第15話:『本当の体、本当の誓い』
【ひなたの部屋・深夜】
視界が激しく明滅し、重力の感覚が正常に戻る。
床に倒れ込んだ衝撃とともに、つばさは自分の「大きな手」が、ひなたの「細い肩」をガッチリと掴んでいる感触に気づいた。
「……ひなた?」
「つばさ、くん……?」
見上げるひなたの瞳。見下ろすつばさの視線。
それは鏡越しでも、入れ替わった視点でもない。
「本物のつばさ」が、「本物のひなた」を床に押し倒している……という、客観的に見て言い逃れ不能な状況だった。
「も、戻った……! やった、戻っ――」
歓喜の声を上げようとした、その時。
(ガチャッ!)
「ちょっと二人とも、夜中に騒がしいわよ……って」
ドアを開けたのは、ひなたの母親だった。
静まり返る室内。
街灯の光に照らされた、床で組み合う幼馴染の男女。
「…………つばさくん?」
母親の声が、氷のように冷たく響く。
「な、何を……してるのかしら、こんな時間に。うちの娘に」
「あ、違うんです! おばさん、これは……!」
ひなたが慌てて起き上がろうとするが、つばさは逆に、ひなたの肩を抱き寄せるようにして、母親の視線を真っ向から受け止めた。
ここで逃げたら、さっきの告白が嘘になる。
つばさは膝をつき、ひなたを背にかばうようにして床に頭を下げた。
「おばさん、すみません! 深夜に部屋に押し入るような真似をして……。でも、これだけは言わせてください」
つばさの声は震えていたが、力強かった。
「俺たち、付き合ってるんです。……いや、たった今、俺が告白して、付き合うことになったんです!」
「えっ、つばさくん……」
後ろでひなたが息を呑む。
「家の事情で一緒に住むことになって、最初は戸惑いました。でも、一緒に過ごすうちに……ひなたの本当の良さを知って、俺、お前以外とは付き合いたくないって思ったんです」
つばさは顔を上げ、母親の目を真っ直ぐに見つめた。
「今はまだ、こんな情けない姿かもしれません。でも、俺……ひなたのことを、必ず幸せにしますから! だから、俺たちのこと、認めてください!」
静寂が部屋を包む。
ひなたの母親は絶句し、背後のひなたは顔を真っ赤にしてつばさの背中にしがみついた。
「……つばさくん、あんたねぇ」
母親がため息をつき、頭を抱える。
「……そんな顔で言われたら、怒る気も失せるわよ。でもね! 順序ってものがあるでしょ、順序が!」
その夜、リビングに両家の親が集められ、深夜の「緊急家族会議」が開かれることになった。
元の体に戻れた喜びと、親への決死の報告。
二人の新しい関係は、嵐のような幕開けとなった。




