第9話 歯痒い気持ち
次の日、あの件を口にする人は誰もいなかった。
ギルド職員は仕事の最中、どこか上の空になり、悔しさを滲み込ませていた。
「クソ……」
被害者も犯人もわかっているのに、全てが想像の中だけで証明できない。
その歯痒い気持ちと、彼女を犯人にしてしまった自身の無力さをどうしても許すことができなかった。
女性冒険者達はあえて事件のことを触れないようにしていた。
マコの気持ちがわかるからだ。
愛する人を殺された怒り、殺さなければ自分が犯されるという恐怖。
自分達はまだ戦う力があるから良かった。
だが、彼女はそうじゃない。
彼女にとって今までが悔しくて怖かった筈だ。
それが計画は成功し、二度と怖い思いをしなくて良くなった。
もう放っておいてもいいのではないかと思う人も少なくない。
「……うーん」
カナイチはどこか納得いかない顔をして頭をぐしゃぐしゃと掻き回している。
「カナイチも流石に行き詰まったのね」
「アドラン」
「カナイチが悩んでいる時は頭を掻き回す癖があるからね」
「正直……
……でもさ、どこか気持ち悪いんだよね」
「気持ち悪い?」
「証明できないって言われた時……
何か見落としていることがあるんじゃないかって思って……
胸がざわつくんだ……」
「……カナイチ諦めてないの?」
「うん。
完璧な犯罪はない。
絶対にどこかに彼女が犯人だって証明できるものがあるよ」
「カナイチ……」
「でも、それを言ったら他の人に止められるかも知れないね。
今じゃ、放っておく方が正しい感じだし……」
「……そう言って納得するカナイチじゃないでしょ。
カナイチがそういうのなら私も付き合ってあげるわよ」
「……モノ探しはぶつぶつ言うのに?」
「それはそれ!
これはこれよ!」
「ははっ、ありがとうね」
「おーい、カナイチ!」
そう言って呼びかけたのはアルベルトパーティーだった。
「アルベルトさん」
「ちょっと、依頼に付き合ってくれないか?」
「依頼?」
「……さっきちょうどいい護衛依頼を見つけてね……
結構割りがいいのよ」
「何せ、あの森を通って隣村に行く依頼だ」
「いいんですか?」
「ああ……
俺達もそろそろ気分を変えないといけないし、被害者が誰なのかわかったのはカナイチのおかげだからな」
「……アナタの洞察力を借りたいのよ」
「もちろん、アドランちゃんも一緒でいいのよ」
「どうせ、お前、デラル尽きただろ?
お前が受けてる依頼は確かに多いが儲けは少ないしな」
「……確かにそろそろ懐が寂しいと思ってたんですよね」
「だから、ちょっとでもいいから討伐依頼を受けようって私は言ったのに……」
アドランは呆れたように呟く。
「……だからお言葉に甘えて受けますよ」
「決まりだな。
準備ができたら一緒に行こうぜ!」
「わかりました」
そして、カナイチは簡単な準備をして、依頼を受けることになった。




