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13 エン卓を囲んで

13 エン()卓を囲んで


 ケスバ村に遊びに行って、村がオークに襲撃されてから半年以上経ったある日の事。

 家にボルファスさんがやってきた。

 ボルファスさんは時折食糧や雑貨類、魔法の素材などをかついで、うちまで届けに来てくれている。

 住んでいる自分が言うのもなんだけど、わざわざこんな険しい森の中まで運んでくれるなんて。

 しかも、ボルファスさんは以前は冒険者で、その時に負った傷が原因で冒険者を引退することになった身なので、ここまで来るのは相当大変なはずなのに、時折こうして重たい荷物を背負って届けに来てくれている。

 正確に言うと、冒険者の資格はまだ持っているそうでCランクだそうだ。

 Cランク以下は一定の期間内にある程度決められた以上の成果を上げ報告して更新しなければランクの降格や場合によっては資格の失効もあるのだそうだが、この前のオークの群れを撃退した際の手続きで更新が出来たのでしばらくは問題ないそうだ。

 そう言えば、村でボルファスさんやリックさんたちがランスお父さんとクリアお母さんの事をBランクパーティーのメンバーだって言っていたけど、やっぱりあのラノベでよくある冒険者のランク分けの事だよなあ。

 と、聞いてもCだのBだの言われても今一強さの基準がまだ分からない。

 普通に考えると上から2番目と言いたいところだけど、元保険会社勤めの身としては格付けとして『AAA(トリプルA)』とか『BB』とかあるしなあ。しかもそこにより細かく評価を擦る為に『+』や『-』を付けたりもするし。

 Bだと「保険金の支払い能力に問題が有って、常に注意してみておく必要がある」だったかな。

 うん、基本的にBB(ダブルB)以下は『投機的下位クラス』とされていて、今一信用度が……って、冗談はさておき、ラノベで読んだやつだとAの上にもSやSSやSSSがあるからやっぱりこれだけだとまだ判断ができないや。

 何か前世、妹たちが病室に持って来てくれていたラノベの主人公って、Fランクから始まってあっという間にAランクになっていてBランクってあまり登場した記憶がないから実力的にどのくらいなのかっていうのが分かりづらいんだよなあ。

 かなり前に見た少年マンガ的なイメージ的にいうと、中間層で出番も活躍も少ない2年生。色で言うなら、赤・青・黄なら青。金・銀・銅なら銀って感じだろうか。

 でも、ランスお父さんとクリアお母さんのあの時のオーク達の群れとの戦いを見る限り、それ相応の強さがあるのは理解できる。

 周りを見ても二人にかなりの信頼を寄せているのが見て取れたし。

 おっと、話が随分逸れたが、そんな訳でボルファスさんはこんな所まで定期的に生活必需品を持って来てくれる、見た目は大柄でごつい感じだが優しくて面倒見の良いおじさんです。

 ついでに、遠くの国にいるクリアお母さんの魔法の師匠にあたるサーベニアさんから送られてくる荷物も持って来てくれているようだし。

 まあ、これに関しては一応の理由はあるようで。

 ボルファスさん曰く、

「どんなはた迷惑になるか分からん品物を、いつまでも村中に置いておけるか」

 だそうだ。

 信用ないなあサーベニアさん。

 でも、なんだかんだと言ってボルファスさんもクリアお母さんも、そしてランスお父さんもサーベニアさんにかなりお世話になったらしく、こうやって家主のいない家を見ているのだから、満更嫌ではないのだろう。

