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【8巻4/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第10巻 打ち出の小槌

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280話 大名行列

 五狐が潜む竹藪は、静謐な空気に包まれていた。

 風が竹の葉を揺らし、かすかに葉擦れの音を立てている。

 火を付けない煙管を弄びながら、亀太郎が呟く。


「お殿様は、まだか」

「まだ遠いわね」


 おとんが狐耳を澄ませながら、首を横に振った。

 大名行列は、馬蹄の音や、金属が触れ合う音などが響く。

 それでも山の地形と、柔らかい足場に吸収されて、音は届いてこない。


「あと7町(700メートル)くらいだね」

「ねえ姫松、それってどうやって察知しているのかしら」


 容易く看破して見せた姫松に、おとんが呆れ顔で尋ねた。


「道案内に手下の妖狐を付けているんでしょ。それを感知しているよ」

「隠形が一番上手い奴を、選んだんだがな」


 藤内が愚痴っていると、やがて山道の奥に人影が見えた。


「ほら、来たみたい」


 姫松が目を細める。

 先頭を歩くのは、道案内を務める藤内の手下の妖狐だろう。

 地元の人間に化けており、何食わぬ顔で歩いている。


 その後ろに続くのは、30人ほどの集団だ。

 馬に乗った殿、槍組8人、弓組4人、鉄砲組5人、犬追者3人と犬7匹。

 そのほかに仕掛け網を張る網持ち4人、荷運び5人に馬3頭である。


「まあまあ立派だな」


 米子荒尾家は、家禄1万5000石で、城代を務める家老だ。

 体面もあるだろうし、身代に見合った出で立ちをしている。

 狩りの帰りだからか、馬の背には狩った鹿を積んでいた。


「犬は面倒ね。鉄砲も、当たると危ないわ」


 大名行列との戦闘でも想像したのか、おとんが眉を顰めた。

 もっとも妖狐だからといって、それだけで人間に撃たれたりはしない。

 理不尽なことをすれば、大名であろうと報復がある。

 妖狐や妖狸が撃たれるのは、悪さをして、退治をしても横槍が入らない時だ。

 おとんの場合、人の頭を丸刈りにするので、それなりに危ないが。


「本物の殿様だね」


 姫松が興味深そうに呟いた。

 行列の中ほどに、立派な陣笠を被った侍が見える。

 狩りの成果に満足しているのか、一行は弛緩した空気を纏っていた。


「さて、狸どもが動くぞ」


 藤内が愉快そうに笑みを浮かべた。

 行列が竹林の前まで差し掛かったところで、竹藪から妖狸達が、ぞろぞろと現れた。


 先頭に立つのは、立派な腹をした老狸だった。

 妖狸は、妖狐のように尾が増えたりはしない。

 分福茶釜で有名な茂林寺の古狸・守鶴も、二千歳を数えて久しいが、一尾である。

 だが諺では『狐七化け、狸は八化け』と、あたかも狸が優れているかのように伝わっている。

 一樹としては、守鶴と玉藻前しか比較していないのではないかと言いたいが。


「おい、そこの行列」


 先頭の老狸が、尊大な態度で声を掛けた。

 行列の先頭を歩いていた道案内の妖狐が、あからさまに驚いた様子で立ち止まる。

 その後ろの従者達も、突然現れた人影に戸惑いを見せた。


「何者だ」


 従者の一人が警戒した声を上げる。

 老狸は、ふんと鼻を鳴らした。


「脇差がちんけで甘いな。本物の大名行列は、もっと立派な拵えの刀を差しているものだ」


 老狸が馬鹿にすると、周囲の妖狸達もゲラゲラと追笑した。

 従者達の顔色が変わる。


「何を申すか。我らは、米子荒尾家の供回りであるぞ!」


 従者の一人が、憤然として言い返した。

 だが老狸は、聞く耳を持たない。

 案内役を務める妖狐の頭に手を乗せて、バシバシと叩きながら嘲笑う。


「ふふっ、まこと見苦しい行列だ。その程度で我らを感心させることはできぬわ」


 人の姿をした案内役は、悔しそうに大名行列を振り向いてみせる。

 すると従者達の間に、怒りが広がっていった。

 馬上の殿も、みるみるうちに表情が険しくなっていく。


「無礼な」


 低く呟いた殿の手が、脇差の前で泳ぐ。

 だが妖狸の集団ともなると、中鬼に率いられた小鬼ほどの脅威はある。

 殿が周囲に目配せをする。

 鉄砲を担いでいた者達は、静かに準備を始めた。


「おい半人前、そろそろ馬から下りたらどうだ」


 老狸が、さらに尊大な態度で言葉を続けようとした、その時だった。

 パン、パンッと乾いた音が、周囲に立て続いた。

 至近距離で頭部を撃ち抜かれた老狸が、崩れ落ちていく。


「頭あっ!」

「藤内が、鉄砲を撃ってきやがった」


 手下の妖狸達が、悲鳴を上げた。

 この期に及んで妖狸達は、未だに大名行列を藤内と手下の狐達だと思っていた。

 妖狐と人が入り交じっていたなど、想像だにできないらしい。

