21 エンtry後 タネ明かし
21 エンtry後 タネ明かし
家の地下倉庫の中での小さな小さな大冒険を終えた翌日。
いや、ただ単にクリアお母さんの片付け物にくっついていって地下倉庫で迷子になっただけなんだけど……。
ボクとクリアお母さんとランスお父さんは朝食を囲みつつ、昨夜の地下倉庫での一件について話していた。
朝食はクリアお母さんとランスお父さんは前にねだって少しだけ食べさせてもらった事のある焼いたちょっと硬めのパンと、森で取れた食べられる野草と薬草のグリーンスープ、飼っているニワトリから取ってきた新鮮な卵とランスお父さんが森で狩ってきた動物の肉で作ったハムエッグっぽいもの。ボクは麦ごはんみたいなミルク粥に卵が閉じてある離乳食っぽい物だ。味は赤ちゃん用だからか、ちょっと薄目だけど卵の鮮度は抜群なので意外と素材の味が出てて美味しい。クリアお母さん、結構料理上手かも。良かった良かった。
「多分、セイルくんの波長に戸惑ったんだと思うわ」
昨夜、地下倉庫の魔法陣をボクが誤って正解して起動させてしまい、変な遺跡らしき所に跳ばされて、遺跡の罠に逃げ回ったり、ドラゴンの石像に追い回されて逃げ回ったりしたことを、クリアお母さんとランスお父さんに話すと、木製のフォークでハムエッグを突きながらクリアお母さんからそんな感想を頂いた。
簡単に言ってしまえば、あの遺跡の罠はエストグィーナスお姉ちゃんとサーベニアさんによるダンジョン警備システムだったらしい。
滅多に侵入者などあるはずもない、具体的にはサーベニアさんが管理し始めてから、ここ十数年ほど不審な侵入者は来てはいなかったそうだ。
それでも土の高位精霊たるエストグィーナスお姉ちゃんという見た目年頃の女の子が一人でいる訳だし、サーベニアさんが集めた摩訶不思議で若干意味不明な骨董品たる魔法道具をはじめとする財宝? があるわけなので二人で防犯装置を付け足したらしい。前世、保険会社に勤めていた身としては誠に感心なことではあるんだけど、それが我が身に向くと、前世で妹達を護る為なら侵入してきた不審者が家の防犯装置で怪我をしても正当防衛だよねと思っていたボクとしては複雑なものがある。
サーベニアさんがこの地を訪れ、エストグィーナスお姉ちゃんと出会ったのは数百年前のことだった。
それから意気投合したサーベニアさんとエストグィーナスお姉ちゃん。サーベニアさんがこの遺跡の管理を引き受け転移陣のある部屋の上に自分の家を作って森に住み着いたんだそうだ。
何ていう所に家建ててるんだよサーベニアさん!
っていうか、いいのか? 前世なら、世界文化遺産とも言うべき遺跡の上に家建てちゃって?
文化財保護とかいう考えはないのか?
いや、守ってるわけだから、あるのか?
ところが、ちょくちょく旅をしてまわる放浪癖のあるサーベニアさんのこと、しょっちゅう家を空けていたため、何十年かに一回くらいの頻度だけど、逃げてきた野盗や迷い込んだ冒険者が来ることがあったらしく、罠はしかけたものの、サーベニアさんは一応の管理代理を探していたらしい。
最も、土の高位精霊であるエストグィーナスお姉ちゃんが元々住んでいる訳だから、そこらの野盗や冒険者風情を排除するのは簡単な事なんだそうだけれど……。
昨日の場合はエストグィーナスお姉ちゃんが警報に気付いてすぐに様子を見に来てくれたんだろうということだけど。
だから、昨日のボクに対しては、からかうクラスで済んでたわけか……。
気付かれず様子を見に来られないまま罠が発動していたらと思うと、ゾッとする。
エストグィーナスお姉ちゃんに気付いてもらえてよかった。
いや、
あれで!
一体どのへんが?
あんなあやし方、赤ちゃんの立場としてイヤだ!
今冷静に考えてみれば、微妙に避けられるようにしていたようにも思えなくもないけれど、あの音やら振動やらは明らかにヤバいと感じさせるものだったよな。それがこんな赤ちゃんに対してなら「言わんや~をや」である。
普通にトラウマになるところだぞ。
精霊の考え方は分からない。
よくよく考えたら、ランスお父さんを呼びに行けばよかったんじゃないか。
はあ。
気を取り直して、続きを。
そこに一緒に冒険者をしていてサーベニアさんの教えを受け弟子のような立場になったクリアお母さんが管理者代理を買って出たと言う事になる。
当時クリアお母さんは冒険者パーティーの仲間のランスお父さんと付き合っていて、妊娠が発覚し(ボクのこと)、他のパーティーメンバーの女性も別のパーティーメンバーの人との間に子供が出来たことが分かっていたため、パーティーを円満に解散してそれぞれに新たな生活を始めようと考えていたそうだ。
つまり渡りに船だったというわけだ。
「まさか、セイルくんが転送装置の暗号を解いちゃうなんて思わなかったわよ」
「古代語が読めた訳じゃないだろう。周りの光の線を全部光らせようとして、たまたまうまく行ったんじゃないか?」
ボクが思考にふけっていると、クリアお母さんとランスお父さんが話を続けていた。
えっと、どう答えようかな?
