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真実の恋は一途に瞬く  作者: 真崎 奈南
四章、

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気高き純愛は永遠に4

 幸せな気持ちではあったけれど、どのように部屋から、そして城から逃げ出すのかを思うと、不安も生まれる。

 夜間も騎士団員が城内を警備しているというのに、こうしてさらりと侵入してしまえるアレフレッドも、機敏に動けるであろうラディスも、きっと計画を問題無く進めることができるだろう。

 仮にボルメとラディスが一緒にいるところを見つかり疑問に思われたとしても、ラディスは騎士団の副長であり、ふたりは実家での繋がりもあるため、なんとか誤魔化し通せるかもしれない。

 しかしアレフレッドとティアラだったらそうはいかない。

 見つかったら終わりである。正体がばれたアレフレッドがその後どんな運命を辿ることになるかと考えると、ティアラは怖くなる。


「私がストゥムで決断できていたら、城の中から私たちを連れ出すなんて危険な行動をとらせずに済んだのに。私が足を引っ張って、アレフレッドを危ない目に遭わせてしまったら。……んんっ……アレフレッド様」


 不安にかられた言葉はアレフレッドの深い口づけによって途切れた。


「ティアラは俺の命を救い、人を愛しむことまで教えてくれた大切な女性だ。取り戻すためなら、手段は選ばない。どんな危険な場所にだって飛び込んでいくさ」


 見つめ合ったまま瞬きを繰り返し、ティアラはやっと怪我を負った幼いアレフレッドを助けたあの時のことかと気がついた。


「いえ。私はあの時、なにも出来ませんでした。お兄様はすぐにお父様を呼びに動いたというのに、私はただおろおろするだけで」

「なに言っているんだ。血で汚れている俺の手を握りしめ、しっかりして、大丈夫だよってずっと呼びかけてくれた。その後も付きっきりで看病してくれて、俺が王子だと分かっても見返りを求めることもなかった。裏切りにあい絶望の底にいた俺が、ティアラの純真さにどれだけ励まされ、心を支えてもらったことか」


