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「なんだか物騒だろ」
その夜、ネークの宿屋の食堂で、ユーノ達は久し振りに豊かな夕食をとっていた。
小さな村なのに宿屋の数が多い。高名な導師を訪ねてくる旅人のためだ、それでも最近は少し減った、と女主人は笑った。
「おかしな怪物の噂も聞くしねえ」
イルファが露骨にアシャを見たが、アシャは平然とスープを掬っている。穏やかな表情は優男の外見をより一層頼りない感じに見せている。
女主人もあんまりあてにならないと判断したのだろう、今度はユーノに向かって尋ねてきた。
「夕飯はどうだね」
「おいしいです、とても!」
ユーノが答えるよりも早くレスファートが満面の笑顔で見上げて、女主人も破顔する。
「そりゃあ、よかった!」
あんたに褒められると嬉しいよ、とがばりとレスファートの顔を大きな掌で包み、キスを降らせる。愛玩動物じみたそういう扱いにかなり慣れてきたレスファートが、んー、とわずかに苦笑しながら受け止める。
「それに比べて男どもは!」
じろりと睨まれてユーノはぎくりとした。
「お、おいし、いで」
「無理しなくていいよっ」
「うっ」
大体なんだ、あんたは、この細っこい腕!
がちっと片腕を握って釣り上げられかけ、ユーノはじたばたした。
「あのっ」
「痩せ過ぎだ!」
女主人は断言する。
「こんな細い腕で女を守れるもんか」
そりゃあなたは守るまでもなく大丈夫。
思わず言いかけて危うく口を噤んだユーノに、相手はぐいとイルファの方へ顎をしゃくる。
「あっちの男をごらん、まあころころしてネークの草猫みたいじゃないか。あそこまでとは言わないけど、せめて隣の生っちろいのぐらいは太んなくちゃ」
「ぐ」「…」
ころころ、と生っちろいの、と評されたイルファとアシャが微妙な顔で手を止める。
「いいかい、もっと食べなきゃだめだ!」
恰幅のいい体にふさわしい足音をたてて部屋を出て行くと、もう一皿、山盛りにした肉を持ってきてユーノの前に置いた。
「ほらっ」
「う」
「お食べ! 残したら今夜家には泊めないよ!」
「そ、そんな」
「おい、俺ならまだまだうんと余裕が」
「あんたは食い過ぎ!」
イルファを容赦なく切り捨てた女主人に、ユーノは引きつる。
ただでさえかなりの量を既に食べている。正直、背中に傷を負ってから、まだ十分に食が回復していない。それでも次々運ばれる料理を無碍にするわけにも行くまいと必死に平らげていたのだ、これ以上は入らない。
「お、おばさん」
「お姉さん!」
「お、お姉さん…」
「なんだい」
「後で食べたいんだけど」
「そんなこと言って残す気だろう」
「そうじゃなくて、あの、導師のところへ行くのが遅くなっちゃうと、ほら」
「おや」
女主人は意外そうに瞬きした。
「あんたも導師さまのところへ行くのかい」
へえ、どんな悩みがあるんだね。
不思議そうに残りの3人を見回しながら尋ねたが、ああ、と頷いた。
「この男の女癖の悪さを相談しに行くんだろ」
「っぐ」
アシャが指さされてむせ返る。
「いや、そうじゃなくて」
あたらずとも遠からずだけど、とこれは心の中の声、ユーノが首を降ると、女主人は不審そうにイルファを指差し、
「この男の大食らいを治して下さいとか」
「違います」
「まさかと思うけど、このかわいらしい子が不治の病でとか」
「………違います」
「ああ、わかった!」
女主人ははっとしたように大きく頷いた。
「あんただろ!」
「えっ」
「あんたの悩みだ」
「え、っ、と」
「あんた、そりゃ止めたほうがいい」
「は?」
「確かに細っこくて先行き女に縁はなさそうだ、だが」
女主人はいかにも心配そうに喚く。
「よしときな、女にだっていろいろ辛いことはあるよ!」
「はいっ?」
「女になりたいんだろ?」
なんだそのとんでもない発想は、それこそ性別などを……変えられるのか、導師は? じゃあひょっとして男になれる、とか? 男になったら、アシャと気まずい思いをせずに旅ができたり、する?
一瞬固まったユーノはすぐに我に返った。
「違うっっ!」
「あれ、違うのかい」
まあなんだかわかんないけど、そりゃ確かに遅くなっては迷惑だ。
女主人が取りあえず肉の皿を下げてくれて、ユーノはほっとした。善は急げ、さっそく導師の家を訪ねて出かけようと準備していると、レスファートが不安そうに見上げてくる。
「ぼくもいっしょにいこうか?」
「大丈夫だよ」
すぐ戻るから、ちゃんと寝てるんだよ。
レスファートの頬におやすみのキスをして、ユーノは顔を上げた。
「じゃあ、アシャ」
何を考えているのか全く表情の読めない相手に笑いかける。
「レスをよろしく」
「気をつけてな」
丁寧に返すアシャの無表情さにずきりとしながら、ユーノは背中を向けた。




