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20 合エン奇エン

20 合エン()エン()


 祭壇の前の台座の上に突然現れた少女が、足を組んで膝を抱えたまま口を開いた。

『クリアが去った後、すぐに警戒を知らせる魔道具が作動したからのう。何事かと思おて探ってみれば、妙ではないか。さっき来たばかりのクリアの気配のようであり、ランスの気配の様でもある。しかし、二人のうちのどちらかであれば、サーベニアの仕掛けた魔道具を間違まちごうて操作するはずもなし。と、いうことで、少し様子を見ることにしてのう。そしたら、幼子ではないか』

 その声は不思議な響きをするものの、見た目相応の透明感のある少女の高い声ではある。

 にも拘らず、その喋り口調は時代掛かった感じのする言い回しをするところが、なんか可愛い。

 全然似てはいないけど、なんか前世の妹達を彷彿ほうふつとさせる。

 まあ、今のボクよりは見た目年上だけどね。

『そのうち気が付いたのじゃ。この幼子はもしやクリアとランスの子ではないかと。なので少し子守をしてやろうと、あやしてやっておったのじゃぞ』

 えっ! あれが子守!? 命かかってましたよね! 命かかってましたよね!

 命懸けの子守こもられに涙が出そうになるよ。

 いや、マジ泣きで。

『予想以上に幼子がチョコマカと可愛らしく良い動きをするのでな。つい、楽しくなって遊んでしもうたわ』

 えっ! あれが遊びって!? 命かかってましたよね! 命かかってましたよね!

 しかも途中から楽しくなったって……。

「彼女はエストグィーナス。かなり高位の土の精霊だ。

 カラカラと笑う少女を困惑した顔つきでボクが眺めているのにランスお父さんが気付いて、僕に彼女の事を教えてくれた。

 土の精霊って、うん、やっぱり人間の感覚とはちょっと違うんだな。

 なんか妙に納得してしまった。

 でも、あれ?

 ここってサーベニアさんの家だよね。

 エルフって風とか水とかの精霊と仲が良いんじゃなかったっけ?

 それに対して、土とか火とかの精霊ってドワーフが仲が良いんだよな。この世界にドワーフがいるかどうかはわからないけど。

 あと、神様なら兎も角、ボクのイメージだと土とか火の精霊って男性のイメージがあるんだよな。しかもいかつい。

「ほら、セイルくん、ご挨拶は?」

 クリアお母さんが呆れたと言わんばかりに大きく息を吐いてから、ボクをエストグィーナスの方へと向ける。

 仕方がない。ここは赤ちゃんとしての大人の対応を見せて上げるとしますか。

「あい……こんにちは、セイルです」

 滑舌かつぜつも大分良くなり、村に言った時より挨拶も上手に言えるようになった。

 どやー! (赤ちゃん的ドヤ顔)

 あっ、でも、今は「こんにちは」じゃなくて「こんばんは」か。失敗、失敗。

「おうおう、賢いのう」

 そんな事は気にした様子も無く、エストグィーナスはニコニコとした笑顔で台座の上から飛び降り、ボク達の元に近付いて来る。

「我はエストグィーナスじゃ。よろしくのうセイル」

 満面の笑顔でエストグィーナスはボクの頭を優しく撫でてくれた。神秘的な美しさの有る感じなんだけど、それとは対照的に気さくな感じの性格のようで、なんともそのアンバランスさが妙な魅力を出している。

『昔、男の子は皆ドラゴンが好きって聞いた事があったからのう。どうじゃ、カッコイイじゃろ?』

 そういうと、エストグィーナスはボク達の後ろで大人しくしている、と言うか、動きを止めているドラゴンの石像を見やり、得意気に言った。

 多分、小さい子供の興味の引きやすい話題を振ってくれたんだとは思う。

 いや、まあ、恰好は良いです、はい。けど、何も言わずにこんなのに追いかけられたら、素直に怖いです、はい。素直に泣きます、はい。

 ボクは思わず赤ちゃんらしからぬ乾いた苦笑いの表情になってしまった。

「こっちはドラゴンのガーゴイルでドラゴイルじゃ。名前をガーゴンと言う。よろしくしてやってくれ」

 そうエストグィーナスが言うとガーゴンと呼ばれたドラゴイルが、お行儀よくゆっくりと頭を下げた。

 名前の付け方がなんか適当っぽいなあ。会ったばかりでなんだけど、らしいと言えばらしい気もする。

「エストグィーナス、ちょっと連れて来るのが早かったけど、これからはセイルの気配も覚えておいてね」

 エストグィーナスの言葉には気にした様子も無くクリアお母さんが話を切り出した。

『分かったのじゃ」

 エストグィーナスも気にした様子もなく話を切り替える。

 だけど、エストグィーナスがボクには何と無くソワソワしている様で、落ち着きがないように見えた。

 チラチラとボクを見ているような気がするし。

 何だろうかこれは?

