第十八話 冥府からの刺客
事件。それはいつも突然起きるもの。
学園長の演説から早三日経ち、生徒たちは外出などに多少の不満を抱きつつも特に心配することなく過ごしていた。
そんないつも通りの夜。生徒たちは寝静まり、教師たちは明日への準備を整えている。
ドカンッ! そんな爆発音と共に事件は動きだした。
けたゝましく鳴るサイレンが学園全体に響き渡り、全ての者が眠りから叩き起こされる。
窓から見える景色には学園の一角から上がる煙が見える。
碌に音質が保たれてない放送は爆発についての情報を矢継ぎ早しに話している。
「緊急! 緊急! 現在、旧講堂で爆発が確認されました! 生徒の皆さんは直ちに練習場へ避難してください! 非常事態に備え教師の皆さんで先頭の心得がある人は旧講堂前に集合してください! 繰り返します! 生徒の……」
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鳴り止まぬ放送で飛び起きた僕は急いで貴重品が入ったカバンを持つとすぐさま練習場へ向かう。
向かっている間も断続的に爆発音が聞こえ、周りを見ると死に物狂いで走っている。安全な場所へ避難しようと我先に駆けている。
僕が練習場へ着くとそこは怒号が飛び交い、場が混沌としていた。
「何が起こっている! 説明しろ!」
見るからに上等な服を着た青年が教師に突っ掛かっている。
「落ち着いてください。今確認に行っているます!』
対応している教師も何が起きているか把握できていないようで混乱の様子が伺える。
僕は練習場内を見渡してカレンやケイたちを探す。
カレンはすぐに見つかった。なにせ彼女は今ソフィの背に乗っている。
その周りには同じく従魔をつれた子達がいた。
「あ、レイ」
近づくとすぐにカレンが気付き声をかけてくる。
「カレン、何が起こっているか知ってる?」
「うんん、知らないけどさっきからソフィが死の匂いがするって言ってる」
「死の匂い?」
「そう、なんかアンデットとかの匂いらしいよ」
その時ソフィが天に向かって大きく吠えた。
周りで騒いでいた者たちも唖然として巨大な狼に視線が釘付けになっている。
「レイ! ソフィが何か向かってくるって!」
「何かって何!?」
「多分アンデット? とにかく上に魔法で壁を作って、一番強いやつ!」
「わかった!」
とりあえずカレンに言われた通り魔力を練る。
「我が魔力よ、来る者全てを拒む障壁をここに創らん!『完全拒否』」
詠唱を簡略化した自作魔法を上空に展開する。
効果は単純明快な魔法壁。既存の属性魔法では対になる魔法以外が効果が薄かったりと色々欠点があるがこれは万能である。ただ効果時間が極端に短く、一回攻撃を受けると壊れてしまうのでその場しのぎにしかならない。
僕が障壁を展開してから数秒後、ものすごい衝撃と共に何かがぶつかり障壁は砕け散った。
「おやおや、これはこれは、なかなかいい魔法ですね」
空から現れたのはローブを着込み指輪やネックレスなどの多数の装飾品をまとった後光が幻視できるほどのオーラをまとったスケルトンだった。
「うあああああああ」
「魔物だあああああ」
「助けてくれぇ」
空にスケルトンが現れた瞬間みんなは恐慌状態に落ちていった。
幸い僕たちの周りにいた人は僕の魔法が防いだのを見ていたおかげか少し冷静になっている。
「煩わしい。 爆ぜろ!『軽爆撃』」
スケルトンが魔法を使うとあちこちで爆発が起こっていく。
密集していたこともあり爆発が起こるたびに人が空を舞っていた。
「この程度の魔法でやられるのですか。少し残念です。眠れ!『強制睡眠』」
どさり、と周りが一斉に倒れた。いびきが聞こえるのでどうやらただ寝ているようだ。
辺りを見渡すとほとんど寝てしまっているが少しまだ立っているのが残っていた。
「ふむ、まあこの程度でしょう」
空のスケルトンは手を顎に当てて考えたそぶりを見せるとこちらに向き直り。
「皆様、初めまして。私は魔王様が配下、リッチのモルテ、あなた方に死を運ぶ者です。」
空に浮かぶスケルトン…モルテが自身のことをリッチと名乗った瞬間、まだ立っていた人は全員逃げていってしまった。
練習場に残っているのは僕とカレンと寝ている人たちだけだ。
「ねぇレイ。逃げた方が良くない?」
「でもここから逃げてもいくところ無いじゃん」
「ソフィ、このことをシンさんに報告しておいてくれる?」
僕がソフィに話しかけると彼女は得意げに上から目線で鳴いた。
「もうとっくにやってるって。シンさん、今全力ダッシュで来てくれてるらしい。あと一時間ぐらい?」
ソフィで5日かかった距離を一時間で来れるのか。
でもシンさんが来てくれたらなんとかなるかもしれない。
「ソフィ、背中失礼するよ。」
僕はソフィの背中に飛び乗ると、
「シンさんが来るまで持ちこたえるぞ。」
「わかった」
その時上空から声がかかる。
律儀に待っていてくれたモルテからだ。
「方針は決まりましたか? 復活してからの初戦闘です。せいぜい楽しませてください。」
完全に舐めきっている態度だった。
丁寧に煽ってくれている間に早口で詠唱をし、全力をもって唱えるは変幻自在の魔力槍。なるべく油断を誘えるように速度はゆっくりで威力に全力を込める。
「なんですか、この不恰好な魔法は? 当てる気があるのですか?」
案の定あっさりと騙されている。彼の前に不透明な板が現れ魔力槍とぶつかりそうになる。
だがそこは僕の自信作、形をくねらせて板を迂回するとモルテへ突き刺さる。
「グハァッ! はっはっは、これはいい。あなたは丁度いい練習相手になるでしょう」
苦しげな声を一瞬あげたがそのあとのセリフはどこか嬉しそうだった。
「もう油断しませんよ。」
「ソフィ! 今だ」
掛け声とともにソフィがかける。
瓦礫が散らばった中疾走とソフィが走り抜け、その後ろを飛びながらモルテが付いて来る。
「聖なる力をもって敵を打ち倒さん、『聖の光線』」
カレンが道を選び僕が迫って来るモルテを魔法で妨害する。
伝説のアンデットでも時間稼ぎぐらいはできそうだ。
「ハハハハハハハ。これは楽しい。楽しい。
負の力は我が元に集い無限なる闇を生み出せ、精霊など取るに足らん冥府の力をここに顕現せよ、『虚空闇』」
魔法が発動した時、周囲一帯から光が消え失せた。




