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57  快気エン

57 快気エン()


 突如とつじょかかった思わぬ声に、ボクはおどろいて声のした方向、冒険者ぼうけんしゃギルドの入り口の方を見れば、そこにはとびらを大きく開いた真ん中に一人の女の子がババーンという効果音が鳴っていそうな感じで仁王立ちしていた。

(さっきの赤ずきんちゃん?)

 ボクは一瞬、頭の上に(クエスチョン)マークが乱舞した。

 さっき、路地裏に連れていかれるときに、チラッと見えたおどおどとおびえたような感じの表情は微塵みじんも感じられない。

 それどころか、りんとした雰囲気さえかもし出している。

 本当に、さっき路地裏に連れていかれた女の人と同じ人なのだろうかとうたがってしまうほどだ。

 赤ずきんちゃんは入り口から、ズカズカとまっすぐこちらの方へ歩いてきて、男達をにらむような視線で見渡した。

「ふーん。そっちの連中の顔のきずはどうせ自作自演でお互いになぐり合ったってところじゃないの? あたしが去るまではなかったし。あっ、真ん中のその男の目の青痣あおあざはあたしがそいつが気絶している間になぐておいたやつだから、そのカンガルーちゃんとは関係ないわよ。そいつ、あたしを路地裏に連れ込みながら、どさくさまぎれに、あたしのお尻を触ってたんだから。そのカンガルーちゃんに免じてその程度で済ませてあげたんだから、あたしにしては寛大かんだいな方よ」

 へえ、あの赤ずきんちゃんはカンガルーを知っているのか。

 あの冒険者連中は知らなかったみたいだし、この辺じゃいないみたいだから、赤ずきんちゃんは物知りなんだね。

「シャノン。まったく、この町に来たばかりだっていうのに、いきなり依頼を持ち掛けてくるんだから。ここのギルドは人使いが荒いわね」

 それから、赤ずきんちゃんはつかつかと受付窓口まで歩み寄ると、一人の受付嬢、シャノンさん? に文句を言い始めた。

「そういわないでくださいよ、ティニアさん。最近、頻発ひんぱつしていた町の一般女性に不埒ふらち真似まねをする連中がいるという噂があり、それがどうも冒険者グループではないかという話が上がったもので、誰か腕の立つ女冒険者に依頼しようかと考えていたら、たまたま丁度ティニアさんがこの町に来られたんですよ。これは面がれていないCランク冒険者という事で丁度良いと思っただけなんですから」

「ったく、このタヌキ受付嬢め」

 フーン、この世界にはタヌキもいるのか。

 エストグィーナスお姉ちゃんの見せてくれた本にはってなかった気がするけど、前世で見慣みなれ過ぎてて忘れただけかな。

 あっ、ちなみに、目の前の受付嬢のシャノンさんは人族ひとぞくだよ。

「はい、シャノン。そいつらの冒険者証」

 赤ずきんちゃんは放りてるようにカウンターの上にカードのようなものを数枚投げた。

「何っ! 俺の冒険者証!」

「俺のもない!」

「おれも!」

「返せ!」

「あなた方は今回の調査で素行が悪いと判定された場合、冒険者資格の剥奪はくだつが決定しています。ですので、この冒険者証は没収ぼっしゅうさせていただきます」

「ふざけんな!」

 シャノンさんに食って掛かろうとしたリーダーらしき男の前にティニアさんが割って入る。

「おっと、Eランク冒険者クラスで、Cランクのあたしにかなうとでも思っているの? それに、ここにはさっきあんたらが伸されたばかりのカンガルーゴーレムがいるんだけど」

 (カンガーゴイルのルーだよ)

「くっ」

「ちくしょう!」

「覚えてろよ!」

 冒険者……元冒険者の男達はお約束な捨て台詞ぜりふてて、冒険者ギルドから逃げ去っていった。

 あれ? ああいう連中、野放しにしておいていいのかな?

 つかまえた方がよいのでは?

「まったく、ありきたりな捨て台詞ゼリフね。もう少し気の利いた言葉は言えないのかしら?」

「あとはこちらで町の警備兵に情報を流しておきますので。治安維持は警備兵の職分ですから。ティニアさんへの依頼はこれで完了です。お疲れさまでした」

 なるほど、職分ね……。

 どうやら、このお姉さんは冒険者ギルドからの依頼で赤ずきんじゃなかった、フード……じゃなくて、覆面ふくめんで素行調査を依頼されていたようだ。

「……さてと」

 そう一息つくとティニアさんはボクたちの方を向いた。

 正確に言うと、ルーを見ている。

「出ておいで」

 目が合った!?

 あっ、そっか。

 この赤ずきんちゃんには中にボクがいるのバラしてるんだっけ。

 仕方がない。

 サーベニアお姉ちゃんとの打ち合わせではここで出るつもりはなかったんだけど。

 ボクはルーに言ってお腹の袋かを開けてもらう。

「こっ、こんにちは」

 なんか、このタイミングだと、我ながら間が抜けた挨拶あいさつだなあ。

「うわあー! 可愛い!」

 ティニアさんはボクがルーの袋からあらわれるや否や、満面の笑みになって、ボクを持ち上げて抱きしめてきた。

「おわわっ!」

「こんなに小っちゃいのに、あたしみたいなか弱い女の子を助けようと、路地裏に乗り込んで来たんだよ! キュンと来て当然じゃない! しかも可愛いし。この子は大きくなったら間違いなく、良い男になるわよ。あたしの嗅覚きゅうかくが保証するんだから、間違いないわ!」

 赤頭巾ちゃんはひとしきりまくしたてながら、ボクを抱きしめたまま振り回す。

 不意に頭巾ずきん、もとい、フードがはらりと後ろに下がった。

綺麗きれいな金色の髪がさらりとこぼれ落ちる。

(あれっ?)

 その頭にはヒョッコリとした動物の耳が飛び出ていた。

(犬耳?)

「ああ、フードが取れちゃったか。行っておくけど、あたしは狼人族おおかみひとぞくだからね。周りにいる連中、あたしを犬呼ばわりしたらただじゃおかないからね。覚えときな」

 ……セーフ。

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