2 明け渡しカウントダウン(20)
「ああ、確かに言った」
いきなり問い返されたが、今の立村からであれば乙彦も真摯に答える義務がある。
「しつこいようだが、生徒会長としてはだ」
「無理しなくていいよ、よくわかってる」
はにかむようにうつむきつつ立村は、改めて乙彦に向き合った。
「外から見ている限りだけど、本来はあの人も評議ではなく生徒会に行くべきだったんだよ。中学では評議委員会が幅を利かせていたからその中で収まっていたけど、もしきちんと生徒会が中学で機能していたらすぐにお声がかりがあったと思うんだ。これは清坂氏だけではなくて、羽飛にも言えることだけど」
「あみだで生徒会長どっちにするか決めたらしいな」
「どちらになってもうまく言ってたと思うよ。まあ、清坂氏は女子だから注目度はどうしても高くなってしまうけど、それはまあしょうがない。羽飛が生徒会長だったら副会長が清坂氏に代わっているだけで、今とほとんど、状況は変わらなかったと思う」
そんなものなのか。立村の着眼点には頷けるところと首を傾げたくなるところ、それぞれがまじっている。いつもの乙彦であればいろいろ口を突っ込みたくなるのだが、古川邸の玄関だととことん立村の視点からみた学校事情を聞き出すのに専念したくなる。ここかしこにたたよう古川こずえのオーラ、恐るぺしといったところでもある。
うっかりへそを曲げられないように、用心深く問いかける。
「立村、ここだけの話でいいんだが、これからうちの生徒会はどう動いていくと思うか? 後輩たちの話は抜きにして、お前が外から見て感じたことを聞きたい。無責任でいい」
「無責任でいいのか? 本当にそれでいいのか」
乗ってきた。本当に今の反応は立村としては珍しい。
「俺は誰にも言う気はない。ただこの学校を良くしたいだけだ」
「風通しを良くしたいということだよな」
独りごちたのち、立村は息を止めるように唇を結び、
「うまく言えないけど、とりあえずは秋まで様子見でいいと思うよ」
「お前が役員ならそうするか」
「生徒会長だったとしてもそうするよ」
きりりとした眼差しで立村は答えた。
「秋の改選まで半年ある。そのうちに後輩たちの目星もついてくるだろうし、関崎は抵抗あるかもしれないけど、裏で手回しも必要になる。立候補したがらない相手をなだめすかしたりとかね。でも、一番重要なのは」
しばらく立村は躊躇した。急かしたくなる。
「これ、言っていいのかな」
「男ならばいいかけたことをごまかすのはよくない」
力強く乙彦が言い切ったのも、背中を押したのかもしれない。
「そうだね。今生徒会に必要なのは、いつやめても逃げ出してもいいって伝えることじゃないかな。清坂氏含めてだけど。このまま壊れる前に、助けを求めて脱出してもいい環境を整えること、これは大事だと思うよ」




