41 エン福 (えんぷく)
41 エン福 (えんぷく)
ランスお父さんとクリアお母さんがサーベニアお姉ちゃんの要請で、以前所属していたザードリブ王国から、今住んでいるクィータ王国の冒険者ギルドに、異動の登録をしに近々、一番近い町へ行くことになった。
まあ、サーベニアお姉ちゃんもこっちに着いたばかりで、少しは休みたいだろうし、細々としたことや準備もあるから、もう少し落ち着いたらということにはなったけどね。
話を聞く限り、このケスバ村から一番近い冒険者ギルドの支部のある町はスロクラの町で、馬車でも一週間くらいはかかるのだそうだ。
おおっ、ちょっとした旅行じゃないか!
ボクも行きたい!
……って、ひょっとして、お留守番とか!?
と内心かなり焦っていたんだけど。
さすがにこれだけ長く家を空けるとなると、いくらエストグィーナスお姉ちゃんがいるとはいえ、ボクだけをお留守番させておくわけにはいかないということで、ボクも一緒に連れて行ってもらえることになった。
これにはちょっとホッとしている。
折角のこの世界での旅行のチャンス。
逃すわけにはいかなかったので、一瞬、背中に冷や汗をかきながら必死に頭を回転させて連れて行ってもらえるための理由を捻り出そうとしたが、あっさり連れて行ってもらえることになって拍子抜けした。
焦って損した気分だ。
思わず「やったー!」と両手を上げて年甲斐もなく大はしゃぎをしてしまって、周りの大人たちに微笑ましく見られてしまったのはご愛敬というものだろう。
いや、年相応だね。うん。
さすがに要件なりなんなりを諸々済ませるのを含めて3週間くらいはかかりそうな間、ずっと上位精霊であるエストグィーナスお姉ちゃんに子守りを指せるわけにはいかないというものだけど。
長さは兎も角、上位精霊に子守りをさせるのはって……。
なんかかなり手遅れな理由の気がする。
今更だよね。
えっと、基本的にボクの準備はクリアお母さんがしてくれるので、ボクは特に特別にやることもなく、いつも通り過ごしている。
ただ、サーベニアお姉ちゃんがボクの事を構い倒してくるので、ボクの能力のネットスーパーの一日一回の来店ポイントからのダブルアップをやる暇を見つけるのに苦心するようになった。
エストグィーナスお姉ちゃんがサーベニアお姉ちゃんに張り合ってか家の方に来るようになったのもあるかもしれない。
一応、画面? は見えていないみたいなことはランスお父さんとクリアお母さんで前に検証済みなので、特に他の人がいる時でも構わないのかもしれないのだろうけど、幾ら幼児と言っても、妖しい動きをしているのも客観的に見てどうかと思うので、誰もいないときにこっそりやるようにしている。
それはそうと、この間、ダブルアップのゲームが双六にならなくて良かったと思う。
あれは赤ちゃんみたいに暇が有り余っているときには暇潰しにものすごく助かるけど、ある程度動けるようになると時間を取られてしまうからだ。
……そういえば、最近双六に当たらなくなったな。
もしかして、あの紫髪ツインテール少女神のパスティエルが、暇を持て余しているのを気遣ってくれていたのか?
……まさかね。
あと、変わったことと言えば、何故か次の食事から、ボクのお皿の横のスプーンが2つになっていた。
カトラリー?
マナー講習でも始まるのかな?
なんてことはなく、いつの間にやら、サーベニアお姉ちゃんが来た日同様、サーベニアお姉ちゃんとエストグィーナスお姉ちゃんとの間で食べることになっていた。
二人の膝の上で。
2本の匙はそれぞれがボクに食べさせる用らしい。
「はい、セイルくん、あーん♪」
パクリ。
モグモグモグ。
『ほれ、セイルよ。あーんじゃ』
パクリ。
モグモグモグ。
両側から次々と口元に匙が持ってこられる。
非常に忙しい。
「あら、口元が汚れてるわね。はい、拭きましょうね」
フキフキ。
『こっちもじゃな』
ふきふき。
非常に忙しい。
そんな様子をクリアお母さんは呆れつつ、ランスお父さんはニヤニヤしつつ眺めながら食事をとっている。
そんな日常風景が数日続いていた。
◇
昼食が終わったらお昼寝タイムね。
あっ、ちなみにうちは前世と同じ朝・昼・晩の三食。
村は大体どこも一日2食が普通なんだそうだけど、ランスお父さんとクリアお母さんは町で冒険者をしていたため、一日3食が普通だったそうな。
ケスバ村に来て一日2食に合わせても良かったんだけど、森の中で家族だけで暮らしてるし、土の上位精霊のエストグィーナスお姉ちゃんがいるおかげか、森の恵みもそこそこあるので変えずにいたらしい。
で、話は戻ってお昼寝タイムなんだけど。
地下遺跡の噴水のある部屋の噴水の脇の石の縁に二人が座り、その並んだ太腿の上に寝かされて撫でられている。
「ふふっ、寝顔も可愛いわね」
ニコニコしながら、頭をというか髪の毛の感触を楽しんでいるようなサーベニアお姉ちゃん。
『次回は我が頭のほうじゃぞ』
不平を鳴らしながらも、しっかりボクの身体を撫でているエストグィーナスお姉ちゃん。
「はいはい、分かってるわよ」
なんだこの状況は?
いや、まあ、美人と美少女の二人の太腿の上で寝ているって、天国みたいな状況ではあるのだけど。
でも、ボクも3歳になって大分身体も大きくなってきた、とおもうので、多少手足がはみ出して……許容範囲か。