「で、今回は何のアイテムだ?」

「俺が知るか。開けるわけがないだろう。俺は魔法使いじゃないからな。特にサーベニアさんから送られてきたものなんか下手に開けて見ろ、どんなことになるか」

「まあな」

 ランスお父さんとボルファスさんが顔を見合わせて苦笑しあう。

 エルフで美人らしいけど、聞けば聞く程イメージが崩れていく。

 これ以上、子供のエルフに対する純真な幻想を壊さないで欲しいものである。

「ねえ、開けてみていい?」

「待ってねセイルくん、開けるならお母さんが開けるからね」

「あい!」

 そうして現在、テーブルの上のサーベニアさんからの荷物を囲んで四人で顔を突き合わせていた。

 ボクはランスお父さんが作ってくれた専用の子供用椅子に座らせてもらっている。

 そしてあれから半年たって、ボクは前よりも少しずつ言葉数を増やして話すようにしていっていた。

 もうだいぶ普通に会話しても違和感がないくらいにはなってきていると思う。

 同時期の他の幼児と比べるとかなり流暢なのかもしれないけど、一応は気を付けてはいるので、突出して異常というほどではないはずだ。ないはずだ。

 ケスバ村にも時折連れていってもらえるようになったし、こうやってボルファスさんはうちに来ることも何度かあったので、何度か話をしているし、目立った行動はしていない。

 だからボクのことは「一才半にしてはお利口な子供」の範疇で収まっているはずだ。

「楽しみだねボルファスのおじちゃん」

 ボクはワクワクが隠せないといった態度でボルファスさんにニコニコと話しかける。

 実際楽しみではある。

 何だろうか? 例えるなら、学校の理科準備室から始めてみる実験器具なんかが出てくるような、そんな今から何が起こるんだろうといった期待感がある。

「いっ、いや、俺はそろそろお暇しようかと」

 それとは対照的にボルファスさんはできればこの場から一刻も早く立ち去りたいと言った感じの雰囲気を漂わせている。

「えっ! ボルファスのおじちゃんも一緒に見ようよ」

 ボクはボルファスさんの服の袖を小さな手で握る。逃がさないよボルファスさん。冒険者なんだから変わった物には興味があるよね。

「そうだな。せっかくだからボルファスも見て行けよ」

「一緒に見よう!」

 ダメ押しにキラキラした目で見上げてみる。

「……できれば遠慮したいんだがな。仕方がないセイルに付き合うとするか」

 ボルファスさんは浮かしかけた腰を再び椅子に落ち着けて一つため息を付いた。

「ヤッター!」

 ボクが両手を高く突き上げて喜びを表現すると、ボルファスさんは仕方がないと言った表情で目を細めてボクの頭を撫でてくれた。

「いかつい顔のボルファスもセイルには弱いか」

「いかつい顔は関係ないだろ」

 いかつい顔は否定しないんだね。

「じゃあ開けるわよ」

 相変わらずマイペースで、男性陣のやりとりをしり目に箱を開けていたクリアお母さん。

「なにが入っているのかな? 楽しみだね!」

 中身に期待を持っているのは本当だ。

 半年前にサーベニアさんから送られてきた「アンラッキーチャンスメーカー」というブレスレット。

 使用者の幸運度を上げる代わりに、使用者の身の回りにトラブルを引き寄せやすくなるらしい、一応呪われたアイテム。「一応」と付けているのはどのくらい幸運度が上がるのか? どのくらいの範囲にどれほどのトラブルを引き起こすのかが分からないからだ。幸運度の上昇する度合いとトラブルを引き寄せる程度を天秤にかけて、割に合うかが判断できない以上迂闊には使えない。

 でも幸運度を上げれば、ネットスーパーの一日一回の来店ポイントを掛けたダブルアップのゲームの勝率を上げて、今は安全策として3連勝したら止めていたのを増やせるのではないだろうか。

 そうすれば目標の5000ポイントを稼ぐ期間を大幅に短縮することが出来るようになるのではないだろうか。

 そんな考えが浮かんできたのだが、流石にアレは使うことが出来ない。リスクが大き過ぎる。

 サーベニアさんの手紙には「使ってもいいよ♪」なんて軽いノリで書かれていたみたいだけど、あのブレスレット、着けたら外れなくなりましたなんてオチにでもなったらシャレにならない。呪われたアイテムっていってるし。

 ……運をあげるアイテムか。

 この前のはちょっとリスクが大き過ぎて使う気にはなれないけど、出来るだけリスクが少なくて幸運度とかを上げることができたらネットスーパーの能力を使えるようになるための道のりが一歩も二歩も進むことになる。

 なので、他のリスクの少ないアイテムが無いだろうかと思っている。

 と、言う訳で毎回送られてくるサーベニアさんからの荷物を結構楽しみにしているんだけど、なかなかそう思うようなアイテムはなかった。

 他にも方法がないかと、この半年間、ずっと考えている。

「手紙が入っているわね」

 クリアお母さんが箱の中から手紙らしき羊皮紙を取り出す。

「見せて!」

 ボクが興味本位に手を伸ばしてみるとクリアお母さんがニッコリと微笑んで羊皮紙をテーブルの上に置いた。

「セイルくんはまだ字が読めないでしょ。お母さんが読んであげるから待っててね」

「ボクも読みたい!」

 ボクは子供らしい願望を素直に述べてみる。

「じゃあ、今度一緒に文字のお勉強をしましょうね」

「あい!」

 よし! やったー! さりげなく文字の勉強が出来る目安がついた。

 会話を覚えるのも苦労したけど、今後のためにも早いうちに読み書きを覚えないとこの先に進めない。

 クリアお母さんが魔法使いなためか、家主のサーベニアさんが集めているせいか、家の中にはそこそこ書物がある。

 これが読めればボクもちゃんと魔法が使えるようになるかもしれない。

「今回はねえ……」


   -   -   -


 クリアちゃん、ランス君、熱くなってきましたけどそちらは変わりありませんか?

 セイルくんは元気に走り回っている時分かな。

 一度戻りたいとは思っているのだけど……。

 さて、今回はこの前、遺跡探索をした冒険者が持ち込んできたマジックアイテムを送りますのでそちらで管理お願いね。


名も無き男神像。


 魔力は感じられるんだけど、今一どういうものか分からなかったので時間が出来た時にでもそっちに戻ってゆっくり研究しようかと思っているので、クリアちゃん、ランス君、例によって使ってもいいよ♪

 ではまた、手紙するね。


     サーベニア


   -   -   -


 中に入っていたのは10cmくらいの石に掘られた男性の像。男神像といっているのは、発見された場所が祭壇の様になっていたからだと補足説明に書いてあるらしい。

「まともだ!」

「まともだな」

「まともね」

 いや、そんなにまともを連呼しなくても……サーベニアさんの評価って一体?

「中身も分かったし、俺はそろそろおいとまするぞ」

 そういうと今度こそボルファスさんは席を立った。

 なんだろう? この「ああ、終わった終わった」って感じの空気は。

「相変わらず使ってもいいよって書いてあるけどなあ」

「そうね。石像じゃ、使いようがないわね。じゃあ、片付けてしまっておくわね」

 そういうとクリアお母さんは箱を元に戻して部屋から出て言った。

 いつも思っていたんだけど、あの箱この後何処にしまっているんだろう?

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