9 English Department DAY(5)
立村が椅子を動かしおもむろに藤沖のいる方向へ身体を向けた。その方向には麻生先生もいる。軽く会釈をして、次にクラスメートたちに向かった。
「これから麻生先生に内容を説明し、許可をいただけてからこの話進めたいんだ。時間かかるけど、いいかな」
乙彦に対して許可を求めているのだろうか。
「構わない。俺も詳しく状況を知りたい」
「ありがとう」
江波と疋田が何度も顔を見合わせ頷いている。同じことは、おそらく演劇有志チームIN出どころ吹奏楽派閥の連中も同様なのだろう。あまり立村が関わる事経由で感じたことのないわくわく感が流れている。
「じゃあ早くしてくれ。時間がない」
「かしこまりました」
麻生先生に対する口調はいつもの慇懃無礼。そこのところはぶれていない。
━━立村も、麻生先生に対する態度を直せば、人間関係大きく変わると思うんだが。
「まず今回、二年A組有志から、英語劇上演について把握した経緯を説明します。三月下旬、僕、立村が江波を通じて吹奏楽部の顧問の先生から、”English Department DAY”、いわゆる英語科デーの話が出て、三年A組英語科ではゴスペルの準備を進めているという説明を、世間話程度に教えてもらいました」
━━三月末、ああ、あの生徒会お茶会修羅場の直後か。
あの時期だと、クラス情報を乙彦が把握する余裕なんてない。
始動が遅れたのは仕方ないことだと自分でも思う。
「開催時期が六月末ということなので、本来であれば五月初旬の宿泊研修で話を煮詰めても問題はないでしょう。合唱やちょっとした展示程度であればですが。しかし、今回は江波経由で、吹奏楽部二年A組メンバーより、”自分らがしっかり表現できる演目”を出したいという要望が上がっていることを知りました」
「表現というと、お前が伴奏にいきなり手を出して騒ぎになった合唱っていうのもあっただろう。合唱程度なら疋田も今回はいるし、五月から始動しても間に合うし、ほら藤沖や関崎もいる。立村が早めに吹奏楽のメンバーが希望していることを把握してくれたありがたいことだが、それをなぜ上に持っていかなかった。例えば藤沖や関崎、もしくは俺などに」
「申し訳ございません。僕も麻生先生のおっしゃる通り、藤沖、および関崎の下僕として動いていたつもりですが、伝わっていないようであれば失礼しました」
空気が一瞬かたまった。立村は気づいていないかのように語り続ける。
「僕が考えていたのは、吹奏楽部というよりも、二年A組の有志たちが”表現”をメインとした活動に関心があるのであれば、”どういう表現方法があるか”を迅速に調査する必要があるということでした」
━━俺たちの下僕? いや、麻生先生の言い分は違うと思うぞ。麻生先生はくすぶり続けた元青大附中評議委員長をなんとしても復活させたくて、規律委員会に押し込みたかっただけだ。なんでそうも悪く取るんだ。羽飛や難波もそりゃ心配する。
「”表現”というと、麻生先生のおっしゃる合唱であり、また子供たちの英語教室のようなコミュニケーションなども含まれるのは承知しています。調査を勧めるうちに、森宮さんのお父様が青潟南の演劇部顧問だということを耳にし、詳しい話を一部の二年A組有志で聞かせてもらう機会がありました。僕も同席しました。青潟の高校演劇というものは、青大附中評議委員会で僕が経験した”ビデオ演劇”とは明確に異なるものという教示を得ました。ここまでが四月上旬の出来事です」
ここで言葉を切った。
ざわめきが一気に立つ。
「うわ、もしかして”忠臣蔵”だよねあの!立村くんたしか⋯⋯」
「ここれは言わないほうがよし!」
「あ、そうそう本条先輩の勘平かっこよかったあ! ダブルキャストだったんだよねえ。大石内蔵助よりも似合ってたって感じ。お軽だれだっけ」
「A組事変トラウマもんの”奇岩城”も捨てがたいぞ」
「あれで天羽がルパンと呼ばれるようになったのさ」
乙彦もよく知っているネタである。大丈夫、内部生たちが気遣いしなくても余裕でかませる内容だ。
━━中学時代「忠臣蔵」で奇声上げて松の廊下を走り抜けた浅野内匠頭が、今目の前で冷静に説明を続けている。
