26 救エン依頼
26 救エン依頼
ケスバ村の自警団のリックさんがうちに訪ねて来た。
うちは森の中とはいえ、まったく交流がないわけでもない。まあ、1ヵ月に数度くらいは人が訪れることもある。大体が食料や荷物を運んでくれてきている雑貨屋のボルファスさんだけどね。
けれども、リックさんの様子がどうもいつもと違う雰囲気だ。
話を聞くと、ボクたちが住んでいるクラードの森とはケスバ村を挟んで丁度反対側となるゼバスの森に魔物の巣が発見されたというものだった。
この世界には動物とは区別される魔物という生き物がいる。
基本的には体内に魔核や魔石と呼ばれるものがあるのが魔物とされ、それらを持たない物が動物とされて区別されているらしい。
前世のボクが知っているようなファンタジー世界でおなじみのゴブリンやコボルト、オークにオーガみたいに一目で分かる様なものから、一見すると小動物となんら変わりのないような外見をしている者まで様々だ。
エストグィーナスお姉ちゃんの話によると、人と殆ど変わらないような見た目で、高い知能を持つものまでいるという。そういう者は「魔人」とか「魔族」とかいうらしい。
「で、俺達に手伝ってほしいという訳か」
コップを置いてランスお父さんがリックさんの話に答える。
「そういうことになる」
両手を組み、深刻な面持ちでリックさんが一つ大きく頷いた。
「一体何の魔物の巣が見つかったの?」
ボクがコップのミルクを飲んでいると、クリアお母さんがボクの口元についているミルクを拭いながらリックさんに質問する。
「ああ、それなんだが、発見した魔物の巣というのはアルマジラットの巣だ」
アルマジラットはエストグィーナスお姉ちゃんが見せてくれた魔物の図鑑のようなものによると、見た目は顔が前世地球での鼠っぽくて、胴体は堅い鱗が生えている。
大きさは小さい物はボクの今の身長の半分くらいで、大きいものになるとボクくらいの大きさの物もいるらしい。
雑食で、動きは小動物らしく素早く、丸まって転がり跳び上がってその堅い背中の鱗の面で体当たりをして来るそうだ。
「アルマジラット? アルマジラットって、5~6匹程度くらいなら、自警団と村の男達でもなんとかなるだろ? もしかして20匹くらいの群れ単位か?」
ランスお父さんが首を傾げる。
どうやらアルマジラットという魔物くらいなら数匹程度、そんなに深刻になる様なことではないらしい。感覚的には前世の日本でいうところの害獣駆除のイメージが近いのだろう。
「そうなんだが、数が多いうえに森の浅い場所、畑の近くに大規模な巣が見つかった」
「大規模って? 何匹くらいなんだ? 30匹か?」
少し冗談交じりの口調で、ランスお父さんが尋ねる。
「いや、正確には分からないが50匹は下らないだろうと考えている」
「50ですって!」
「なんだその数は」
クリアお母さんとランスお父さんが同時に驚きの声を上げる。
「確かにその数だとアルマジラットは好戦的だからな。麦の穂で視界が効かない畑の中から、あの体当たりの攻撃で襲って来られたらかなり厄介だぞ」
「そうね。以前、冒険者をしていた時にアルマジラットの駆除の依頼を受けたことがあったけど、あの時はオズベルトさんとナーザさんが一緒だったし」
「あん時は何匹くらいだったっけ?」
「20匹位だったと思うわ」
なるほど、ランスお父さんとクリアお母さんは冒険者をしていた時に、別の国の辺境の村でアルマジラットの群れの駆除の依頼を受けたことがあったらしい。
過去に複数のアルマジラットの群れを退治したことがあったから、さっきはアルマジラットの数を訪ねた時、気楽な口調だったのか。
動きの素早い小型の魔物は群れの数が増えれば増える程、急激に厄介になってくるそうだ。
「敵意を持って襲ってくる複数の大きな石つぶてってかんじだな」
げっ、それが50!
