15 川を渡る
「あの魔法使いを殺す」アイルがいった。「ここから射殺せるか?」
「短弓だとこの距離じゃ狙えない」エリーが答えた「橋を渡って近づけば当たると思う。こっちの岸から挟撃する?」
「いや隠密行動する。この人数じゃ大して足しにもならないだろう。あの橋の他にブリスコーへ渡る方法は?」
「東の方に吊橋が架かってるわ」
「お前たちは東から回って砦の勢力と合流しろ。俺は単独潜入してあの魔法使いを殺す」
「わたしもついていくわ」
「ダメだ」
「わたしの弓で後方支援できるわ」
「一人のほうがやりやすいんだ」
「私達は支援要員としてあなたに派遣されたのよ」ミランダがいった。「本来義勇兵は6人一組とされてるわ。単独行動は危険すぎるんじゃない?」
アイルは立ち上がり服をずりあげて背中を見せた。背中一面に黒い入れ墨で魔法陣が描かれていた。
「これは…あなた毒手…?」ミランダがいった。彼女には魔法陣が読めた…それは自殺強要の術式だった。入れ墨は毒そのもので描かれていた。
「そうだ」アイルがいった。「俺は単独行動で十分だ。砦から討って出たやつらの生き残りがまだいるはずだ。そいつらの支援に回れ」
彼らは上流で二手に分かれた。アイルは外套を脱ぎ捨て荒れ狂う川に飛び込んだ。雪解け水は刺す様に冷たかった。泡立つ水面が水をとらえて掻くことを難しくしていた。彼は急流になるべく逆らわずに立ち泳ぎで進んだ。そして橋のふもとの岸の上流にたどり着いた。彼は川に突き出た枝の張り出しの下から岸辺をのぞき込んだ。
岸辺からはゴブリンたちが去るところだった。岸辺には戦士たちの死体が転がっていた。林の下生えはまだ火が付いたまま燃えていた。彼はひとつの死体から甲冑を脱がせた。そして中身の死体は川に流した。彼は甲冑を着こむと地面に横たり死体に偽装した。
あの魔法使いは何か橋に仕掛けるようだった。彼はゴブリンどもが戻ってくるまで何時間でも待つつもりだった。岸辺の地面の泥は冷たかった。兜の中には焼けた死体の頭皮がこびりついていた。同属の焼ける甘い異様な匂いが兜にこもっていた。
アイルは面頬の隙間から空を見上げた。砦から立ち上る煙は以前より太くなっているように見えた。しかしそれは兜の視野の狭さがそう錯覚させるのかもしれなかった。彼はひたすらに動かず待った。