お笑いネタ、青大附中評議委員会名物・ビデオ演劇。
そりゃ違うだろう。あれはお遊び、本気の高校演劇と比べるのは酷だ。
「その後、春期講習最中に英語劇をできる限り一般的な高校演劇と同じ方法で行いたい、という意見がまとまり、対象となる台本を選ぶことにしました。先程森宮さんが説明してくれた、一年五月頃に英語科特別授業で各個人が作成した舞台台本は先生の意向でコピー本として保存されていることを僕は知っていました。そこで、英語科の先生たちに許可をいただき、クラスメート全員の分を読ませていただきました。この件については、本来クラスの人たちに許可をもらうべきでした。僕の記憶では、将来演劇活動の参考にするかもしれないという説明を英語科の先生から聞いていたような認識だったのですが、記録には残っていません。申し訳ございません」
ここではクラスメート一同に向き直り、最敬礼をした。確かに事後承諾はまずいんじゃないかと思う。しかし誰も文句は言わない。隣の片岡も真面目な顔して立村の言葉を聴いている。
「一通り目を通し、最初はすぐにセリフを覚えられそうな簡単なものを選ぶつもりでした。また、麻生先生が懸念されたように、僕のひとりよがりにならないよう、有志一同にも協力してもらい、全員分目を通してもらいました」
━━勝ち目ないだろう。英語科万年トップ、立村の台本にはまず勝てない。
「ここまでが始業式前日までの展開です」
麻生先生に向ける立村の目つきが、どことなくあのねこのような見入る瞳に見えてきたのは気のせいか。壇上で一言もない藤沖、大丈夫か。乙彦はただただ見守るしかなかった。
「僕個人の好みでは、”十五少年漂流記”あたりが展開も観客を飽きさせず、盛り上がるのではと思ったのですが、現実問題としてキャストが十名近く必要なこと、登場人物が全員男子であること、練習時間やセリフの分量など含め残念ながら、今回の英語科デーに限っては断念しました。後ほど説明しますが、”十五少年漂流記”は何らかの形で上演する価値がある作品だと考えます」
隣の片岡をじっと見つめてやった。藤沖もおんなじように片岡へ視線を送っている。
やっぱり、片岡はぽっかんと口を開けている。
立村はずっと麻生先生あてに語り続けている。
「次に僕の作品がなぜ選ばれたかについて説明します。森宮さんの高い評価には感謝します。しかし、これだけはご理解いただきたいのですが、”グレート・ギャツビー”をあえて選択した理由はひとえに、英語科メンバーのストレスを大幅に減らせる、この一点につきます」
「ストレス? なんでだ。立村が片岡の”十五少年漂流記”がよいと考えたのなら、そのまま押し通すってのもあっただろう。それ以上にだ、自分の作品をそれこそ一人舞台できるくらい推敲したんだったら人の作品くらいお手のものだろう」
どうでもいいが麻生先生も、立村に対して皮肉がきつすぎる。
立村は感情見せず、静かに頷いた。久々にポーカーフェイスが決まっている。
「ひとつめの理由は、セリフの分量です。森宮さんがおっしゃる通り、”グレート・ギャツビー”の台本は非常にセリフが多いのですが、幸い僕は子どもの頃からこの作品を愛読しているので、現段階である程度のセリフは頭に入ってます。また昔から舞台度胸はある方なので、もしセリフが抜けてもごまかせます」
誰も驚かない。事実そのもの、立村の自慢になってない。ごく普通の立村の日常である。さすがである。
「僕が設定した登場人物は、主人公のギャツビーを除き四名です。うち二名は有志から希望者がいるので、異論がなければ決定したいと考えています。また、あと二名ですが了承をいただければ僕なりにお願いしたい人がいるので、これも上演が決定してから説明します。もし参加が難しい場合には、テープにセリフを吹き込んでもらうという方法も検討しています」
つまり、役者もほぼ決定しているということか。やりたいというのであれば、英語のセリフを覚える覚悟ももちろん持っているだろう。とするとやはり、立村に預けてしまうというのがベストなようにも思える。
