気高き純愛は永遠に8
アレフレッドが生きている。エッルム王のそのひと言で室内のざわめきが一気に高まっていく。ティアラもエッルム王とロナルドから目を逸せない。
「でたらめな話を真に受けるな。兄さんは死んだんだ。亡霊が王にはなれない。王は俺だ!」
怒りに任せて叫ぶも、エッルム王は動じない。
完全に心を決めてしまった様子にロナルドは歯噛みし、台座に載っている王冠へと手を伸ばすも、エッルム王によってその手は叩き落とされた。
ロナルドはくくくと笑い、凶暴な顔を覗かせる。
「それなら力尽くで奪うまでだ」
腰に携えていた剣を抜き、鋭く輝く剣先をエッルム王へと定めた。
所々から悲鳴が上がり、広間の警備として居合わせた騎士団員たちも「国王陛下!」と叫び動き出す。
しかし、すかさず騎士団長の指示が飛び、それを邪魔するように別の騎士団員たちが立ち塞がる。
そしてエッルム王の背後にも剣先を王に定めて構えた騎士団員たち並ぶ。
皆の動きが完全に止まる中、唯一、ティアラは違った。
エッルム王の前へと進み出て、国王を庇うようにロナルドに向かって両手を広げる。
「ティアラどけ!」
「どきません!」
「俺は王となり、お前は正妃になる! 俺に逆らうのは許さない!」
どこか近くから「何ですって!」とエーリルの憤りの声が聞こえてきたが、ティアラにその姿を探す余裕はなかった。力いっぱいロナルドを睨み返す。
「何度だって言います。私はロナルド様の妃にはなりません。お慕いする方はただひとり。アレフレッド様だけです!」
「そうか。どうしても俺の女になりたくないか。それならば仕方がない。誰の手にも渡らぬよう、この場でお前の息の根を止める」
ロナルドは瞳をぎらりと輝かせて剣を振りかぶり、ティアラは貴方の手に堕ちるしかないならそれも本望だとぎゅっと目を瞑った。
次の瞬間、刃先が交わる音が大きく響き、……ティアラは戸惑いながら目を開け、ハッとする。
目の前には大きな背中。手にした剣で、振り下ろされたロナルドの刃をしっかりと受け止めている。
「アレフレッド様」
ティアラが愛しさと共にその名を呼ぶと同時に、アレフレッドは難なくロナルドの剣を弾き返した。
強張った顔でよろよろ後退していくロナルドに、アレフレッドは凛とした声で言い放つ。
「今ここで、お前から全てを奪い返す」
それを受けて、大広間に騎士団を引き連れなだれ込んできたラディスが声を上げる。
「客人たちは安全な場所へ! アレフレッド王子に忠誠を誓う者は俺に続け! エッルム王を守るんだ!」
元々広間にいた騎士団員たちが一斉に声を上げ、力を取り戻したように邪魔をしていた者たちへと立ち向かっていく。
騎士団がラディス側と騎士団長側へと完全に別れた中、ラディスと、アレフレッドと行動を共にしていた元騎士団員ジュードが壇上に向かって駆けていく。
壇上前にいた騎士団長、そしてエッルム王の背後を狙っている騎士団員へと、それぞれに剣を抜く。
呻き声や血飛沫に体を強張らせたティアラを、エッルム王が引き寄せた。
「ありがとう。貴女の勇敢さに心から感謝する」
優しく微笑みかけたあと、今度はエッルム王が守るように自らの背にティアラを隠す。
戦火は激しさを増す。奇声をあげながら振り下ろしてくるロナルドの刃をアレフレッドは全て冷静に受け流し、そこから一転して責め立てるようにロナルドへと剣を振るう。
刃先はロナルドの頬を掠め、鮮血を滲ませる。ロナルドは怯むもアレフレッドは攻撃の手を止めず、あっという間に勝敗が決まる。
手から弾き飛ばされたロナルドの剣が床を滑っていった。ロナルドは尻餅をついた格好で自分の鼻先へと剣を突きつけたアレフレッドを悔しそうに見上げている。
「死んだままでいれば良かったんだ。なんで今更戻ってきた!」
「王の器でないお前から、ティアラと国民を守るためだ。父上の跡は俺が継ぐ」