取り敢えずは無難に答えておくか。
「クリアお母さんに教えてもらった数字に似てた!」
「それにしたって、まだ足し算なんて教えてないし、しかも桁上がりする2桁の計算よ」
まずい! そうだった。つい忘れがちだけど、数字が読めてもまだ計算を習ってなかった! しかもボクまだ1才半だった! 前世でもこんな赤ちゃんいない。超天才児か異常だ!
どう誤魔化す!?
まずいまずいまずい!
考えろ
足し算、計算、桁上がり。
……よし!
「ボルファスさんのお店で見てた!」
ここ最近、時折ボルファスさんの店に連れて行ってもらっている。
その時に、クリアお母さんとランスお父さんが他の用事を済ませる場合はボクはボルファスさんの店に預けられ、看板娘ならぬ看板赤ちゃんをやっていた。
「えっ!? ボルファスさんのお店で!? お客さんとのやり取りを見て!?」
「見取り稽古か! 子供は何でも見て覚えて来るというけど、うちの子天才!」
「う~ん?」
クリアお母さんは悩んでいるみたいだけど、ここはランスお父さんの勢いに乗っかって押し通そう!
「あい!」
ボクも元気よく右手を挙げる。
その時、ガタッっと椅子が揺れ、少しバランスを崩しそうになる。
「危ない!」
クリアお母さんが慌ててボクの身体を押さえてくれた。
「ふう、良かった。大丈夫セイルくん?」
「あい! ありがとうクリアお母さん」
「椅子に座っている時にあばれちゃダメよ」
「あい、ごめんなさい」
素直に謝って置く。
どうやら、今ので気も逸れたみたいだし。
「なあ、クリア。セイルに転送装置の解除法を教えておいてもいいんじゃないか? エストグィーナスもセイルのこと、気に入ったみたいだし。また会いたそうにしてたから遊び相手になってもらえば」
「もう、ランスはお気楽なんだから。でも、そうね。そうしましょうか」
それから転送装置のセキュリティーの解除方法についてクリアお母さんが話してくれた。
基本的には僕の考え方、全ラインが15になるように揃えると言うもので合っている。
「セイルくんは流石に気付かなかったかも知れないけど、あの仕掛けには転送装置が作動する為の『答え』が2種類あってね」
うん、知ってる。
基準のラインで両側を入れ替えたパターン。
一つ目の仕掛けでは作る事が出来なかったけど。
「転送前の仕掛けでは一つしか作ることが出来ないのよ。で、転送先の仕掛けではどちらも作ることが出来るんだけど、ここで人はつい前と同じに並べてしまうのよね」
あっ!
「ただし、2種類のうち、一つが『正解』で、もう一つが『不正解』になっているのよ」
何となく分かっちゃった。
「でも、これが罠なのよ。どちらでも扉は開くんだけど、転送前の仕掛けの並びで開くと罠が作動して、エストグィーナスに知らせるようになっているのよね」
つまりは二つ目の仕掛けの正解は一つ目と反対に揃えなければいけなかったという訳だったのか!
どうやら、誤って正解してしまったのではなく、間違った正解をしてしまったみたいだ。
さっきも思ったけど、やっぱり後から冷静に考えれば、ランスお父さんを呼びに行けばよかったのかもしれないけど、つい思わずパズルゲーム的な暗号を解くのが楽しくなり、夢中になって周りが見えなくなっていた。いろいろと。
そういうときってあるよね。ねっ。
「はい、セイルくん。これを覚えてね」
そういうとクリアお母さんはボクに正解を教えてくれた。
「でも、ボクがうっかり間違えて、誤った並びで開いて、罠が発動した廊下に気付かずに出てしまったら?」
「正しく揃えて開けると廊下の灯りが明るいのよ。それで初めてじゃない私達みたいな管理している人達は気付けるわ。それにセイルは今度からはエストグィーナスに覚えてもらっているからすぐ気が付いてもらえれば、昨日みたいに罠は動かないわ」
「あ……あい」
「うっかり間違えて反対にしたとしてもセイルだと解れば大丈夫だろ」
でもちゃんと正解を解いてから入ろう。セキュリティーのため。
こういうのは、ちゃんとしておいた方がいい。
前世、保険会社に勤めていて、いろいろなトラブルの事例を見てきたけど、いい加減な運用はトラブルの元だった。
ヒューマンエラー。
「だろう」が一番怖い。
◇
さてと、今日の(一日一回のダブルアップ)をやるとしますか。
朝食を終え、ランスお父さんは森に出かけ、クリアお母さんは片付け物を始めたので、ボクは日当たりの良い窓際のお気に入りの場所に移動した。
落ち着くと、心の中で念じてネットスーパーの能力を発動する。
一日一回の来店ポイント1ポイントを獲得して《ゲームにチャレンジ!》のダブルアップのゲームに進む。
その前に現状確認。
* * *
『現在の獲得ポイント』
674 ポイント
《OK》
* * *
さてと、今日のダブルアップのミニゲームはっと、
どれどれ……。
* * *
『遊び方』
4×4のマスの中に、1~15の数字の書かれたマスと空白のマスが1か所あります。
空白のマスに隣接しているマスに触れることで数字の書かれている場所が移動します。
上手く移動させて、左上から右へ段を下げつつ1~15の数字を制限時間内に揃えていってください。
制限時間はゲームを続行した場合に初めに上部に表示されます。
《OK》
* * *
15パズルゲームのタイムアタックだった。
……あの薄紫髪ツインテール少女神、どこかで見てるんじゃないだろうな?




