31 エン舞
31 エン舞
何だこの絵面!?
古代神殿の遺跡の大広間のような石造りの壁を背景に、同じくらいの大きさのカンガルーとドラゴンが、まるで格闘ゲームのキャラクターのように互いに向き合って構えを取っている光景が広がっていた。
あえて名称を付けるとしたら、ステージ名は「神殿の大広間ステージ」だろうか?
直球過ぎるかな?
重厚そうなその身体。
実際、ガーゴイルで石像だから重厚なのは間違いない。
ボスステージでもおかしくない雰囲気だ。
何処からかパイプオルガンでのBGMが流れてきそうである。それともオーケストラかな?
いや、特に流れてないけど。
ルーの鋭い左右のラッシュをガーゴンが両手で器用に受け止めていく。
時折、ガーゴンもそのドラゴン由来の鋭そうな両手の爪と口の牙で攻撃しているが、ルーもカンガルー由来のフットワークを生かして機敏に躱していた。
それからルーは一旦後ろん跳んで間合いを取ってから再びガーゴンの懐へと突進していく。
ガーゴンがルーの拳? を受け止めた際に発せられる堅い石同士がぶつかり合う音と振動が身体に直接響いてくる。
幾度か回し蹴りの要領で、互いにシッポを使った攻撃の応酬を繰り出しあっているのも見ごたえがある。
こういった攻撃はシッポをもった生き物ならではだろう。
ぶつかった時に火花が見える様だ。
って、実際に火花が散ってるし。
火打石かよ!
物騒この上ないけど。
とか、やや現実逃避しかけた頃。
ルーとガーゴンが互いのシッポを同時にぶつけあい、一際大きな音と衝撃が大広間に響いた瞬間。
『そこまでじゃ!』
ボクが呆気に取られてその場にポカンとしたまま立っていると、エストグィーナスお姉ちゃんの澄んだ綺麗な声が大広間に響き渡った。
その後、ルーとガーゴンは戦いを止め、互いに向き合って一礼する。
礼儀正しいな。
そんなこと思いながら声のした方向を見ると、いつもの台座の上に座りながら右手を挙げてルーとガーゴンに終了の合図をしているエストグィーナスお姉ちゃんの姿が見て取れた。
「エストグィーナスお姉ちゃん!」
ハッと正気に戻ったボクはエストグィーナスお姉ちゃんの元へと駆け寄っていく。
『おお、セイル、今日は早いのう』
台座の上に片足を組んで見ていたエストグィーナスお姉ちゃんが、いつものようにニコニコと声を掛けてくる。
「どうしたの、これ?」
ボクはエストグィーナスお姉ちゃんの元まで駆け寄ると、ルーとガーゴンの方向を指さして尋ねた。
『ルーの頼みで、セイルが来るまでの間ガーゴンと稽古をしていたのじゃ』
エストグィーナスお姉ちゃんは台座からヒョイッと飛び降りると、ボクの隣まできてボクを抱っこして話し始めた。
「ルーが? なんで?」
意味が分からない。
『この前、ケスバ村の畑で、アルマジラットが大量発生したそうじゃのう』
「うん」
『その時、ルーは危うくセイルを怪我させそうになったのじゃろ?』
「それは……」
確かに、体当たりをして来るアルマジラットに一瞬だけひやりとした場面はあったけど。
いや、あれはもともと、アルマジラットの群れに襲われている村の人たちを避難させるために、ボクが自ら首を突っ込んでいったわけだし。
最後の方でアルマジラットが飛び込んできて、危うくだったのはたまたまだし。
『それをルーが気にしておってのう』
いや、それ、全然ルーのせいじゃないよね。
むしろ、アルマジラットと戦わせることになってしまったのはボクのせいなわけだし。
それより、ルーも成り立てとは言え一応中位精霊なんだから、精霊魔法を鍛えようよ。
何で格闘技術を鍛えてるのさ?
ホント、意味わかんないよ。
ルーよ、キミは一体精霊として何処を目指しているんだ?
それとも、一体何に目覚めたというんだ?
ボク、ルーの育て方間違えたかな?
いやいやいや、ボクもまだ赤ちゃんの域なんで、育てる方ではなく育てられる方なんだけど。
ボク3才!
