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27 エン景

27 エン()


 ボクたちの住むクラードの森とはケスバ村を挟んで丁度反対側となるゼバスの森に、アルマジラットという魔物の巣が出来ているのが発見された。

 エストグィーナスお姉ちゃんと一緒に見た魔物図鑑のような本に書かれていた内容によると、アルマジラットは大型のネズミのような姿をしていて、丸まって体当たり攻撃をして来るところは前世で見た事のある、逃げる際に丸まって転がる動物、アルマジロによく似ていた。ただ、逃げるのではなく、小型で一見弱そうに見えても憤然ふんぜんとして攻撃してくる獰猛どうもうな魔物らしく、それが集団で襲ってくるのが常らしい。

 ケスバ村の自警団のリックさんがうちを訪れて、そのアルマジラットの駆除くじょの手伝いを頼みたいとランスお父さんとクリアお母さんに相談してきた。

 何故、森の奥に住むランスお父さんとクリアお母さんに頼みに来たかと言うと、ランスお父さんとクリアお母さんは元Bランクパーティーの冒険者だったらしい。

 「元」と言っているがBランクの冒険者というのは上級冒険者に区分されるそうで、中級以下のランクの冒険者が一定期間ギルドに持ち込まれた依頼を受けこなさないでいると冒険者資格が失効するのに対し、上級冒険者になると一定期間というノルマがなくなり、自分で冒険者資格を返上しない限りは冒険者ギルドに登録が残り続けるという。ちなみに、ケスバ村で雑貨屋を営んでいるボルファスさんはCランクの冒険者資格をもっている。

 ただ、どうもランスお父さんの口ぶりからすると、メリットばかりじゃない様で、何らかの条件で強制的に依頼されることもあるらしい。

 そういうしがらみもあってランスお父さんもクリアお母さんもこの地で冒険者の異動登録はせずにエルフのサーベニアさんの家? を管理しているらしい。

 予備役よびえきって位置付けなのかな? 自由なイメージの冒険者も、上位になればそれなりに負わされる物があるようだ。まあ、この辺は前世の社会人と何ら変わらないかもね。

 パーティーでだからか、差異があったにしても、ランスお父さんもクリアお母さんも若くしてBランクまで上り詰めている。

 期待のパーティーだったらしく、いずれはAランクも目指せるのではないかと噂されていたと、前にこっそりボルファスさんに教えてもらったことがある。

 それが、Bランク成り立てで、いきなり解散してしまい、現在はそれぞれに家庭を持って静かに暮らしているらしい。

 その原因がボクなんだろうけど……。

「はい、セイルくん。杖持ってもいいけど、あんまり振り回したりしないでね」

「あい!」

 村の中に入ってから再び地面に下ろしてもらったボクは、クリアお母さんに魔法の杖を持たせてもらって機嫌よく振って歩いている。

 現在、リックさんからの依頼を受けてボクたち家族はケスバ村に来ていた。

 今回は買い出しと違って村の依頼を受けての魔物駆除だからということで、クリアお母さんはローブの中にかわの防具一式を着けているし、ランスお父さんも軽鎧に腰には剣を2本差している。

 うん、二人ともカッコイイ。

 ゲームの中から出て来たみたいだ……んっ? なんか違うか。

 ボクはウキウキした気分でクリアお母さんから魔法の杖を持たせてもらいながら、それを左右に振り回しつつ道を歩いている。

 やっぱり杖があった方が魔法の発動や威力が良いんだろうけど、流石に杖はもらえないよな。

 実際貰っても今のボクじゃ大き過ぎて持ち運ぶのも大変だし。

 何か代わりになる様な物はないかな?

 指輪とか、ブレスレットとか……流石さすがに、どっちもベビー用とかあるわけないよな。

 ボクもいずれは二人みたいな恰好をしてみたいな。

「おや、セイルちゃん、少し見ない間に随分大きくなったねえ」

 ケスバ村に入り、村の中を歩いているとすぐに恰幅かっぷくの良いおばさんに声を掛けられた。

「あい!」

 取りあえず、元気よく返事をしておく。えっと、ビエッタさんだったっけかな?

