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カナイチ・ホームズの好奇心ー冒険者ギルドの小さな名探偵ー  作者: 才練人
〜熊に喰われた男〜 1章 熊に喰われた男
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第1話 地獄の光景

森の紅葉が朝日によって美しく輝く早朝の時だった。

「う~ん!

 ちょっと、眠いけど、朝の風が気持ちいいよな!」

 背中にグレートソードを背負った若き男性冒険者【アルベルト・タトン】が風を気持ち良さそうに受けながら背伸びをした。

「それわかる~!

 でも、やっぱり眠たいな~

 昨日の音楽隊が素敵過ぎて」

 両腰に双剣を携えているスレンダー体型の女性冒険者【メリッサ・ハスター】が昨日の音楽をうっとりしながら思い出していた。

「わかるわかる!

 あれはテンション上がるよな~!」

「ハハッ!

 確かにな!

 あの音楽で有名な旅する魔獣すら聴き惚れるパーティーの“ヴェン音楽隊”の演奏を生で聞けるとはラッキーだったな!

 町が一種のお祭り騒ぎになったしよ~!」

 魔獣の攻撃を受け止めるためのカイトシールドと鋼鉄のプレートアーマーを身に纏った大柄な男性冒険者【メルヴィン・レスト】が見た目に違わずに豪胆に笑う。

「まあ、もうちょっとだけ飲みたかったけどな!」

「……二日酔いになってないでしょうね~?」

「……まだまだ飲めるぞ!」

「そういう問題じゃないわよ、おっさん!」

「しょうがねえだろ?

 あんな美人なお姉さん達にお酌されたらよぉ~

 そもそも酒飲んでいたのは別にワシだけじゃねえぞ。

 町中の大人達の殆どが飲んでたからな!」

「あ~……

 確かに酒場を始め、酒を売っているお店は今日は書き入れ時だと言って大量のお酒を売ってたよな」

「珍しいお酒も飲めたからな!」

「お酒だけじゃなくて、りんご飴とか色んな食べ物も売っていたよね。

 アルベルト」

会話に混じってきたのは、メリッサよりも胸が大きく、それを強調としたローブを着ている女性魔術師(マジシャン)【ティーナ・ブラウン】で、その佇まいはどこか優雅だった。

「確かに、あれは美味しかったよな~」

「……おやおや?

 それは初耳ですよ、お二人さん」

「何だ何だ?

 ワシが飲んでいた時にお二人はデートか?」

「ち、違うぞ!

 美味しいものがあったから偶々一緒に行っただけでーー」

「世間はそれをデートと呼ぶ」

「それに、お二人さんの場合はその偶々が何度もあるような気がするよね~」

「だ、だから!」

 アルベルトが真っ赤になりながら否定するが、メリッサとメルヴィンはそんなアルベルトを揶揄っている。

「……まあ、私は別にデートだと思われても構わないけど」

「え?」

 ティーナはボソリと呟く。

 その時、メリッサは息を吐く。

「……お二人がイチャイチャラブラブするのは相変わらずだけど、やっぱり音楽隊の音楽は最後まで聞きたかったよね~」

「仕方ないわよ。

 ギルドからこの森を巡回する依頼をお願いされたからね。

 報酬も悪くないし、前払いも貰ったし……」

「そんなこと言って、ティーナも本当はアルベルトと一緒に最後まで聞きたかったんじゃないの?」

「……それは否定しないけど」

「メリッサ!

 あのな~……」

 そんな会話が早朝から続いていた。

 このまま何も起こらずに終わっていくと四人はそう思っていた。

 バサッ、バサッ!!

 森から大量の鳥が逃げるように空へと飛んで行った。

「!」

「……どうやらお喋りはここまでのようだな」

「ああ……

 慎重に進もう」

 空気が緊張で包まれ、四人それぞれ顔を引き締め警戒しながら森を進んでいく。

 すると茂みの奥から嫌な音が聞こえてくる。

「な、何?」

「あっちだ」

 アルベルトは音を立てずに、茂みから覗いた。

「……っ!?」

 それはまさに“地獄”だった。

 二体の熊型の魔獣がくちゃくちゃと何かを食べていた。

「……【グラットンベア】!」

 グラットンベアは雑食かつ食欲旺盛。

 甘いものを好み、蜂蜜や旬の果実を食べる。

 それだけでなく川で魚型の魔獣の一種【サーモンフィッシュ】や草食の魔獣を狩り、捕食することもある。

 そのため、畑にグラットンベアが襲来し、農作物や家畜を喰らう。

 時には人も襲い掛かり喰らうというオーク並に危険な魔獣でもある。

「グラットンベアだと!?」

「ま、待て!

