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7 どんでん返し(8)

 一夜明け、バイトを済ませ、そのまま二年A組の教室へと向かった。

 足取りは正直言って、重たい。

 ──女子はだから面倒なんだ。

 もやもやするものをすべて片づけることができず、ただひたすらいらだつのみ。遠目で静内の姿を見かけたがあえて声をかけずにきた。

 ──一時間だけと言ったからな、ちゃんと付き合ったぞ。

 あの時だけだ。静内の様子が普段になくおかしかったから話をしただけだ。だが、それさえ終わればもう用は済んだはずだ。乙彦なりに筋は通したつもりだ。思うところは山ほどあるが、あえて触れずに伝えたつもりだ。

 ──だが。

 ああでも言わなければ静内を黙らせることはできなかっただろう。

 ──もし古川が退学したのであれば、静内の言い分を事実として受け入れざるを得ない。

 乙彦はすでに古川から、ある程度事実であることを聞かされている。当の張本人からであれば、申し訳ないがかばうことはできそうにない。名倉も中学時代の仲間と一緒にその事実を露わにしようとしている。戻ることはほぼ難しいと言っていいだろう。


「おはよう、関崎」

 すでに席についていた立村が、珍しく乙彦の机の脇に立った。

「少しだけいいか」

「ああ」

 話の内容は予想がついていた。女子評議をどうするか、という朝の大問題だろう。立ち上がり、廊下に出た。階段の踊り場まで歩いていく。今日は週番担当でないらしい。

「昨日のことなんだけど。ほら、疋田さんが話していた例のこと」

「だいたいそうだと思ったが」

「なら話が早い」

 立村はこくりと頷き、すれ違う他の生徒たちに聞こえないように声を潜めた。

「昨日俺が提案した案、関崎はどう思う? 正直なところを聞かせてほしい」

 乙彦が問いかけた質問への答えは、確かに立村から受け取っていた。じっくり考えるのを忘れていたのはすべて静内のせいだと、思わず舌打ちする。

「悪くはない。だが、仕事の分担を決めるのに時間がかかりそうな気がする。その時間がもったいない。考えてみろ、ゴールデンウイークが終わったらすぐにクラス合宿だ。部活動も本格化する。生徒会もそれなりに動く予定がある。あっという間に一学期が終わるんじゃないのか」

「それは言えてる。ある程度分担の目安は俺もまとめてあるから参考にしてもらえばいいよ。疋田さんにも話したけど、すべてを引き受けるのは大変だから一部だけにしとけばいいと思う」

「疋田はそれでいいと思っているのか?」

 気になったことを尋ねた。どうも疋田のやる気が暴走気味で、藤沖もへきえきしているのが見え見えだからだ。

「全部やりたいだろうな。最終的にはそれもひとつの案だと思う」

「だが古川は」

「だから、古川さんが戻ってくるという前提で一学期、疋田さんに『手伝ってもらう』ことにすればいいよ。あくまでも『手伝い』なんだから余計なことを言う必要も話す必要もない。そのうちにたぶん、ある程度の結論が出るとは思うんだ」

 また周囲を見渡す。タイミング悪く天羽が通りがかる。

「よっ、立村ちゃーん、おひさ!」

「久しぶり」

 軽く手を挙げて答える立村を、興味深げに見つめながらも顔を突っ込まずにC組へと向かう。

「ある程度の結論とは」

「わかっているだろう」

 じっと乙彦を見据える。

「これ以上は難しいよ。本人の問題じゃない。家庭の問題だ。もっというなら、かかわっている教師の問題でもある、のかな」

「教師か」

「完全に口留めされていればなんとかなったかもしれないけど、もう俺の耳にもいろんな噂が流れてきているんだ。根も葉もないことではないけれども、そこまで知られている中で、果たしてやっていけるのかってところだよ」

 おそらく静内が話した程度の内容が、一般生徒の間でも流れているということなのだろう。名倉が意図的に仕組んだこととはそれなのかもしれない。

「どちらにしても、今古川さんが戻ってきていいことはひとつもない。ずたずたに傷つくだけだよ。嘘八百ならばいくらでも助けられるけれど、嘘じゃないんだよ。本当のことばかりなんだよ。この学校で針の筵に座るのと、そっと姿を消すのと、どちらが彼女のためになると思う? 俺は後者だと思う」

 

 そこまで立村は早口にささやき、A組の教室に向かって走り出した。どうやらそこには羽飛がいたようだ。すぐに腕をつかみ何やら話始めている。乙彦も挨拶がてら手を挙げて教室に向かうも気づかないようだった。


 ──立村の言うことは間違っていない。

 やりきれないことだが、今のA組に古川が戻ってくるのはきつい。

 ──これは、立村の案を受け入れるしかないか。

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