「立村、テープにセリフを吹き込むだけでいいのであれば、藤沖や関崎でもできるだろう。まあ、お前が”グレート・ギャツビー”に、中学入学試験から命を賭けていたというのは中学の先生たちからも引き継ぎをもらっているし、今の激熱な説得については納得できないこともない。だが、本当に悪いんだが、”グレート・ギャツビー”あの話のどこが面白いのか、俺には全く理解できない。大人の教養としてもちろん読んだぞ。だが”英語科デー”という、青潟の中学生を青大附属の英語科に憧れもたせるための素材にはなりえないような気がするんだよなあ。藤沖、どう思う。やっぱり”十五少年漂流記”のほうが燃えるだろう、青大附属でこんなことやるんだって憧れたりするだろう」
「はい」
藤沖は控えめに肯定の意を示すのみ。気持ちはわからなくもない。
━━麻生先生も英語劇やっても構わないということなんだな。
最初は意地でも合唱に変更させたいと思っていたようだが、立村の熱弁と、片岡の”十五少年漂流記”が候補だったことも知って、気持ちが揺らいだのかもしれない。なんとしても片岡をクラスになじませたいと心を砕いていた先生のこと、きっとこのチャンスを逃したくないってことなのだろう。もったいない。だが、人数が必要というのは確かにネックだ。かくなる上は麻生先生の提案通り、”十五少年漂流記”をしっかりと作り直すのがベストか。しかし、”グレート・ギャツビーは、今まで報われないことの多かった立村がやっと主役を張れるチャンス、捨てさせるのはもったいない。
なによりも、グレート・ギャツビーを英語劇にすることが、英語科メンバーにとってストレスが少ない方法、なのか。よくわからない。
「麻生先生、ごもっともです。本来であれば僕も、せっかくの英語デー、受験生に夢を持ってもらうためにも、一般的な児童文学や漫画原作などを使う方が喜ばれるという自覚があります。ただしこれは、今やるべきことではなく、夏休みを有効に使い、高いレベルで完成させるべきものと僕は考えます」
立村は荒れない。とにかく丁寧に、受け入れつつ説得を続ける。
「話を戻します。ふたつめの理由は、本来活躍してほしい人材が一学期中非常に多忙であるということです。もし十五少年漂流記を演じるのであれば、主役級にどうしても藤沖と関崎はほしいところです。僕のイメージであれば、ブリアンとゴードン、もしくはドニファンあたりでしょうか。ですが本来人を引き付ける華を持つふたりは、応援団と生徒会、さらに青大附高の生徒として学業にも勤しまなくてはなりません。特に藤沖はこれから応援団員の教育および、体育委員会からの強い要望で各試合の応援に忙しいはずです。僕が委員会関係で情報を得ている限りですが、これから声をかけようとしている部活動が想像以上に多いと聞いてます」
いきなりクラスメートに振り返り、目だけで体育委員を見つめる。優しい眼差しだった。いつぞや杉本梨南を見下ろしていた時のものに近いと、乙彦は思う。すぐに女子の体育委員が立ち上がり説明してくれた。
「あ、すいません。そうなんです。三年の先輩たちからも藤沖くんにあとで応援団のことでぜひ前向きに相談したいって話聞いてます。ね」
相棒の男子体育委員も親指を立てて頷いた。今度は藤沖が口を半開きにしかけるが、慌てて顔を引き締めている。仕込みではなさそうだ。
「関崎は言うに及ばず、生徒会活動で多忙なのは誰もが理解しているはずです。このふたりに、現段階で負担を増やすのは、彼らの高校生活を犠牲にするとしか思えません。さらに」
立村の表情に険しいものが走った。すぐに消えた。
「本来、このような提案は評議委員が揃った環境で行うべきです。しかし現状、女子評議の代行を立てることも昨日の段階で中止となった以上、まず五月の宿泊研修および、球技大会、そして英語科デーという大きな行事を乗り切るために、あえて提案させていただきます」
立村が教壇に昇った。「おい、どうした」とあせり声を上げる麻生先生を無視し、白いチョークを手にした。小声で藤沖に「悪い、少しだけ譲ってくれ」とささやくのが聞こえた。手慣れた調子で黒板に箇条書きし始めた。
・二年A組演劇有志グループ
・女子評議委員代行
・宿泊研修
・球技大会
・英語科デー
・夏休み以降