いえ、オムツは取れましたよ。とっくに。ええ、もうとっくに。
ボクを危うく危険な目に合わせそうになったからだなんて、それで中位精霊が殴り合いをしてどうすんのさ。
あと、それに付き合ってるガーゴンもどうなんだろ?
何気にガーゴンも格闘戦に付き合えてるし。
ドラゴン型だからか?
関係ありそうななさそうな?
「ボクに話してくれればよかったのに。全然気にしてないよって言ってあげたのにさ」
『うむ、確かにな。そうじゃな、まだ、精霊の言葉は分からぬか』
「精霊の言葉?」
ボクが小首を傾げると、エストグィーナスお姉ちゃんは小さいボクにも分かり易いように優しい口調で教えてくれた。
『人間には人間の言葉があるように精霊には精霊の言葉があるのじゃ』
うん、それは分かる。
国により地方により種族により、それぞれの言葉がある事は当たり前だと思う。
ただ、土の上位精霊であるエストグィーナスお姉ちゃんが普通にボクたちと同じ言葉を流暢に話しているから、遂忘れがちになってしまうだけで。
『縁を繋いだばかりじゃし、今は何となくお互いに意思が通じ合っているというだけの状態かも知れぬが、何れはセイルも精霊の言葉が聞こえるようになるし、理解できるようになるじゃろ。これは人間の知識と違って本があるわけではないからのう。心を通わせていけば自然と分かるようになるじゃろうよ』
「そうなんだ。楽しみだね」
何れはルーともこうやってエストグィーナスお姉ちゃんとみたいに、話すこともできるようになるんだ。
そうしたらガーゴンとも話せるようになるかな?
『そうじゃろう』
そう言って、エストグィーナスお姉ちゃんはニッコリと笑顔になり、優しくボクの頭を撫でてくれた。
「でもルーは中位精霊に成り立てだと言っていたし、先は遠いんだろうな」
『そうじゃな、ルーはまだ中位精霊になってから100年くらいじゃから、もう少し掛かるじゃろうな』
「えっ!? 成り立てって言ってたよね。えっ!? 100年?」
『そうじゃが、まあ、ルーはセイルと繋がっている訳じゃから成長はもう少し早くなるかもしれんのう』
いやいや、100年で成り立てって……。
一世紀、人間の一生涯以上レベルが青二才や若干どころかひよっこレベルとは。
言葉を教えてもらいはじめた時、本に書いてある文字のことでクリアお母さんともめていた時も思ったけど、やっぱり、時間間隔が精霊と人間ではかなり違うんだなあとしみじみ思う。
~ ~ ~
「これ古代文字じゃない」
『そうじゃが、大して違いがあるまい』
「大違いでしょうが」
『そうかのう? 500年程度の差異、些細な事だと思うがのう』
「基本を教えないでいきなり古代文字を教えちゃダメじゃない。セイルが混乱するでしょ」
『基本と言うなら、こちらが基本じゃぞ』
「あのねえ」
~ ~ ~
あの時はエストグィーナスお姉ちゃんが教えてくれていたのが古代文字で、それを知らずに覚えていたボクに気が付いたクリアお母さんが、今は使われていない古代文字を教えていることに抗議していたけど、この調子だと、時間的な感覚の事はいろいろな所で間隔の差異が出て来そうだ。
500年もの違いを些細なことと思っているんだもんな。
覚えておこう。
それは兎も角として。
でもさ、ルー。
だったら、まず先に腕力じゃなくて、精霊力とか、魔法力とかいった物を鍛えようよ。
何で、格闘の技を磨いているの!?
『ちゃんと精霊としても成長しているから安心せいセイル。ガーゴンもルーに感化されたらしく、良い影響を受けているのじゃ』
「そうなんだ」
ボクの心の叫びが伝わったのか、エストグィーナスお姉ちゃんが、ボクを安心させるように言ってくれた。
ガーゴンも中位精霊の先輩として後輩には負けたくないというプライドがあるのだろうか?
でもこれ、果たして良い影響何だろうか?
ルーも精霊としての成長はしているようだし、エストグィーナスお姉ちゃんが見守っていてくれるのだから間違った方向にはいかないだろうとは思うけど。
うん、一先ずのところは安心したということにしておこうか。
『う~ん、セイルは可愛いのう。ほれ、ほっぺにスリスリじゃ』
ちょっと、安心した、かな? ……安心していいのかなコレ?




