7 城門の前に掘られた巨大な堀の
城門の前に掘られた巨大な堀のほとりで一人の兵士が甲冑のまま釣りをしていた。
昼休憩の際の交代勤務時にそのまま川釣りをするのが彼の日課だった。このたるんだ軍務態度にも誰も文句を言わなかった。都市の平和は誰もが確信していた。
金髪の若者が土手を降りて男のそばに歩いてきた。
「釣れてる?」若者は聞いた。
「全然」兵士は答えた。兵士も同様に若かった。丸みを帯びた目鼻立ちはまだまだ少年の面影を残していた。
二人はしばらく水面を見つめていた。釣り糸の先の浮きはピクリとも動かなかった。
「突然だけどお別れを言いに来た」金髪の若者は言った。
「なに別れって」兵士の若者は答えた。
「仕事で遠くに行くことになった。たぶん今生の別れだと思う」
兵士は若者を見上げた。
「仕事って?」兵士は訊いた。「お前って結局何やってるやつなの?」
金髪の若者は答えなかった。
「遠くってどこいくの」
「北のどっか」
「どっかって。唐突だな」
二人はしばらく押し黙った。兵士は水面を見つめたまま言った。
「まあ頑張れよ。達者でな、アラン」
「アランじゃないんだ」金髪の若者は言った。兵士は振り返って金髪の若者を見つめた。
「アイルっていうんだ。俺の本名」
「そっか」兵士は水面に向き直って言った。「アイル。きっちり覚えた」
「ありがとう」アイルは答えた「お前も達者でな」
若者が芝を踏みしめ去っていく足音が聞こえた。兵士は振り返った。アイルの姿はもうそこになかった。