「ふふふ、元気の良い返事だねえ。クリアちゃん、このくらいの子が一番可愛いんじゃない?」

「ええ、まあ。元気がいいのは良いんですけど、あっちこっち動き回るし、いろいろ触りまくるので目が離せなくって」

「はっはっはっ、仕方ないよ。赤ちゃんっていうのはそういうもんだから、好奇心の塊さね」

 取りあえず、この状態に入ると話が長くなりそうなので、ボクはこの場から離脱すべく、そっと後ろに下がる。

 クリアお母さんが村のおばさんと話している近くを、ボクがトタトタと歩いていると、急にバランスを崩しそうになり前へつんのめりそうになってしまった。

「おや危ない!」

 何とか踏み止まる。

 ふう、危ない危ない。

「ほら、言ってる傍から。気を付けなくちゃダメでしょ」

「あい、ごめんなさい」

「はっはっはっ、本当に元気が良いねえ」

 まあ、子供だから頭が重く歩幅も小さく重心が悪いのですぐ転んでしまうのは致し方ないので、よくある事と捉えてもらったようで助かった。

 なんだろう。子供だから転びやすいのは当たり前なのに何だか恥ずかしくなる。

 う~ん、せめてもう少し手足が伸びないかなあ。

 動けることの有り難さは前世で骨身にしみて理解しているけど、人間という生き物はそれがかなえばさらに先を求めてしまう欲の尽きない生き物なのだ。

「セイルちゃんも村の子たちと遊ばせて来たらどうだい? なかなか村に来れないからセイルちゃんも友達が出来なくて寂しいだろ?」

 ボクが成長について、ちょっと哲学的に考察していると、おばさんからそう提案された。

「そうですね。じゃあセイルくんあっちに行ってみようか?」

「あい!」

 と言われて元気よく返事を返してみたものの、5才くらいまでの子供達の中に入っていくのはいろいろと抵抗感があるんだよね。

 というわけで、ボクは意を決して小さな子どもたちが遊んでいる輪の中へと足を踏み入れていった。

 ちなみに、皆ボクより年上でした。


   ◇


「そっちにいったぞ!」

「どこだ!?」「

「俺に任せろ」

 アルマジラットの駆除作業が始まった。

 金色のそよ風に波打つ絨毯の向こう、村の人たちの影が見える。

 遠くの麦畑のあちらこちらでアルマジラットを退治してまわる声が聞こえていた。

 時折、金属同士がぶつかる様な高い音が響いてくる。

 これはアルマジラットの堅いうろこのような背中と、武器や盾にしていいる物がぶつかり合っている音らしい。 

ボクは危ないからと言う事で、ケバス村の入口の所にある柵の適当な場所に腰かけて、遠くで大人たちがアルマジラットを駆除している光景を眺めていた。

なんだろうか、思ったよりものんびりしているような気がする。

 リックさんの様子から、もっと、こう切羽詰せっぱつまった状況なのかと思ったけど、そんな感じには見えない。

 一見すると通常の農作業の一環いっかんのようにも見える光景だ。

 ただ、現にけが人は出ているみたいだし。

 危険なのは間違いないのだろう。

 だけど、

 のどかな光景に、穏やかな日差し。

 ボクは眠い目をこすりつつ、うつらうつらとしている。

 さっきまで5才くらいまでの数人の子どもたちに交じって追いかけっこっぽいことをしていたから、程良く身体が温まってなんともホワホワとした心地だ。

 いくら前世社会人にまでなっていたとはいえ、2才児の身体である。

 多少は同年代より基礎能力値は高いのだろうけど、流石にこの手足の短さじゃ追いつけるはずも無く、前世でも見覚えのある一番小さな子が、一番後ろからトタトタと追いかけていくという、微笑ましい光景に周りのおばさん達が頬を緩ませていたのが印象的だった。

 村の簡易的な門のボクが座るのに丁度良さそうな所によじ登り、寄りかかって麦畑の方を見ながらコクリコクリとし始めた頃。

「……!」

(んっ?)

「!」

 遠くで声が聞こえる。

 なんかさわがしいな。

 ボクは眠い目をこすりつつ、声のする麦畑の方を注視する。

 基礎能力の高さのおかげか、視力も聴力もかなり良い。

 段々遠くの様子が分かってきた。

 村の人たちの周りを黒っぽいバスケットボール大くらいの大きさの丸いかたまりが飛び交っている。

 それは麦畑の中から姿を現しては村の人たちめがけて飛んでいってはまた麦畑の中へと姿を消していく。

 その繰り返しで、それが四方八方から襲ってきていて、村の人たちは避けるのが精一杯になっているらしく右往左往しているだけのように見える。

 さっきまでは村の人達でもなんとか対処できるようにと一匹、あるいは数匹ずつおびき出して対処していた筈なのに、今はあちこちで、茶っぽいかたまりが飛び交っている事態になっている。

「うわっ!」

「数が多い!」

「ジャンがアルマジラットにやられた! 頭に当たったらしい!」

「何だって! 早く道の方へ引っ張り出せ!」

「手が足りん! 自分の身を守るので手一杯だ! ぐはっ」

「おいバートン! 大丈夫か!?」

「畜生! 腕に当たった!」

 そう、なんか大変な事になっていた!

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