2 明け渡しカウントダウン(19)
「だから、今はなにも言えないよ」
乙彦が我慢強く返事を待っていると、立村もあきらめたのかめんどくさそうに答えた。
「もし誰か候補がいたとしても、他の人に嗅ぎつけられたらまた余計な手間が増えてややこしくなるよ。実体験からしてそう思うしね」
「実体験?」
あっさり立村は説明した。
「俺が評議委員長候補に挙げられてから一年あまりどれだけ苦労したか、噂で聞いてないか?」
「確かに青大附中の評議委員会はわけのわからぬことしていると思ったが」
就任一年前に、その時の評議委員長がお気に入りの後輩を指名して一子相伝でしごくといった話を聞いたことがある。立村の場合はかの本条先輩だった。
「本条先輩には口では言い表せないほど感謝しているつもりだけど、やはり、辛いことは多かったな」
「たとえば」
立村の口から聞きたかった。
「そうだね、たとえば、本条先輩ならかんたんにできることが俺にはできないとか、周りの人は本条先輩の指名した後輩なのだからそれなりに期待するけど俺には答えられないとか。あと、やはりそうだな、本条先輩を失望させてしまったのが、一番堪えたよ」
「失望させたってなんだそれ」
「本来であれば俺は、評議委員会を生徒会よりも上に持って来て権力を保たせるべきだったんだろうな。本条先輩もレールを引いてくれていた。それに乗っていけば楽なように準備もしてくれてた。余計な敵が出てこないように後始末もしてくれてた。いたせりつくせりなはずだったけど、俺は全部それをひっくり返して、ろくに後始末もしないで、あとは天羽に押し付けて高校に逃げ出したというわけなんだ」
悔いているのだろうが、どことなく立村の口調は日差しが差しているようだった。
「お前はそれで、後悔していないのか。いや、もしあれならもう一度やり直すために高校でなにかするとか考えていないのか」
「後悔? ないね、全くない」
立村は言い切った。無理はなかった。
「本条先輩を落ち込ませたのは申し訳ないと今でも思っているけど、あの時に生徒会ときっちり手打ちしたのは間違っていない、これは絶対否定しない。本条先輩みたいな天才が毎年現れるわけないじゃないか。俺みたいな救いようない奴が評議委員長になるなんてことも滅多にないけど。中間に位置する奴が気持ちよく動けるようにして、生徒会ともいい関係を作って、それでやっていくのが長く続くんじゃないかな」
「それなら、今の生徒会事情はどうなんだ? 後輩たちはくだらんことで右往左往しているが」
春休みのばたばたを思えば問わずにはいられない。
立村はうっすらと微笑みながら答えた。
「全く別の問題だよあれは。裏では色々あるけど、少なくとも学校側と生徒会あと評議委員会とは連携が取れている。もう少し学校側の押しつけが緩ければと思うところもあるけど、霧島はそれなりによくやってるよ。だから、庇ってもらえたのかもな。関崎だから言うけど」
突然話を変えてきた。
「この前話してたよな、清坂氏が生徒会長であることはわるいことではないって。」




