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碧のA.I.D.A. ―2050年のステルス戦闘機、昭和16年へ―  作者: 明日葉 優太
転移編

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エピソード0 時空の消失点、1941

「蓮。東アジアの超大国『東方共和国』の第3艦隊が越境機動を開始したようです。我が国の防空識別圏へ向け、数機の艦載戦闘機が発艦を確認致しました」


ヘルメットのバイザーに青いUIが浮かび上がり、如月蓮の相棒である超高感度AI『A.I.D.A.(アイダ)』の冷静な声が響く。


F-5蒼莱のコクピットで、蓮は思わず舌打ちしてフライトスティックを強く握りしめた。


「ちっ、あそこの連中は……! 挑発に乗る気はないが、このまま領空を侵犯させるわけにはいかない。迎撃態勢に入る!」


「警告しておきます、蓮。規定上、こちらから実弾を撃ち込むことはできません。相手もそれを分かっていて、今回はレーダーロックだけの嫌がらせに徹してくると思われます」


「わかってるさ。動く標的として張り付かれ、挑発に耐えるしかないってことだな」


愚痴をこぼした瞬間、背後から東方共和国軍の新型戦闘機『J65』の群れが飛び込んできた。

あっという間に数機が周囲を囲み、機体のあちこちで電子ロックオンの警告音がけたたましく鳴り響く。


「敵機、全機よりロックオン! 回避行動を、蓮――!」


警告音の最中、蓮は迷いなくスティックを倒した。

機体が激しく横滑りする。視界の端を、敵機の機影が紙一重ですり抜けていく。


「危ねぇ……!」


すぐさまロールを返し、背後を取ろうと迫ってきたJ65の機首を真横に見送りながら機体をひねる。

敵パイロットが慌てて追従しようとするが、蒼莱の機動についてこられない。


「まったく、しつこい連中だ……! A.I.D.A.、このままじゃジリ貧だぞ。何か手はあるか!」


「この開けた空域で振り切るのは困難です。ですが、前方の気象を利用する手があります」


「気象?」


「正面、この先に超巨大積乱雲が発達中です。あの嵐の内部へ飛び込むのをお勧めします。敵機には蒼莱のような高性能制御システムがありませんから、悪天候に突っ込めば追尾を諦めざるを得ません」


「なるほど、あの黒い嵐に飛び込んでまくわけだな。よし、一気に突っ込むぞ!」


敵の追尾をかわすため、蓮はあえて荒れ狂う積乱雲へと針路を向けた。

背後の気配を牽制しながら嵐の壁へ飛び込み、機体を激しい乱気流の中へ滑り込ませた――その数秒後。


「警告! 予測を上回る異常電磁パルス、および未知の空間歪曲エネルギーを検知! 機体制御を強制維持――っ!」


「なんだこれ……! 制御が効かない――っ!」


A.I.D.A.の警告すらかき消すほどの轟音が響き、分厚い雲の中で激しい電磁の閃光がコクピットを包み込む。

空間そのものがねじ切れていくような感覚の中、常温核融合炉のプラズマが暴走し、視界が真っ白な光に染まった。


「ふうっ……危なかった……」


激しい衝撃の末、機体が乱気流を突き破り、視界が一気に開けた。蓮は額の汗を拭いながら手元のモニターへと目を走らせる。


「おい、A.I.D.A.。システムのステータスは?」


「メイン・サブともに異常なし。常温核融合炉もMHD推進も無事です。機体は奇跡的に無傷ですよ」


「よし……。じゃあ、さっきまで後ろに張り付いていた機体を探すぞ。周辺海域はどうなっている?」


「了解しました。スキャンを開始します……が」


A.I.D.A.の声に、わずかな戸惑いが混じる。


「おかしいですね。敵機のシグナルはもちろん、民間船の反応すら一切捉えられません。GPSの同期も……ダメです。衛星とのリンクが完全に途絶しています」


「なんだと? 衛星が切れたのか? おい、さっきの雷撃で通信がやられたのか……?」


「ハードウェアに故障はありません。ですが、この空域自体に我が国のネットワークが存在していないようです」


「機体が壊れていないのに、ネットワークがないだと……?」


「通信障害ではないとすれば、索敵範囲を広げる必要があります。レーダー出力を最大にして周辺をスキャンします、蓮」


「……ああ、頼む。何が起きているのか、この目で確かめてやるさ」


指示に頷き、蓮は機体をその場でホバリングさせながら遠方へとセンサーを伸ばす。


「前方数十キロの海域に、多数の不審な電波および光学反応を捕捉。……待ってください、艦艇のシルエットを照合します」


A.I.D.A.の言葉に、蓮はセンサーの感度を絞り、光学カメラの超望遠ズームを最大まで引き上げた。

雲の切れ間の海面を見て、思わず絶句する。


そこには、幾重にも重なる灰色の艦影があった。巨大な飛行甲板を持つ空母を中心に、駆逐艦や重巡洋艦の群れが厳戒態勢で海面を切り裂いている。


「おい、あれは……東方共和国の新型艦か? いや、シルエットが昔の史実に出てくる空母に似すぎているぞ……」


「ビジュアルデータを歴史データベースと照合中……対象は第二次世界大戦期の旧日本海軍艦艇と完全に一致。確率99.8%です」


電子音が鳴り響き、ディスプレイ画面の艦艇の上に、次々とウィンドウが表示されていく。


「識別、航空母艦『赤城』。主力機動部隊旗艦ですね。周囲には『加賀』『蒼龍』『飛龍』『翔鶴』『瑞鶴』も確認できます」


その周囲を固める数十隻の艦艇。

A.I.D.A.は捕捉した無線パターンを観測データと突き合わせる。


「空間歪曲の痕跡と海岸線データを逆算しました。現在地は『千島列島・択捉島の単冠湾』です。そして、割り出された日付ですが――」


ディスプレイの隅で、警告が点滅する。


『警告:該当艦隊は、1941年12月8日の真珠湾攻撃へ向け出撃中の「南雲機動部隊」と推定されます』



【1941年11月26日】



「……嘘だろ、A.I.D.A.」


「……どうやら私たちは、百年近く前の過去に飛ばされたようですね、蓮」


二人の声が、静まり返ったコクピットの中に溶けていった。

眼下には、まだ何も知らない艦隊がいる。

蓮は、灰色の海原を進むその艦隊から目を離せなかった。

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