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「『豊かなるネーク』だね」
ユーノが感嘆を込めて呟いた。
「セレドに、似てる、少しだけ」
続いた声音は儚い。
すぐに、そんなことを言い出した自分を恥じるように、いそいそと馬を村へ進め始めた。
「おい、先に行くな……ほら、アシャ」
イルファが慌てたように続こうとして、ひょいとレスファートを抱き上げ、アシャの方へ差し出す。
「え? もう俺の番か?」
「だろ?」
「だろって、おい!」
レスファートが何とか自分の前におさまるのを待って、イルファに声をかけたが、相手はさっさとユーノを追って行ってしまう。
なぜイルファがユーノを後を追うんだ。不快感に眉を寄せる。思わず知らず声を上げる。
「おい、待て!」
「アシャ」
レスファートが声をかけてきた。
「なんだ」
「そんなにあせるなら、ユーノにひどいことしなければよかったんだよ」
ぼそりと指摘されて、硬直した。
「…俺は焦ってなんかいないが」
「じゃあ、もう少しここでまってよ……イルファ、らんぼうなんだもん、おしりがいたいんだよ」
ごそごそと腰のあたりを摩り、座る位置を確認しながら、
「ねえ、アシャ」
「なんだ」
「アシャはユーノのこと、きらいなの?」
唐突に聞かれた。
「え?」
「ユーノのこと、きらいだから、あんなことしたの?」
俯いたままでレスファートは尋ねる。もういいよ、と言われたから馬を進め出したアシャが、どう応えたものかと迷っていると、
「ユーノ、いたがってる」
レスファートの声は怒りを秘めている。
「……ああ」
「すごく、かなしんでる」
「………わかってる」
「わかってないよ」
「わかってるよ」
「わかってない」
「わかってる」
「……じゃあ、どうしてユーノにあやまらないの?」
「……」
レスファートは振り向いて顔を上げた。じっとアシャを見上げる。
「ひどいこと言ってごめんね、って」
「そう、だな」
謝っても。
もしもう一度やり直せたとしてもアシャは同じことをするだろう。イルファの興味を削ぐためだと言い訳しつつ、ユーノを傷つけるとわかっていてもしてしまうだろう、ユーノを望む気持ちと拒む気持ちに翻弄されて。
「なんで?」
「うん?」
「……そんなにユーノのこと……かんがえてるのに」
レスファートのことばに、そうか、この子はレクスファの王族だったのだな、と改めて苦笑した。同時に、いつの間にか弛んでしまった自分の心の防御壁を引き上げる。
「こら」
「った」
こん、とレスファートの頭を軽く叩いた。
「人の心に勝手に踏み入るな、とレダト王は教えなかったのか?」
「でもっ」
ユーノが、ないてる。
自分が泣きそうな顔でまた俯いたレスファートの頭をくしゃりとアシャは撫でた。
「お前が……慰めてくれ」
「え…」
「ユーノをお前が慰めてやってくれ」
その方がきっとあいつも安心するし、気持ちが楽になる。
呟いた自分がどんな顔をしたのか、アシャは意識していなかった。
ただ、振り仰いだレスファートが驚いたように瞬きし、見る見るきつい表情になっり、唇を噛んでぷいと顔を背けた。
きっと情けない顔をしたのだろうな、とアシャは思った。




