32 エン分の話
32 エン分の話
一先ずルーの教育方針と言うか育成計画というかはエストグィーナスお姉ちゃんに棚上げし……任せるとして、概ね日々穏やかに時は流れて言った。
丸投げしたともいう。
いや、やっぱり任せたでいいんですよ。
だってボク3才!
赤ちゃんだし。
まあ、これもそろそろ卒業かな?
それからは、いつものように勉強したり、一日一回の来店ポイントからのダブルアップゲームをしたり、こっそり魔法の修行をしてみたり、ルーとガーゴンのスパーリングを観戦してたり……と平凡な日常が過ぎて言った。
ある日の昼食後。
ボクもいろいろと食べられるようになってきた。
それ自体は嬉しいことなんだけれど、離乳食は兎も角、この世界の味付けは基本的に薄味だ。
調味料が高価であることもあるけれど、何よりも種類が少ない。
塩はある程度安定して出回っているものの、交通の便が発達していないこの世界では輸送手段が乏しいため、他国との貿易量が少ないので、必然的にそうなることは想像に難くない。
幸いなことで、有り難いことに、クリアお母さんはこの家の持ち主で魔術の師匠でエルフのサーベニアさんから薬草の知識も学んでいたらしく、その知識を応用した味付けができるので、かなりの料理上手だと思う。
前世でいうところの薬膳料理みたいな感じかな?
ただ、それでもボクとしては前世の病院生活の記憶が蘇ってきて何となく味気なさを感じてしまう。
病院食が長く、当たり前のことなのだけど、どうしても体に気を使う病院食は塩分や油分、糖分などが控えめになってしまう。
それでも飽きが来ないように、月一回、刺身を出してくれたり、時間間隔を持つためか、週に一回、「金曜カレー」ならぬ麺類を出してくれたりと工夫や努力の跡が見られて感謝だった。
ただ、麺類は伸びにくい麺を使用しているのだろうけど、配膳までにどうしても時間が開いてしまうのでお汁を吸ってしまってふやけてしまうのが難点だったかな。
努力してくれていたのは伝わるし、調理師さんには感謝しかないんだけど、成人男性だった頃の僕としては濃い味付けを欲してしまうのは仕方のない事だろう。
懐かしい味の記憶が蘇ってくる。
前世でのことだし、懐かしいというのはなんか奇妙な感じもするけど。
ついつい前世日本人のボクとしては味噌と醤油の味が恋しくなってしまう。
今世では早くネットスーパーでいろいろな物を手に入れたいものである。
噴水の有る広間でエストグィーナスお姉ちゃんの見守る中、ボクとガーゴンとルーの三人? で並んで嗽(うがいをする。
『良いか、二回嗽じゃ。一回目は軽くクチュクチュと嗽をしてからペッするのじゃ。それから二回目は喉の奥にまで通す様にしてガラガラしてからペッするのじゃ。分かったかのう?』
「あい!」
ボクは元気よくルーとガーゴンの分も合わせて返事をする。
ちなみにこの世界の嗽は塩嗽だ。
塩は匂いを消すのにすごく有効なのは前世の知識と経験で知っていた。
汚れは兎も角、下手に石鹸とかで洗うよりも匂いに関しては良く取れたのを覚えている。
ドラゴンとカンガルーのガーゴイルに挟まれての嗽だ。
なかなか壮観だと思う。
「ガラガラガラガラ、ペッ」
『上手にできたのう』
いつものように、ニコニコとした笑顔でエストグィーナスお姉ちゃんが頭を撫でて褒めてくれた。
ルーもガーゴンも、ガーゴイルの機構のためか、器用に水を口から吐き出す。
前世、ヨーロッパにあったガーゴイルの装飾は建物についている雨樋のような機構から溜まった水を外に排出するための排出口に施された飾りだったと記憶している。
なんでも、家の中から外に悪い物、魔とか病とかを吐き出させるとかなんとか。
うん、いつみてもなんか変で面白い。
これが火を吹くとか、光線を吐き出すとかだと、逆に違和感がないのに、何でだろうね?