 メルヴィン!」

「っ!」

 メルヴィンが見ようとして、アルベルトは止めようとしたが遅かった。

 ただグラットンベアが二体いるだけならそれをアルベルトは“地獄”だとは思わない。

 問題なのはグラットンベア達が食べているものだった。

 今も二体が夢中になって食べているものは“《《生きた男性》》”。

「がっ……!

 あ、ああっ……」

 男性の顔はぐちゃぐちゃで鼻は喰われてなくなり、口も裂かれていた。

 腹部も食べられており、臓腑が出ていた。

「た……

 たす、け……」

 ごぼっと、口から血の泡が噴き出る。

 男性が天に手を伸ばすが、その指は両手ともに食べられなくなっていた。

 近くには吐き出され、踏み潰された男性の指らしきものが転がっている。

 正直、彼にまだ息があるのは奇跡に等しい。

 ただし、その奇跡が男性にとって幸運なものかは別の話だが……。

「な、何が起きているの?」

「ぐ、グラットンベアだよね?

 グラットンベアが草食の魔獣を捕食しているだけ……

 だよね?」

 アルベルトとメルヴィンの深刻そうな表情にティーナとメリッサは不安そうに聞いた。

「……あのグラットンベアはすぐに討伐しないとマズイ。

 だから、何が起きているのか確認して、すぐに慣れろ」

 メルヴィンは難しいことは百も承知の上で二人に覚悟を促す言葉を伝えた。

 二人は頷いて、恐る恐ると確認した。

「なっ!?」

「ひっ!」

 ティーナは恐怖を感じながらも、すぐに冷静さを取り戻し、事態を重く見ることができている。

 対してメリッサは事態の重大さと悲惨さ、そしてあまりのグロテスクに涙目になり、口を押さえた。

「……メリッサ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫……

 うっ……

 ちょっと待ってくれたら……」

「……メルヴィンの言う通り、あの魔獣を放っておくわけにはいかない。

 完全に人の肉の味を覚えてしまった。

 もし、一体でも逃げられたらーー」

 もし、グラットンベアを逃したら、間違いなく次も人間を襲う。

 行商人を襲ったり、下手すれば隣村を強襲することだって有り得る。

「……ティーナ、魔法の準備を!」

「わかった」

「なら、アルベルトは攻撃しながらティーナのフォローを……

 ワシ達はーー」

「もう一体のグラットンベアの足止めね」

「そうだ。

 どちらかのグラットンベアを討伐すればすぐに」

「……ご武運を!」

「そっちもね!」

 そして、アルベルト達は茂みから飛び出す。

 グラットンベア達もアルベルト達に気付いたが、その前にティーナは杖をグラットンベアの方へ向けていた。

「《フロッド・ショット》!」

 水の勢いが強い貫通弾が、一体のグラットンベアの肩を貫く。

「うおおお!」

 肩を貫かれたグラットンベアに対してアルベルトはグレートソードを振り落とす。

 それに対してグラットンベアは体を反らしてダメージを抑える。

 もう一体のグラットンベアはメルヴィンが体当たりをしてアルベルト達と男性から離す。

「グオォォ!」

「ガルルゥ!」

 二体のグラットンベアは、それぞれの外敵に対して唸り声を出す。

 グラットンベアは、食事の邪魔をされることを嫌い、邪魔をしたものには容赦なく襲い掛かる。

「ぐっ!」

 グラットンベアの一撃がメルヴィンのカイトシールドとぶつかる。

 メルヴィンの足がその強力な一撃で僅かばかり後退して地面に減り込む。

「ほらあっ!