「ふざけるな!」と喚くロナルドの元へと、エッルム王が歩み寄る。
「数日前にイヴォンヌからアレフレッドが生きていると聞かされた時は驚きだけだった。それが本当なら父としてこれ以上喜ばしいことはない。だからまだその時は、王位はお前に譲っても良いと考えていた。アレフレッドは三年も城を離れ、王子であることを放棄していたのだから」
「だったら、問題ないだろ! 今すぐ俺に王位を譲ると宣言しろ!」
歯を剥き出しにして叫ぶロナルドの姿に諦めたようなため息を吐いて、エッルム王は首を横に振った。
「いや。今朝、再び現れたイヴォンヌからの訴えで、大きく迷いが生じた。三年前のあの日、アレフレッドを殺そうと企てたのはお前だったのだな」
「ち、違う! 俺じゃない。何を証拠にそんな決めつけを」
きっぱりと否定したロナルドに対してアレフレッドが眉根を寄せると同時に、また新たな声が上がった。
「証拠ならここにある」
王都への道中にティアラの警護にあたっていたあの新米の騎士団員たちの手を借りて、イヴォンヌが騎士団の制服に身を包んだ三人の男たちを部屋の中央まで引っ張ってきた。
その場に跪かせた三人は縄で縛り上げられている。
「エッルム王。彼らは山賊に扮してアレフレッド王子を襲撃した輩の生き残りです。三人とも罪を認めました。そしてあの後すぐにロナルド様の独断で彼らの階級が大幅に上がったことも、裏で手を引いていた事実を裏付けるものとなりましょう」
それに続いて、騎士団長と向かい合っていたラディスも声を上げる。
「三人だけじゃない。騎士団長、貴方もだ! いくらしっかり顔を隠していたとしても、俺が気付かないはずないだろ。甘いんだよ」
騎士団長は周りを見回す。
目の前にはラディス。じわじわと他の騎士団員も近づいてきているのを見てもう逃げられないと悟ったのだろう、手にしていた剣を足元に落とし、項垂れた。
「ロナルドを、そしてロナルドに加担していた者たちを、全て捕らえよ!」
ラディスと騎士団員がロナルドを拘束し部屋から連れ出し、全てが終着に向かって動き出す。
剣を鞘に納めて振り返ったアレフレッドへと、ティアラはゆっくり歩み寄っていく。そして両手を広げたアレフレッドの胸へと、一気に飛び込んでいった。ふたりは力いっぱい抱き締め合う。
「アレフレッド様!」
「ティアラ。大丈夫か、怪我はしていないか? 心細い想いをさせてしまった、すまない」
「平気です。ずっと私の心の中にはアレフレッド様がいましたから」
「間に合って良かった」
アレフレッドはティアラの額に口づけしてホッと息をつく、そしてティアラを離し、ゆっくりと身を翻した。
エッルム王と見つめ合い数秒後、そっと頭を垂れる。
「父上。生死を隠蔽し、姿を隠していたこと……」
苦しげに吐き出される懺悔の言葉を遮るように、エッルム王がアレフレッドを抱きしめた。
「それ以上言うな。私がお前の立場でもそうしただろう。よく戻ってきてくれた」
改めて向かい合い、心のこもった声で願いを口にする。
「私の跡を継いでくれるか」
アレフレッドはハッと息をのむ。そしてティアラの横へと戻り、引き寄せるように肩に手を回した。
「一度命を落とした身。これからの人生を、愛するティアラと、デコルトハイム国とすべての民に捧げます」
アレフレッドの真剣な返答にエッルム王は嬉しそうに天を仰いでから、大広間に声を響かせる。
「戴冠式は仕切り直しだ。デコルトハイムは今よりも素晴らしい国へ成長することを約束する!」
力強い宣言に、広間に残っていた人々が沸き立つ。
そして同じ言葉を駆けつけた国民へともう一度繰り返すために、エッルム王はバルコニーへと歩き出した。
アレフレッドとティアラはぴったりと寄り添いながら、その後ろ姿へと揃って笑みを浮かべたのだった。




