第7話 意外な事実
カナイチの推測を元に捜査が行われ、二日経った。
そこには、捜査の進展を期待している冒険者達がたむろっていた。
「……ティーナ、大丈夫か?」
「え?」
「いや、カナイチの話を聞いてますます顔色が悪くなったというか」
「そうだな……
普段冷静なティーナにしては珍しいね」
「そ、そう?」
「……何か心当たりあるのか?」
「いいえ。
ただ、ちょっと怖いかなって思って」
「怖い?」
「ある時、人が消えても気にせずにどこかに行ったと安心する……
そんな気持ちわかるから」
「カナイチが言っていたいなくなったのは行方不明者って話か」
「……カナイチの言っていることは確かに考えてみれば的を得ている。
グラットンベアに食われた男がいるのに、未だあの男かも知れないと誰も報告をしてこない。
あの男に知り合いがいない……
あるいはーー」
「仲良くても同じ穴の狢な奴か……」
そうアルベルト達が話し合っているとマリナも含むギルド職員が入ってきた。
「興味のある者は集まってくれ」
その号令と共に事件に興味を持っている冒険者達は集まる。
もちろん、カナイチも含まれている。
「二日前のカナイチくんの発言で我々は門番に事情を説明し聞き取り調査を行なった。
すると、意外な事実が判明した。
それを隠さずに発表する」
「意外な事実?」
「……はっきり言おう。
門番達はヴェン音楽隊が来た当日と少し前のことはよく覚えていない。
その時に誰が出て行ったのかもわかっていないんだ」
「っ!?」
「まさか、あまりにヴェン音楽隊が良過ぎたから見過ごしてしまったのか?
確かに人で溢れ返っていたし、賑やかだったけどよ!」
「で、でも少し前も含まれているのはどういうこと!?
あの人達、真面目だから夜、誰かが出ようとしたらわかるでしょ?
夜、魔獣が活発になるから危険だし外に出たら死ぬから……」
「……そのことについて理由ははっきりしている。
あの晩に限って門番達は祝杯をあげていたからだ」
「……祝……
杯……?」
「そ、そんなバカな!
彼らは信頼できる者ばかりだぞ!
だからこそ、我々冒険者達は家族をこの町に置いて魔獣を討伐しているんだ!
それなのに、祝杯だと!?」
「……それ酒盛りじゃないの、普通……
“《《祝杯》》”ってどういう意味?」
その事実に冒険者達はざわつくが、ギルドの職員は難しい顔になっていた。
「みんなの意見はもっともだ……
普通なら許されないことだし、門番達も普段なら見張りの晩の時に酒を飲まない……
そういう人ばかりだ。
普通ならな」
「え……?」
「普通……
なら?」
「実はその当日、門番達にある《《差し入れ》》があった」
「差し入れ」
「ご丁寧に手紙付きだ」
厳格な職員はその手紙を全員に見せた。
その内容は以下の通りである。
~いつもご苦労様です。
これはいつも頑張ってくれているあなた達のせめての感謝の気持ちです。
どうもありがとう~
「……なっ……!?」
「そして、これらが届けられた」
見せたのは肉が入っていた包みと数本のお酒だ。
「お、おい!
この酒って、どれも有名で高価な酒ばかりじゃないか!」
「この肉のラベルも見ろよ!
【ミート・カウ】の肉の最上級部位!
これを焼き肉にして酒を飲んだら間違いなく美味いぜ!」
それを見て冒険者達の血の気がスゥーと引いてくる。
そんな素敵な贈り物を貰った門番達の喜んだ表情が容易に想像できるから。
「……ぐっ!
なるほど……
これは祝杯って言っても有り得る!」
「こんな肉と酒を飲み食いできる機会なんて……
そうそうにない!」
「てか、手紙だけでも嬉しいに決まっている!
俺だってこれらを貰ったら嬉しくなってつい飲み食いする!」
さっきまで門番を非難していた冒険者達は一斉に言葉を失っていく。
果たして、自分達が同じ状況に立たされていたら飲まず、食わずにいられるだろうか。
「……門番の仕事は確かに重要だ。
魔獣が街を襲うことがないように防衛し、襲い掛かったら冒険者達が来るまで迎撃しないといけない……
命を失う可能性のある仕事で大変だ……
だが、同時に地味である。
そういう出来事は殆ど起きない上に、町の住民の安心安全にも目を光らせないといけない……
それでもいなくていいかと言われると決してそうじゃない……
彼らにも街を守っているという誇りを持って仕事をしている……
例え、他人に感謝されなくても街を守ろうとする気概を持った人ばかり……
だからこそ、俺達もあの門番達に大切な人達を任せている……
そんな人達に感謝の手紙と感謝の気持ちが籠った贈り物をプレゼントされたら無碍にできる筈がないっ!」
「……今までの頑張りを見てくれて感謝している人がいるってわかるからね」
「……そして、その状況に加えてヴェン音楽隊……
だから、もし、あの晩に誰が外に出ていたとしても彼らにそれが誰なのか、本当に出たのか判断することができなくなっていたんです」
確かに少し酔っている状態で人盛りができたら誰が出て行ったのか正確にわかる筈がない。
「……だが、逆に言えば、“差し入れを貰う以前”、そして“グラットンベアが討伐されて以降”、町を出た不審人物はいないと証明はできている」
「誰かが出て行ったのならその時を置いて他にない」
「……その間に連れ出していても気づかれることはない……
犯人はその間に被害男性を連れ出して森に置き去りにしてリンゴやアルコールの匂いを染み込ませた」
そうすることで犯人は被害男性の正体をさらに妨害していた。
最初の捜査の時も罰が悪いと思って他言無用にすることも計算に入れていたのだろう。
「……恐ろしい……
本当に恐ろしい!
その差し入れが犯人が狙ってやったことだとすると、犯人は門番の気持ちを完全に理解して利用しやがった!」
カナイチが以前言っていた四つ目の可能性が現実味を帯びてきた。
そのことに冒険者達は正しいと認めざるを得なくなった。
「……でも、そこまで計画して被害者を無惨に殺したってことは……
被害者はどれだけ恨まれていたの?」
「普通の恨みじゃない……
骨の髄まで恨みで満ちてたんだろうな」
アルベルト達は一体自分達が助けようと思った人物は誰だったのか、余計に気になり始めていた。




