2 明け渡しカウントダウン(2)
──片岡の家と同じロックの仕方をしているな。
いわゆる「オートロック」というものか。古川はカードらしきものをかざしてエントランスホールに入り、そこからエレベーターに乗り込んだ。引っ張られるがままについていき、招かれた先は、
「今ねえ、荷物まとめてる最中なんだよね。とりあえず上がって」
かなり広い玄関には天井近くまで来るくらいのダンボールが山積みされている。かろうじて身体をすペリこませるだけの余裕はあった。
「これ、ひとりでやっているのか?」
「まあね。でもだいぶ進んだよ。最初はどうなることかと思ったけどね」
さらりと話し、古川は乙彦を心持ち広めの部屋に案内した。開けてみるとやはり荷物の山であることには変わりなかったが、部屋いっぱいに青々とした植木がたくさん並んでいる。かなり背の高いものが多く、ゴム、ヤツデ、その他名前の知らない植物で溢れかえっている。
「人呼んでジャングル。今、まじでそんな感じだけど、ほら、その辺に適当に座ってよ。なんか食べ物持ってくるからさ」
「そんなことより、力仕事であれば手伝う。俺と無駄話するよりもまず作業だろう。今日引き渡すのか?」
ある程度片付いていることは確かだが、女手ひとつでまとめるのは大変だろう。
「誰もいないならなおのことだ。せっかく藤沖に連絡したのだからなんで頼まなかったんだ? 二人男手があればかなり片付くぞ」
「サンキューなんだけど、もうほとんど終わってるよ。うちの家族が今いないのは、仮住まい先の準備でてんてこ舞いだからだし。ほら、うち、弟いるじゃん? あいつの学校の手続きとか、その他色々面倒なことがあるのよ。藤沖から聞いてない?」
「ある程度は話を聞いた。大変だろうとは思う。だがこの荷物いつ運ぶんだ?」
「夜に引っ越し屋さんが運び出してくれるはず。鍵は始業式前に返せればいいなとは思ってるんだ。一応、家賃は来週いっぱいの日割りになってるからね」
古川はいったん引っ込んだあと、缶コーヒー二本とポテトチップスを一袋持ってきた。すでに梱包されたテーブルの上に載せた。
「いつもだったらね、それなりのお菓子とか用意してたんだけどなんか悪いね。こんなスナック菓子だったら大量にあるからリクエストしてよ」
「繰り返すが気を遣うな。話が終わったらとにかく掃除とかゴミ出しとか手伝えることあるだろ、なんでも言え」
乙彦の生真面目な言い方に受けたのか、古川は声立てて笑い、
「まあね、そんなに言うんだったら甘えちゃうかもよ。じゃあまずは、話だよね」
缶コーヒーに口をつけた。
「まあ、藤沖からある程度は聞いてると思うけど、家庭の事情があってしばらく学校に行けなくなるかもしれないんだよね」
「聞いている。藤沖は心配していた」
「やはり? 藤沖、面白いくらい親身になってなんとかできないかできないかって、聞いてくるんだけどさ。ありがたいんだけど、今のところ何かってのはないね」
あっけらかんと、古川は語り続ける。
「とりあえずやるべきことは今、私もやってるとこなんでね。あ、それと誤解があったらまずいんだけど、私はしばらく学校へ行けなくなるなるかもとは言ったけど、退学するとは話してないからね。少なくともすぐにってことはないから。藤沖、先走り汁出し過ぎ、ねえ」
この部屋に入って初めての下ネタをさらりとかました。




