉ちゃんがいるんだから。
もし目の前の男達が暴れ出したとしても、そうそう危険なことになるとは思えない。
つい癖のようなもので習慣的にルーの袋の中に入ってしまった、ははっ。
小さい子ってどうしてか、狭いところに隠れるのが好きだよね。
ねっ。
まあ、一先ずは様子を見ることにしますか。
「この子はわたしの契約している聖霊よ」
後ろにいたサーベニアお姉ちゃんが隣りに立った気配がする。
「そいつらが赤いフードを被った女の子を路地裏に連れ込んでいったので、後を追ってみたのよ。女の子が客を取ろうとしていたのなら関わるつもりはなかったんだけどね。その女の子は嫌がっていたみたいだから、つい手を出してしまったのよ」
「ウソだ!」
「でたらめ云うんじゃねえよ!」
男達が口々に反論する。
うん、前世日本の政治家並みに白を切り通すつもりだな。
「だったら、その赤いフードの女を、ここへ連れて来いよ!」
「証拠を見せろ!」
「「そうだ! そうだ!」」
周りの仲間の男達も騒ぎ立てる。
他の周りの冒険者達はすっかり傍観モードに入っている。
連れてこいというのはなかなか無茶な話だな。
まあ、あの赤頭巾ちゃんも怖い目に合ったんだ。
探したとしても、もうあの辺りにはいないだろうし。
しばらくは今後も同じ格好をして歩き回るとは考えにくいから、顔もまともに覚えてないし、あの娘を見つけ出すことはかなり難しいだろうな。
それが予想で来ているのだろう男達はかなり強気な姿勢だ。
それにしても、この話の流れはマズいパターンだな。
前世の保険会社にいた時の、証人や証拠のない状態での「やった」「やってない」の水掛け論は話をこじらせるだけで一向に話が進まないまま、時間だけが過ぎていくパターンになるだけなんだけど。
サーベニアお姉ちゃんはどうするつもりなのかな?
さっきは余裕そうな表情をしていたから、こういう状況には慣れているのかもしれない。
このまま任せて大丈夫だとは思うけど。
一応動けるように身構えておこうか。
「貴方たちの言いたいことは出尽くしたかしら?」
おっ、サーベニアお姉ちゃんが動き出した。
「では……」
「そのエルフのお姉さんの言う通りよ!」
サーベニアお姉ちゃんが先を続けようとした矢先、突如、ボクたちが入ってきた冒険者ギルドの入り口の方から女の子の声が飛んできた。




