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10 ヴェリザード要塞

十日ぶりのベッドはよく眠れた。

旅の習慣で夜明け前には目が覚めてしまった。そして暗殺稼業の習慣で目が覚めた瞬間から頭も冴えた。

彼は隣でいびきをかいている人間をみた。彼は五日前からの旅の同伴者だった。小さな商隊を率いて小麦の運搬を行っていた。アイルは彼の護衛として同行したのだった。

アイルが見知らぬ他人と同室で寝るなど以前は考えられなかった。長旅のうちに彼は以前に習慣としていたものをたくさん脱ぎ捨ててきた。それが暗殺者の技量を落とすかどうかはわからなかった。

彼は音もなくベッドから立ち上がり部屋を出た。

朝方のヴェリザード要塞は晩夏にもかかわらず冷え込んでいた。ここヴェリザードは首都ローゼンハイムから千里もの北に位置しており、カマラン山脈ふもとの高地に位置しているため夏でも気温は低かった。

カマランの霊峰たちの白い尖頭はすでに朝陽に照らされ朱色に染まっていた。城壁の上では兵士が直立不動で平原を監視していた。前線の兵士だけあってこの基地の兵士は士気も高くかなり訓練されていると感じた。

ヴェリザードの中心には水路が引かれていた。アイルはその水路に沿って上流に歩いた。鍛冶が鉄を叩く音がこんな朝早くから響いていた…おそらく前線の兵士たちの武具を手入れしているのだろう。この朝方の甲高い音も彼らの日常になっているのだろうか。

水路が城壁に突き当たった。彼は音もなく城壁をよじ登り外に出た。また水路にそって歩くとやがて小川にたどり着いた。

彼は全身の筋肉を弛緩させて目を閉じた。そして気を静め肌で空気を感じ取ろうと努めた。彼は生命の気配を感じ取ろうとした。

彼は危険を感じなかった。

彼はその場で全身の服を脱ぎ捨て川に飛び込んだ。雪解け水の冷たさに心臓は早鐘を打った。彼は昔の拷問訓練を思い出した…だが冬場の水ほど冷たくはなかった。

彼は頭髪に指を入れフケをこすった。そして脇や首の後ろを垢こすった。そして股間の陰茎をよく洗った。睾丸も陰茎も寒さで縮みあがっていた。

彼はふと視線をかんじて顔を上げた。小川の土手の上には人がたってこちらを見ていた。

それはエルフの女だった。突き出た耳が朝焼けの空にシルエットになっていた。長い金髪が陽の光を真横から受けて輝いていた。

彼女はウサギの死体をぶら下げていた。彼はアイルの裸を見つめていた。

そしてにまにまと笑い出した。

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