 メルヴィンばっかり目を向けるんじゃないわよ!」

 持ち直したメリッサが素早くグラットンベアの足を切り刻む。

「っ!

 やっぱ筋肉があるから簡単に足の筋は切れないかっ!」

 そして、グラットンベアは自分の足をメリッサの方を見る。

「オラっ!

 余所見してる余裕あるかっ!?」

 そう言ってメルヴィンはカイトシールドを使ってグラットンベアの腹部を殴打した。

「はあああ!」

 一方、アルベルトはグレートソードを一撃一撃無駄にせず、グラットンベアを叩き切る。

 グラットンベアも爪を使って応戦し、剣と爪がぶつかる金属音が森の中で響く。

「そこ!

 《フロッド・リング》!」

 合間合間にアルベルトの背後にいるティーナの魔法が発動する。

 フロッド・リングは水のリングが四つ、グラットンベアを拘束する。

 だが、グラットンベアは腕力だけで水のリングを容易く壊し、拘束を破る。

「流石に強い……

 でも!」

「その隙で十分!」

 リングを破っている間にアルベルトが接近し、グレートソードの大振りが命中する。

 良いダメージを与えたのか、グラットンベアから大量の血が噴き出る。

 激痛のためか、グラットンベアの動きが明らかに遅くなり、爪の一撃も弱くなっている。

「ティーナ!

 合わせろ!」

「任せて!」

 ティーナの杖から水の刃が形成する。

「《フロッド・カッター》!」

「はあああ!」

 水の刃が射出すると同時にアルベルトが横一閃でグラットンベアを切り裂く。

 そのダメージに耐え切れなかったのか、グラットンベアはドシンッと大きな音を立てて倒れた。

「次!」

 アルベルト達は休むことなくメルヴィン達が応戦しているグラットンベアに剣の一撃を叩き込む。

「もう倒したか!

 流石だな!」

「後はこいつを倒すぞ!」

「《フロッド・ショット》!」

「そこ!」

「せい!」

 ティーナの水の貫通弾がグラットンベアの胴体を貫き、アルベルトとメリッサがグラットンベアが怯んでいる隙に切り刻む。

「させん!」

 彼らを攻撃しようとするグラットンベアの攻撃をメルヴィンが防ぐ。

「みんな!

 離れて!」

 ティーナの杖の先から青い光が強く発光する。

 それに気付いた三人はすぐに離れた。

 グラットンベアも気付いたが、もう遅い。

「《フロッド・バーニング》!」

 大量の熱湯が洪水のように発射されグラットンベアを大木まで押し潰す。

 それでも水の勢いは弱まらず、さらに流れる。

「はあああ!」

 強い熱湯の流れがグラットンベアを呑み込む。

 水の放出が終わった頃には、グラットンベアは倒れて、二度と起き上がることはなかった。

「終わった……」

「まだだ!

 メルヴィン!

 早く癒しの魔法を!」

「……いや、もう遅い」

「っ!」

 アルベルトは男性を見た。

 アルベルトも頭ではわかっていた。

 あれだけ喰われて、助かる筈がない。

 せめて、これ以上の激痛に苦しむこともなく安らかに眠らせてあげたかったが、その時間もなかった。

「あっ……

 た、たすけ……

 たす……ーー」

 グラットンベアは倒したが、男性はそれでも助けを求めた。

 既に目は何も見えず、アルベルト達に気づくこともなく、目の光は消え、手はぼとりと落ち、動かなくなった。

「……クソっ!」

「……間に合わなかったの?」

 アルベルトは助けることができなかった自分に対して悔しがり、メリッサは男性の死に涙を流す。

 ティーナは静かに男性に対して黙祷した。

「……見ただろ。

 ……最初から間に合わなかったんだ」

 メルヴィンは冷静にそう言ったが、表情まではそういられず悔しさが滲んでいた。

「……取り敢えず、このことはギルドに報告しましょう」

 そう言ってティーナは二体のグラットンベアと男性の死体に魔獣除けと位置情報をギルドに報せる護符を貼り付けた。

「……そうだな。

 せめて、家族に供養してやらないとな」

「……ああ」

 メルヴィンも泣いているメリッサを連れて目印を付けながら森を離れた。

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