「……のう、クリア。セイルを抱かせてもろうてもよいかのう?』

 エストグィーナスはボクの顔を覗き込むと、思い切ったかのようにクリアに尋ねた。

 なるほど、抱っこがご所望でしたか。

「ええ、もちろん」

 クリアお母さんはニッコリとそう答えると、ボクをエストグィーナスの方へと差し出した。

 エストグィーナスはちょっとためらったように恐る恐る腕を伸ばし、やがて意を決したようにクリアお母さんからボクを受け取ると、ボクはエストグィーナスに抱きかかえられた。

 けっこう柔らかい。

 砂の様な物から具現化したから、てっきりもっと堅いと思ってたんだけど。

 意外とフカフカだ。

 そんな事を考えていると、そっとボクを受け取ったエストグィーナスはボクのひたいのたんこぶにクリアお母さんと同じように軽く口づけを落とした。

 すると、たんこぶの辺りがホワリと温かく感じられ、おでこの痛みが引いていく。

 それと同時に、何か胸に温かい物が灯ったような気がした。

 って言うか、あれ? ボクの手が光ってる?

 いや、手だけじゃない。

 もしかして、身体全体が光ってる?

 何で?

 どうして?

 何だろうかこれ?

「セイル、よかったなあ、精霊に口づけしてもらえるなんて滅多にない事だぞ。羨ましい」

 ボクが不思議に感じて動揺していると、ランスお父さんが言ってくる。

 また、そういう子と言うとクリアお母さんに杖で叩かれるよ。

 と、思ったら、ランスお父さんが意外と真面目な顔をしているし、クリアお母さんも何か穏やかな微笑を浮かべてボク達を見ている。

「良かったわねセイル、土の精霊の加護が貰えたみたいよ」

「はい?」

 土の精霊の加護?

 いや、そんな大それたものを、こんなあっさりと?

『どうしたのじゃセイル?』

 初対面でいきなり高位の土の精霊の加護を貰ってしまって驚きはしたものの、ここは一先ず社会人を経験した赤ちゃんとしてはお礼を言っておくのが礼儀だろう。

「うっ、ううん、何でもないです。ありがとうエストグィーナスお姉ちゃん」

『! お姉ちゃん』

「あっ、ごめんなさい。駄目だったですよね」

 いくら知り合いの赤ちゃんとはいえ、高位の土の精霊に対してあまりにも礼を失していただろうか?

 なんか顔の表情がぎこちなくなってるし。

『いっ、いや、いい。セイルには我を『お姉ちゃん』と呼ぶことを許す』

 良かった。失礼じゃなかったみたいだ。

 ボクが安堵の息をらしていると、エストグィーナスはボクを覗き込みながらまた何やらモジモジとした感じを漂わせている。

『その……なんじゃ。もう一度お姉ちゃんと呼んでくれぬかのう?』

 あっ、これはランスお父さんとクリアお母さんの名前を初めて呼んだ時に似てるな。

 しょうがない。赤ちゃんスキル『エンジェルスマイル』(使用コスト0ポイント)付でサービスしましょう!

「あい! エストグィーナスお姉ちゃん」

『おお、おお、いのう』

 物凄く喜んでくれたようで、エストグィーナスはボクのことを思いっきり胸の中に抱きしめて、頭に頬擦ほおずりしてきた。

 それは良かったんだけど。

「ぶはっ!」

 苦しい。フカフカ過ぎて息が出来ない! 赤ちゃん標準装備の天使の笑顔の破壊力の追加ダメージがこっちに来た!

 ボクはなんとか エストグィーナスのホールドから抜け出し、呼吸を確保する。

「にひひ、いやあ、なかなか面白い物が見れた。良かったなセイル。

 うん、ランスお父さん、子どもに向けて良いたぐいの笑顔じゃないね、それ。

「ふあああ」

 ボクの口から自然と欠伸あくびれた。

 さっきので酸欠になったからじゃないぞ。

 晩御飯の後だったし、地下倉庫? で彷徨さまよってもいたし、もう結構遅い時間のはずだ。

「セイルくん、もうおねむの時間ね」

『なんじゃ、来たばかりだというのに、もう帰ってしまうのか? 名残惜しいのう』

 エストグィーナスは本当に名残惜しそうにボクをクリアお母さんへと差し出した。

「はっくしょん!」

「あら、倉庫で身体が冷えちゃったみたいね。早く温かい所に行きましょうね」

 そういうとクリアお母さんは受け取ったボクをギュッと抱きしめて抱っこしてくれた。

『またすぐに遊びに来るのじゃぞ』

「あい! おやすみなさいエストグィーナスお姉ちゃん」

 ボクは手を振りながら、クリアお母さんに抱っこされたまま神殿の大広間の様な場所を後にした。

 こうして、ボクの『家の中の大冒険』は幕を閉じるのだった。

 ……あれっ? 確か、荷物の片付けに着いていっただけだったはずのような?

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