うち、「宿泊研修・球技大会・英語科デー」を丸でくくり、
「緊急、この三つの行事を、今回二年A組有志グループに手伝わせていただきたい。また、古川さん不在の間の女子代行を、疋田さんにお願いしたい。そして英語科デーで行う英語劇の目的を申し上げます」
大きく、黄色いチョークでなぐり書きした。
和歌を書くような女手の文字が、黒板を踊った。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
リハーサル
⋯⋯⋯⋯⋯⋯
「リハーサル?」
藤沖が毒気を抜かれたように呟いているのが聞こえた。
「リハーサルってなにを?」
片岡も乙彦の腕を揺さぶり問いかける。
「今回の英語科デーにおける英語劇であえて”グレート・ギャツビー”を取り上げるのは、秋以降さまざまな文化行事に二年A組のメンバーが、望む方向に進んでいけるようにするための実験とも言えます」
立村の声にぶれはない。
「”グレート・ギャツビー”の評価は演出・主役・脚本を担当する僕、立村の責任です。またこの件は麻生先生や藤沖、関崎の意向を無視し、演劇有志グループの判断で進めた案件です。クラスの乗っ取りと思われてもしかたありませんが、少なくとも僕以外の戦犯はこの教室にはいません。クラスに一番傷をつけない方法で、二学期以降本当にやりたいことをそれぞれが見出し、本来上演したいと思っていた作品や音楽を今までにない方法で”表現”するための、リハーサルです。リハーサルということは、本舞台が存在します」
麻生先生と藤沖を見つめ、立村は言い放った。
「二学期以降、僕は二度と表舞台に立つことはありません。それが、演劇有志チームの皆さんに提示した、今回”グレート・ギャツビー”の主役を演じる条件です。秋以降は、本来二年A組で活躍すべき関崎と藤沖、そして古川さんに返します。リハーサルとは、そういう意味です」
教室内全員のまなこが麻生先生に向けられている中、立村の言葉に逆らうことはできなかったのだろう。
「わかった。立村が俺の想像のはるか彼方まで、青大附属高校二年A組のことを考えてくれていたというのはよく理解した。あと、今回はあくまでも”リハーサル”であり、今後の”本舞台”のために、自ら泥をかぶる覚悟をした、というのもよくやったとしか言いようがない。だが、関係のない周りの生徒を巻き込みすぎてないか? いや、お前の情熱に引き込まれたのは仕方ないとしてもだ。リハーサルを行うのは自分一人でいいんじゃないか。それこそ、一人舞台でも。宿泊研修についても藤沖がいるし、古川が戻るかもしれないしだ。疋田への負担も軽くない⋯⋯」
なんとか最低限の譲歩に止めようとしている様子がうかがえるが、森宮の一声がまた飛んだ。THE・女教師と読んでやりたい。
「先生、とりあえず上演するかどうかだけ、藤沖くんに決取ってもらっていいですか。これが評議の仕事でしょうし」
突如湧く爆笑。江波が聞こえるように囁いている。
「まさに、これぞ”評議の仕事”だよな」
むっとした表情で睨む藤沖も、気を取り直したのか背を伸ばした。立村が教壇におり、自席で起立したまま待機するのを見届け、
「では、今立村から出た、英語劇上演の件、賛成の者は起立願います」
太い声で決をクラスメイトに委ねた。
全員が立ち上がった。乙彦はもちろん、隣の片岡も。
「では、六月末の英語科デーにおいて、英語劇を、演劇有志グループの主催により上演することに決定しました」
同時に華やかな拍手が湧き上がった。
「ついでに立村くんが提案した件もお願いします」
息もつかせずに森宮が急き立てようとする。藤沖も慌てて声を上げようとしている。
━━これはまずい。
乙彦はもう一度挙手をし発言を求めた。
「英語劇上演は両手を挙げて賛成する。それはいいんだ。ただもうひとつの件だが、俺は立村に聞きたいことがある。時間もらえないか」
藤沖の表情に安堵感が浮かんだのを見逃しはしなかった。
女教師モードの森宮も、抵抗することなくあっさり譲ってくれた。
「確かに。納得してもらってからのほうがいい。関崎くん、思う存分言っちゃって」
立村は乙彦に向き直り、穏やかな表情で促した。
「聞きたいことがあったらちゃんと答えるから安心してほしい」
