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プロローグ 最後の出撃

高度一万二千。雲海の上は、いつだって嘘みたいに静かだ。


神崎玲かんざき れいは操縦桿を握り直し、無音の戦場を睨んでいた。彼の乗機――可変機〈ヴァルキュリア〉は、戦闘機形態のまま亜成層圏を疾走している。流線型の機体の下では、人類最後の都市が燃えていた。


「玲、敵編隊、後方七時。数は六」


通信に割り込んだのは管制官の声だった。若い。たぶん自分よりも。


「了解。残弾は?」


「ミサイル二、機関砲は……気休め程度。」


笑えてくる。十年戦って、人類に残された切り札が「気休め程度」か。


玲は十六で軍に拾われ、十八で初撃墜を経験し、二十二になる今日まで、ただ墜とし、墜とされかけ、また飛んだ。守るべき家族はもういない。守るべき故郷も、もう半分は灰だ。それでも飛ぶのは、飛ぶことしか覚えていないからだった。


「変形する。掴まってろ――って、誰もいないか」


無人のコックピットで、彼は独り言を言う癖がついていた。


レバーを倒すと、〈ヴァルキュリア〉が咆哮を上げて姿を変える。主翼が畳まれ、機首が下がり、脚部が展開する。戦闘機が、人型へ。鋼鉄の騎士が雲を蹴って身を起こす。


敵編隊が散開し、こちらを囲む。玲は迷わず一機に肉薄し、機関砲を叩き込んだ。爆発。火球を突き抜けて二機目へ。これも撃ち墜とす。


だが、四機目を捉えた瞬間――視界が、白く灼けた。


被弾。コックピットに警報が満ちる。機体が制御を失い、錐揉みに落ちていく。雲海が、燃える都市が、ぐるぐると回る。


「っ……ここまで、か」


不思議と、恐怖はなかった。


ただ、最後に一度でいい。誰かに「お前のおかげで助かった」と――そう言われてみたかった。たった一度でいいから。


意識が遠のく。落下する鋼鉄の中で、玲はそんな子どもじみた願いを抱いたまま、まぶたを閉じた。


そして――


光が、彼を呑み込んだ。


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