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ガタン

 

「んっ」

 荷馬車が少しねたのだろう。

 ボクは馬車の揺れで目が覚めた。

 日が少しかたむき始めているようだ。

 ボクは目を軽くこすりぼんやりと周りを見回せば、相変わらずの森の木々が道の両端に先まで続く風景が広がっている。

 いっしょに荷台に乗っている女性陣の方はと言えば、こちらはこちらで世間話に花を咲かせていた。

「ところでサーベニア師匠、ドーザリブのお店、こんなに長く空けていて大丈夫なんですか?」

「ああ、ええ、まあ」

「もしかして、また一人、犠牲者ぎせいしゃが」

「エティスに任せてきてあるから多分大丈夫よ」

「えっ、エティスちゃんに? エティスちゃんも押し付けられて気の毒に」

「人聞きの悪いことを言わないで。信頼して任せてきたと言ってよ」

 サーベニアお姉ちゃんはドーザリブ王国の王都ドーザリブで道具店というか雑貨屋? みたいなお店をやっているらしい。

「エティスちゃんは元気でやってます?」

「エティスはね。でも、パーティーの仲間がダンジョンの探索で大けがをしてね。しばらく活動できなくなったらしいのよ。だからよく知っているエティスに店番をやってもらうことにしたのよ。どう? 人助けでしょ」

「はあ、そうですか」

 とはいえ、放浪癖ほうろうへきのあるサーベニアお姉ちゃんのこと、お店を人に任せて、旅に出ることが多いようで、クリアお母さんも冒険に出ないときに店番を頼まれたことがよくあったらしい。

 店番と言っても、数時間とかいう話ではないようで、クリアお母さんのめ息はそのあたりからきているのだろう。

「そろそろスニテの村に着くから、今日はそこで宿を取るぞ」

 ボルファスさんが荷台の方へ声をかけてくる。

 その声にボクは前方を見てみるが村らしき建物はまだ見えてくる様子はない。

 もう少し距離があるのだろう。

 その代わりにというわけではないが、森の中から何か白い物体が現れてきた。

「あっ、ヒツジ」

 村が近いせいか、放牧されているヒツジの群れが道端にわらわらと姿を現わしてきたようだ。

 こういう光景はテレビやネットの画像で見たことはあったけれども、じかに目の当たりに見られたのは前世を含めて生まれて始めてだ。

 なかなかに愛嬌あいきょうがあって、心がホッコリする長閑のどかな風景である。

 近くに寄って来ようとしていた数匹のヒツジを見つけて、ボクが手を伸ばしておいでおいでをしようとすると、急にサーベニアお姉ちゃんに引っ張られて胸に抱きかかえられた。

「わっ!?」

 ボクがそのことに驚いているとクリアお母さんが魔法のつえをもって立ち上がり荷台の端の方に進み出ると、その杖をヒツジたちの方へと向けている。

「我が前に立ちはだかる物を切り刻む風のつるぎとなりて飛べ! ウィンドカッター!」

(えっ、! クリアお母さん!?)

 いきなりクリアお母さんが風の下級攻撃魔法の『ウィンドカッター』を唱えて近づいてくるヒツジの群れへと放った。

「どうして!?」

「シープルフね」

 ボクを抱きかかえていたサーベニアお姉ちゃんがヒツジたちを見据みすえたまま言う。

 シープルフ?

 ああ、そういえば、エストグィーナスお姉ちゃんに読んでもらった魔物のことが書いてあった本の中にヒツジに似た魔物があったような気がする。

 確か本のタイトルは『フーリアリバトーレグ大陸魔物見聞録』だったっけか?

「パッと見ただけだと間違えそうになるけど、よく見ればヒツジには巻いた角があるでしょ。あのシープルフにはそれがないし、顔つきもよく見れば鋭いオオカミのような顔つきをしているでしょ」

「うん。言われてみればそうだね」

 前世ではよくイメージにあるヒツジの角が巻いているのも種類によるらしいけど、こっちの世界のヒツジも角が巻いているのがよく知られているらしい。

「一匹だとそこまで強い魔物ではないけれど、群れを成していると連携を取って襲ってくるのが厄介なのよ」

 そうサーベニアお姉ちゃんが話していると、数匹のシープルフが馬車の後ろからこちらに回り込んでとびかかろうと走り込んできた。

「さてと、わたしもセイルくんに良いところを見せましょうか。クリアちゃんが古代系の魔法ならわたしはこっちね。『風の聖霊よお願い。我にあだなす目の前の敵を切り裂いて!』」

 その言葉の後、複数の風の刃が飛んで、飛びかかってきたシープルフは次々と風の刃に斬られ大地に倒れていった。

 それも凄かったけど。

(え? 途中から、「こっちね」より後の言葉がよく聞き取れなかった?)

「サーベニアお姉ちゃん。今、何て言ったの?」

「んっ? ああ、この辺りの風の精霊に精霊語で語り掛けて魔力をあげてお願いしたのよ。現代語でお願いしても一応通じるけれど、精霊語の方がお願いを聞いてくれやすいし、威力も高いのよね」

「ボクはルーにお願いするときは普通に語り掛けてたけど?」

「今頼んだのはこの辺りにいた風の下位精霊よ。セイルくんは土の中位精霊のルーと縁を結んでいるでしょ。縁を結んでいるその分、思いが伝わりやすいのよ」

 なるほどね。同じ精霊にコンタクトをとるにしてもアプローチの仕方がいろいろあるということだね。

 いろいろあると言えば魔力の質にもいろいろとあるらしい。

 この世界、一口に魔力といってもそれぞれ違い、いくつか種類があるみたいなんだ。

 まあ、ゲームのパラメータじゃないし、そうだよね。

一般的に魔力といわれるものは古代魔法を発動させるための源となる体内の魔力のことをいう。

 そのほかにも精霊魔法を使うための魔力に近しい精霊力や神からさずかるとされる神力などがあるそうだ。

 それぞれが複雑に関係しているようだけど、難しいので一般的には全部ひっくるめて魔力と呼ばれている。

 学者や魔術師とかの人の中には分けて言っている人もいるみたいだけど。

 まあ、知識人のこだわりみたいな感じかな。

 前方を見れば、いつの間にかランスお父さんが御者台ぎょしゃだいから飛び降りて、ボルファスおじちゃんがあやつる馬を守るように剣を振るっていた。

 それにしても、生き抜くためとはいえ、前にオークやアルマジラットの襲撃を目の当たりにしてはいたけれど、3才児のいる目の前で、魔物とはいえ、こうもあっさり殺してしまうのって、この世界の感覚ってどうなんだろうか?

 ……やっぱ今更か。

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