◇
そうして、この世界の年末が迫る頃。
だからと言ってこの世界では大々的に何かをするという訳では無い。
こっちの世界では年末だからといって、年越しそばや除夜の鐘というような特別に何かをするような習慣も無く、淡々と日々が過ぎていく。
雪が積もって、外に出るのも大変なこの時期、新年を祝うのは家の中で家族だけで行なうのがふつうである。
もしかしたら大きな町ならお祭りもあるのかもしれないけど、言った事が無いので分からない。
それとなくクリアお母さんに聞いてみた所、町では教会で祈りを捧げる人達がいるけど、大々的に何かをしているということも無いそうだ。
どちらかと言えば厳かな行事になるみたいだ。
現実問題、これから冬が厳しくなっていく最中、今からバカ騒ぎをして食料を無駄に消費する何てことはとてもできないらしい。
なかなかにシビアな問題があるようだ。
貧しい訳ではないが、食料の保存技術の観点からも、物資の供給量の観点からも、潤沢であるはずもないこの世界で、蓄えを計り間違えば、餓死する可能性もありうるわけだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。
そういう事の出来るのは貴族や裕福な商人であって、一般家庭は細やかに祝うくらいが精々な現状だそうだ。
盛大に祝うのは食料の確保の目安が見えてくる春に行なわれることになる。
という訳で深い森の中の一軒家なら尚更だ。
◇
さてと、今日の一日一回の来店ポイントからのダブルアップゲームをやるとしますか。
朝食を終え、ランスお父さんは森に出かけ、クリアお母さんは片付け物を始めたので、ボクは日当たりの良い窓際のお気に入りの場所に移動した。
落ち着くと、心の中で念じてネットスーパーの能力を発動する。
一日一回の来店ポイント1ポイントを獲得して《ゲームにチャレンジ!》のダブルアップのゲームに進む。
その前に現状確認。
現在はこんな感じ。
* * *
『現在の獲得ポイント』
2182 ポイント
《OK》
* * *
さてと、今日のダブルアップのミニゲームはっと、
どれどれ……。
* * *
『遊び方』
4×4のマスの中に、1~15の数字の書かれたマスと空白のマスが1か所あります。
空白のマスに隣接しているマスに触れることで数字の書かれている場所が移動します。
上手く移動させて、左上から右へ段を下げつつ1~15の数字を制限時間内に揃えていってください。
制限時間はゲームを続行した場合に初めに上部に表示されます。
《OK》
* * *
この『15パズルゲーム』のタイムアタックはかなり運と手際に左右されると思う。
表示される制限時間もそうだけど、何より移動させる手順が分かっていてもそれを間違えると、思わぬ時間を取られることになるんだよね。
そういえば、手際で思い出した事がある。
少し話は変わるけど、前世で年の離れた双子妹たちを連れてスポーツイベントに言った時、大迷路での景品付きタイムアタックにチャレンジしたことがあった。
会場内のイベントは何度でもチャレンジできたので、ボクは別行動の時に一人で何回か挑戦してから、他のイベントに参加していた妹達にもやらせてみたんだけど、妹達を引き連れて走り回っている時、一か所間違えて危うくタイムオーバーになる所だった。
あの時はギリギリセーフだったので、何とか兄としての面目は保つことができたが、それでも多少の非難を受けた。
しっかりと妹たちは景品を手にしながら……。
あの時の理不尽さを噛みしめつつ、さあ始めるとしますか。
……。
* * *
『現在の獲得ポイント』
2214 ポイント
《OK》
* * *
よし! 5連勝!
今日は調子がいい!
ここ2・3日5連勝目で失敗していたから、今日は気分が良い。
目標の5000ポイントの半分まであと少しだ。
おっと、気分が高揚していて忘れる所だった。
ネットスーパーを閉じる前に、一応日課の《教えて!パスティエルちゃん』チェックをしておかないと。
初めのころは不本意に感じていた《教えて!パスティエルちゃん》巡りが最近ではそうでもなくなってきている。
ちょっと楽しみにすらなってきた。
慣れるもんだね。
先が見えて来たからかもしれない。
なんていうか、こういうのは目的地の中間の峠越えのような感じがする。中間地点の峠の頂上が見えてくると、「もうすぐ天辺」「あと半分」という気持ちが強くなってきて、やる気が出てくる。
それで、今回見つけた新コーナーと言うのが、これだった。
* * *
《年末恒例 大福引き大会!》
豪華景品を当てるチャンス!
* * *
福引き?