「お前のことは信用している。だから聞きたいんだ」
遠くで話すのは正直きつい。立村の側に近づくため、斜め前の席まで進んだ。
「立村が俺や藤沖のことを思いやって、あえて自分の立つ英語劇を”リハーサル”にするのは、正直卑屈すぎるんじゃないかと思う。また、もう二度と表舞台などというのも、違うと思う。俺や藤沖は確かに忙しいし英語劇の手伝いや役者をするのは正直しんどい。だが、それでもクラスにしっかりと根っこを張って仕事していきたい気持ちはある。同時に、今立ち上がってくれた立村が、二学期以降また影に隠れてしまうのはどうしても受け入れられない。この点はどうか訂正し、二学期以降も積極的に表舞台に立つと言い直してほしい」
決して立村の提案が間違っているとは思わないし、本当だったら何も言わず賛成したい。
しかし、今回”グレート・ギャツビー”を上演する条件が立村の二学期以降のご隠居宣言だとしたら、それは絶対に取り下げていただいたい。同時に乙彦や藤沖が忙しいという理由で、本来あるべき姿の英語劇を上演できない状況であれば、それはなんとしても打破したい。役者になることは無理かもしれないがせめて裏方で協力するとかなにかはしたい。この二点を訂正してもらえれば、多少元気が有り余っている疋田が古川の代理になることも受け入れよう。疋田だけじゃない、二年A組演劇有志チームが古川のいない間、さまざまな手伝いを行うことも感謝して受け入れるつもりだ。藤沖も正直古川がいないので面白くないだろうが、あのアジビラ事件を考えれば戻ってくる可能性は非常に低いか、戻ってきても相当遅い時期になるだろう。
立村の男気をまっさらな気持ちで受け入れたいからこそ、どうしてもこの二点は受け入れられない。訂正を要求する。
「いやこれは、ちゃんと演劇有志チームのみんなにも了承してもらったことなんだ。だから」
「いや、お前はちゃんと二年二学期、三学期、三年以降もしっかり表舞台で活躍してしかるべしなんだ。余計なことは言わない。そこだけ取り下げてくれ」
首をゆるやかに振る立村に、乙彦がさらに言い募ろうとした時だった。
「関崎、今それ言うことじゃねえよ。てか、今は俺達有志チームに任せろよ」
ひょいと立ち上がったのは江波だった。
「お前が立村に前言撤回させたい気持ちはわかる。俺たちもずーっとそれ思ってたからわかる。けど、結果はちゃんと出る。この一学期で俺や疋田や吹奏楽チームがきっちり結果出してやる。関崎は生徒会でやるべきことあるだろ。それ、しっかりやりきって、余裕があれば手伝ってくれたらそれでいい」
「だが、それはあまりにも手抜きだ」
「いいのいいの。俺はさ、だれかれつっかかってるわけじゃあねえの。正直いろいろ思わないわけじゃあねえけど、とにかく古川姐さんこと下ネタ女王様が帰還するまでの間は俺たち有志チームが全力で宿泊研修と球技大会と、あと例の英語劇、立村の命において、サポートするよ。その結果で判断してくれよ。ただ言っとくが」
藤沖を睨みつけた。
「夏休み前には結果出すからな。その上で改めて俺は、藤沖に進退を問う」
「おい江波黙れ」
麻生先生が厳しい声で注意するも、江波は無視して席についた。
「江波、藤沖がクラスのために昨年、応援団の準備をしながらどれだけ努力してきたか気づかなかったのか。立村が気まぐれにいろいろ手を出してそれが結果を出しているというのは俺も認める。よくやっているとは思う。だが、一年間こつこつと努力を重ねている藤沖に対してお前の言葉は侮辱にしか聞こえない。藤沖に謝れ」
「気まぐれに色々手を出して、ですか。わかりました。藤沖くん、言い過ぎました。ごめんなさい」
わざとらしく子供っぽく一礼する江波を、麻生先生は苦々しく見下ろしていた。
━━やはり、去年からの小火は消えていない。
合唱コンクール以降、A組で一番立村と仲良く接しているのが男子では江波だという事実を、乙彦はどうしても認めたくなかった。
「それでは先程の件を決取ります。賛成の方は起立願います」
唇を噛みしめ藤沖が、言葉を絞り出すように可決を促した。
全員が立ち上がった。
それが答えだと思うしかなかった。