ボクは思わず顔を顰めた。
前世で、当時高校生だったボクは小学生の双子の妹たちとその友達の引率役でキッズパークに言った際、部屋一面にカラーボールだらけの場所で鬼役をやらされ、ボールの集中砲火を浴びた経験がある。
最初は遠慮して投げてきたから、簡単に避けられたけど、段々打ち解けてきて遠慮がなくなると、2・3個まとめて投げつけてくるんだよな。
近いと掬い上げるようにしてくるし。
もちろん、柔らかいカラーボールだからいくら当たっても痛くも痒くもないけど。
それが石みたいな硬い物になると考えると、下手にイメージが出来てしまった分、思わず背筋が寒くなってしまった。
「すまん。話の腰を折った。リック、続けてくれ」
ランスお父さんが冒険者時代の思い出話になりかけた事を詫びて、リックさんに話の続きを促す。
「ああ、分かった。……それで、どこまで話したっけか……そうそう、ゼバスの森」
ボクが想像している間に本題に戻ったようで3人で話し合っている。
「それだけの数、とても村の男達だけでは対処しきれそうになくってな」
「それは確かにそうね」
やはり、専門職である冒険者と一般の農村の村人では同じ数でも実力が違うと言う事になるわけだな。
「町まで行って冒険者ギルドに依頼を出せば良いんじゃないか?」
「何分急な事だからな。収穫時期に入っているし、あまり時間がない。町に行って依頼を出して、冒険者を捜して連れてくるまでにどれ程被害を受けるか分からん。そのせいで、収穫作業も、安心して出来ない始末だ。すでにけが人も出ている」
「そうか」
「ここ近年、ゼバスの森に魔物が増えて来たわね」
「今回の件は別としても、ゼバスの森への魔物退治の件は村長を通じて領主様に願い出た方がいいかもな」
「そうだな。その件は村長に話しておくとしよう。で、今回の件なんだが、手伝ってくれるだろうか? もちろん報酬は出す」
「……分かった。手伝おう。けど、報酬は食料で頼む。あまり金銭のやり取りを冒険者ギルドを通さないで受けると目を付けられるからな」
「Bランクなんだから、事後でも依頼人と一緒にギルドに行って契約書を造ればいいんじゃないか?」
「あまり町には行きたくないんだよ。厄介な依頼を押し付けられて長期でここを離れるわけにはいかないからな」
「なるほど、セイルもいることだしな」
「そう言う事だ」
リックさんとランスお父さんが優し気な目でこっちを見てくる。
小さい子を残しての単身赴任の心境は前世の新入社員時代に、先輩に飲みに連れて行かれた時に送ってきてくれたという動画を見せられながら聞かされたことがあったっけ。赤ちゃんは可愛いは可愛いのだけど、長時間見せられ続けるとちょっと辛かった記憶がある。
あれ? うちの場合、そうなると夫婦共働きになるのかな? それは困る。
「分かった。報酬に見合う分の食料でと言う事で」
それから、大人たちで報酬やら、これからの事やらを話し合い始めた。
そこにボクも口を挟む。
「ボクも行く!」
突然の割り込みに、3人が一斉にボクの方を見た。
「う~ん、セイルくんはお留守番しててね」
困ったような表情を浮かべてクリアお母さんがボクを諭す様に行ってくる。
「やっ! ボクも村に行きたい!」
「う~ん、困ったわね。いつもは聞き訳が良いのに……」
クリアお母さんを困らせているのは自覚してるけど、しばらく森から出てなかったし、置いてきぼりはイヤだ。
「連れて行けばいいだろ。村の様子を見なければならないし、今回は数日かかるかもしれん。俺達も張り付いていた方がよさそうだし、村に泊まることになる。その間、エストグィーナスにセイルを任せてしまうのも気が引けるしな」
「それは、そうだけど」
「ボルファスの所で預かってもらえばいいだろ。リックの所は独り身だしな」
「ほっとけ!」
「……仕方ないわね。セイルくん、カロアさんの言う事を良く効いて、大人しくしているのよ」
「あい!」
こうしてボクも村に行くことになった。
それから、リックさんの話ではすぐにでも来てほしいらしく、ランスお父さんとクリアお母さんは急いで準備を始め出した。
「じゃあ、エストグィーナスお姉ちゃんにお出掛けして来るって言ってくる!」
ボクはそう言うと走って地下へと向かった。
◇
『そうか、気を付けて行ってくるのじゃぞ』
ボクの話を聞いたエストグィーナスお姉ちゃんが優しい微笑を浮かべてボクを見下ろしている。
「あい!」
それに対し、エストグィーナスお姉ちゃんを見上げながらボクは元気に答えた。
『そうじゃ、セイル、おいで』
「なに? エストグィーナスお姉ちゃん」
そういうと、エストグィーナスお姉ちゃんはボクの頭を優しく撫でてくれた。
なんか額の部分がホワホワとあったかい感じがする。
『ほれ、ルーも』
そう言われたカンガーゴイルのルーが傍に来て、ボクの頭をエストグィーナスお姉ちゃんと同じように撫でてくれた。
ルーは石で出来ているにも拘わらず、繊細な感じでボクの頭に手を載せている。
喋れなくても心配してくれているのが伝わってくる。
表情がある訳じゃないのに、これが精霊と心を通わせているという事なのだろうか?
なんか石なのにエストグィーナスお姉ちゃんと同じような暖かさを感じるな。
そう思った。