 従者達が、一斉に刀を抜いた。


「者ども、斬り捨てよ!」


 殿の号令が響いて、従者達が妖狸の集団に斬り掛かっていった。


「ひいっ」


 機先を制された妖狸の何匹かが、逃げ惑った。

 対等な力を持つ妖狐達だと思っていて、自分達の長を倒されたのだから、無理もない。

 だが中には、応戦しようとする者もいた。

 従者の一人が、妖狸の爪に引っ掻かれて、悲鳴を上げる。

 別の従者が、妖狸の蹴りを受けて、吹き飛ばされた。


「ああっ、少しまずいね」

「人間が負けそうだな」


 姫松が眉を顰めると、亀太郎は煙管を取り出しながら、他人事のように評す。

 もちろん他人事なのだが、そもそも首謀犯は妖狐だ。

 人間がすべてを知れば、お前らのせいだと怒るだろう。

 肝心の藤内はどうするのかと見渡すと、白銀に輝く毛並みの妖狐が飛び出していった。

 そして幻術で姿を隠しながら、大名行列に紛れ込んでいく。


「総泉寺の藤内、ここに有り!」


 藤内は、最初から大名行列に居たと言わんばかりの態度で、妖狸の一匹を蹴飛ばした。

 そのまま人間達に加勢して、戦いを始める。


「藤内。貴様、卑怯な真似を!」


 妖狸の一匹が叫ぶと、藤内は嘲けた。


「化かすと言っただろう。約束通りに化かした。何が悪い」


 そう言いながら、藤内が狐火を放った。

 妖狸も狸火で応戦するが、1対1では藤内が有利だ。

 もっとも妖狸は、沢山居る。


「仕方ない、加勢するか」


 覚悟を決めた一樹が、竹林から飛び出した。

 姫松と亀太郎も、後に続く。

 三狐は藤内のように幻術で姿を消して、大名行列に居た風を装いながら、参戦した。


「くっ、貴様ら藤内の手下ではないな」


 ナワバリ争いで見ない顔だからか、二尾の力を感じ取ったのか、妖狸が焦った声を上げた。

 一樹は、相手を突き飛ばし、狐火で尾を焼いて、今にも倒されそうだった人間を助ける。

 姫松も、地面を踏み鳴らして、土行で足場に穴を空け、妖狸達を転がした。

 亀太郎は、煙管から何かが染み込んだ煙を吹き出して、妖狸達の目を潰した。

 三狐の加勢によって、妖狸の集団は、瞬く間に押されていった。


「逃げろ、逃げろっ!」

「総泉寺に引き上げるぞっ」


 妖狸達が、四方八方に散っていく。

 やがて戦場には、倒れた妖狸と、呆気に取られた大名行列だけが残った。


「一体何事だ」


 殿が、困惑した様子で呟く。

 道案内の妖狐が、慌てた様子で説明を始めた。


「お殿様、こいつらは総泉寺の裏手に住む妖狸達でございます。昔から悪さをしております」

「……そうか。それで、この者達は」


 殿は、困惑しながら藤内達のほうを見る。

 すると加勢していなかったおとんが、しれっと前に出た。


「恐れながら。わたくしは、鳥取藩に仕える妖狐・桂蔵坊の妻にございます」

「これは一体、どのような次第であるか」

「申し上げます。この者達は、夫の知人にございます。用事で会っておりましたら、このような場に遭遇しました。そこで彼らは、慌てて加勢したのです」

「なんと、そうであったか」


 おとんが、嘘八百を並べ立てた。

 いや、嘘ではない。

 一樹や姫松は、桂蔵坊の知人である。

 おとんが姫松の用事で会っていたのも事実だし、このような場に遭遇したのは、おとんの想定外だったかもしれない。

 一樹が慌てて加勢したのも、そのとおりである。


「皆様、お怪我はございませんでしょうか」

「そうであった。怪我をした者の手当てをせよ」


 おとんは、自身は無力な女のように振る舞った。

 そして夫の知人達が加勢したようですと、第三者的に証言を補強していく。


 後日、妖狸が化けて出て「てめえ、ふざけるな」と怒るかもしれない。

 百歩譲って化かしたところまでは許せても、騙し討ちされたのは、許せないだろう。

 だが狐火で念入りに焼いておけば、復活までは時間が掛かる。

 人間が数世代も代替わりしてから文句を言ったところで、後の祭りだ。


 ――人間側の沙汰は、狸が悪いで決着かなぁ。


 狐狸のほうは、その決着で収まりが付くはずがない。

 逃げた妖狸が方々に知らせて、やがて仕返しをしに来るだろう。

 その光景を思い描いた一樹は、いつもの狐狸だと、割り切った。


「見事な加勢であった!」

「恐れ入りますわ。それにしましても、なんとも恐ろしい狸共でございました」


 こうして妖狸による大名行列の襲撃事件は、狸が悪いということで幕を閉じた。

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― 新着の感想 ―
まぁこんな争いを昔からやってたら仲が糞悪い訳だな。
1万5千石でそんなに人数揃えて大丈夫?と最初思ったけど 逆にそんな人数で狩りに出て大丈夫?な世界だった
汚いなさすがキツネきたない。
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