 アレフレッドの気持ちが嬉しくて、ティアラははにかむ。そんなティアラをアレフレッドは愛おしげに見つめた。


「ティアラと共に生きる日々を、ずっと焦がれていた。これ以上、ロナルドに邪魔させない」


 きっぱりと宣言し、アレフレッドがゆっくりと体を起こす。そっとティアラの頬を撫でてから、ベッドから立ち上がった。


「遅い時間に長居をして悪かったな。夜が明けるまでまだ時間がある。ラディスが今日のうちに戻ってくる可能性もあるから、眠っておいた方がいい」


 アレフレッドは足音を立てずに窓に近づいていく。

 遠ざかっていくその背中にティアラは急に寂しさを覚え、慌ててベッドを降りた。そのまま飛びつくように、後ろからしがみつく。


「まだもう少し一緒にこうしていたい……いけませんか?」


 きつく抱きつくティアラへと、アレフレッドは肩越しに振り返り、苦笑いする。


「すまないが、ここまでだ。これ以上は自制できそうにない。こう見えて、ティアラに触れたくて仕方ないのを、必死に我慢している。俺も男だ。理解してくれ」


 体を固まらせて腕の力を抜いたティアラへと体を向け、アレフレッドは大切な物を包み込むかの様にそっと抱き締め返した。

 そのまま腕を解こうとした瞬間、再びティアラはアレフレッドに抱きつく。


「……か、構いません。アレフレッド様なら」


 月明かりの下でもわかるほどに頬は赤く染まり、声は緊張で震えている。

 恥ずかしそうに潤んだ瞳で、ティアラはアレフレッドをじっと見つめた。


「我慢は止めだ」


 ぽつりとアレフレッドは呟き、引き寄せられるようにティアラの唇を奪う。

 貪るような口付けを繰り返し、なかば縺れ合うようにふたりの足はベッドに戻っていく。

 極力音を立てないように、アレフレッドはティアラをベッドに押し倒し、自らも覆いかぶさっていく。

 アレフレッドの舌が首筋を這い、ティアラの口から甘い吐息が漏れた。


「あぁ。指輪を身につけていてくれたのだな」


 チェーンを指先で引っ張りだして見付けた指輪に、アレフレッドがふっと笑う。

 その息遣いを肌に直接感じたティアラは、うっとりとした表情で艶かしく身を捩る。

 ナイトウエアの裾がわずかに捲し上げられ、同時にひんやりとした手がティアラの太腿をなぞり上げた。

 愛らしい声を発したティアラの唇に人差し指を押し当てて、アレフレッドは耳元で低く囁きかける。


「声は我慢しないと。ほら頑張って」


 薄く微笑んでから、再びアレフレッドはティアラの首筋に口付け、腰のラインから腹部へ、そして柔らかなふくらみへと指先を進ませた。

 アレフレッドから教えられる始めての快楽に、ティアラはゆっくりと溺れていく。

 見に纏う物を全て脱ぎ捨て、肌と肌がぴったりと重なり合う。

 ティアラの嬌声はアレフレッドの唇に絡めとられるも、込み上げる快感は強くなるばかり。


「ティアラ、なんて可愛いんだ」


 色っぽい顔でそう言ったアレフレッドの背中にティアラは爪を立ててしがみついた。

 ふたりの初めての甘い一夜は密やかに、しかし、溺れるほどの愛情と蕩けてしまうくらいの甘美さと共に過ぎていった。




 翌朝、朝食を終えてティアラは自室に戻ると、早速ボルメにアレフレッドから言われたことを話した。


「分かりました。いよいよなのですね」


 両拳を握りしめ、熱意を揺らめかせているボルメにティアラは頷きかけた。

 そして後ろでまとめた髪に留めてあるペピでアレフレッドからもらった髪飾りの位置を気にしつつ、鼻歌まじりに鉢植えへの水やりを開始する。

 朝からにこにこと機嫌がいいティアラをじっと見つめるボルメの顔も、次第に綻び始めていく。


「昨晩は楽しい時間を過ごされたご様子ですね。えぇ、そうでしょうとも。心待ちにされていましたものね」


 そのひと言に、ティアラは頬を赤らめる。思わずベッドに顔を向けそうになり、慌てて手元の鉢植えへと視線を戻した。

 アレフレッドが部屋に訪ねてきたことは話したが、もちろん甘やかで艶めいた時間のことは秘密である。

 思い出すとまた顔が熱くなり、ティアラは平然としていられなくなるけれど、幸せな気持ちで満たされるのもまた事実で、アレフレッドへの愛しさばかりが増えていく。

 ボルメは一輪増えたティールの花瓶の向きを整えながら、「そう言えば」と話題を変えた。


「侍従たちの間でも、アレフレッド様の亡霊の話で持ちきりですよ」

「城の中までそんな噂が」

「はい。なんでも国王様の耳にまで入ったようで、ひどく悲しんでおられるようです。すぐにでも鎮魂祭を行いたいと仰り始めたとか。でもそれに、ロナルド様がもうすぐ来る自分の誕生日を盛大に祝い難くなるからとひどく嫌がり、反対しているみたいです」


 ロナルドらしいと、ティアラは苦笑いする。本当に襲撃に関係しているのなら、アレフレッドを弔う気持ちも薄いはずで、尚更かもしれない。

 そんなロナルドが王になったら、この国はどうなるのだろうか。

 幾度となく沸き上がってきた不安に再び表情を曇らせるも、あまり考えないようにした方がいいとティアラは首を横に振って雑念を追い払った。


「できればこの鉢植えも誰かに引き取ってもらえたら」とティアラがボルメに小声で話しかけた時、ドンドンと部屋の扉が叩かれた。


 その乱暴な叩き方から、すぐに訪ねてきた相手がわかり、苦い気持ちが広がっていく。

 やはり姿を見せたのはロナルドだった。不機嫌な足取りで室内に入ってきて、椅子に踏ん反り返って座ると、苛立ちを抑えきれないように右足を揺する。



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