凪霞慧悟の才能
「いやあ、高名なる我らが生徒会長にお会いできるなんて、恐悦至極とはまさにこのことですなあ」
慧悟が調子よくそんなことを嘯く。
わかばさんは流石と言うべきか、慧悟の胡散臭さを感じ取ったようで、些か困惑気味であったけれど。
「こうめい………?頭がいいことの比喩ですか?」
「冴月……誰も三国志の主人公が三顧の礼で迎えた天才軍師の話はしてないよ。──それにしても慧悟…お前生徒会長の名前なんて今知ったばかりだろうに。ジョークだろ?」
「ハハッ。偏見が酷いなあ。───冗句だよ」
何を隠そう、生徒会長の挨拶の時も慧悟は僕と隠れてメッセージのやり取りをしていたのだから。
僕はカードを切って全員に配った。
「どうしてあたしがトランプしなくちゃならないんだ?」
「悪いね、付き合わせて。今度なんか奢るからさ」
先輩、話を通してなかったのか。そりゃあいきなりのトランプの勝負に巻き込まれたら疑問符が大量生産されても仕方ないだろう。
「でもしかしですよ秤くん、何もトランプじゃなくても勝負がしたいなら他にいくらでもあるんじゃないですか?」
でもしかしですよ。なかなか特殊な日本語を用いるじゃないか。
それはともかく冴月の言いたいことは分からなくもない。彼らには単に皆とゲームがしたいから、と言ってあるのみだけれど。なぜわざわざトランプで勝敗を付ける必要があるのか。
いやトランプだとしても、大抵のことはスマホで代用できる今日において、わざわざアナログトランプを使う必要があるのか。
理由は簡単。───イカサマが可能だからだ。
「いやあ。朽葉クンがどうしてもって言うから」
「なんで僕がゴリ押したみたいになってるんですか」
うわお。相も変わらず理不尽トークだ。まあ何と言うか、イカサマの事については暗黙の了解みたいなものだ。アナログトランプを了解した時点で、お互いに納得済みということになる。その程度には僕たちは、お互いのことを理解できるようにはなっている。
「いやいや全く龍宮さんは凄いですよね。文武両道にして才色兼備。まさに全生徒の憧れと言っても過言ではないと……」
こいつまだ言ってたのか。
「いやまあ……その……なんだ、ありがとう」
龍宮さんも慧悟にペースを乱されてる。こんな龍宮さん初めて見る。もしかして龍宮さんにとって慧悟って、天敵……だったりするんだろうか。だとすれば傍若無人な龍宮さんが慧悟相手なら大人しくなってくれたりするんだろうか。
「あはは。思った通り気が合うみたいだね、良かったよ」
「奏……何を見てそんな事を言っている?」
「そうですよ、桜庭先輩。言わずもがな、相性抜群ですよ」
「よく言うよ慧悟……ジョークだろ?」
「失礼なことを言う奴だな。───冗句だよ」
ハハッ。
慧悟は白々しくも快活に笑う。
「むう。ずいぶんと…仲が良さそうですね…………っ」
「……………」
黙った。あの慧悟が黙った。冴月のたった一言で。
「……………」
「……………」
あ。皆黙った。冴月はというと、唇を尖らせて慧悟を軽く睨んでいる。
僕も黙るほかない。冴月の心情をリポートするほど僕は愚かじゃないし残酷でもない。
冴月の嫉妬を。
仕方ない。咳払いでもしておくか。
「あからさまに気まずそうにするなよ」
ドスッ
龍宮さんの拳が飛んできた。なんで僕が。
「なんで僕が」
小声で抗議の意思を示してみる。龍宮さんはさも当然のように首を傾げた。
「お前だけあからさまなんだよ」
「理不尽だ…」
「あとお前以外は殴れない」
「理不尽だ!」
一昔、いや三昔くらい前なら番長として君臨していたに違いない。
二昔前なら総長かも。
「現在は組長とでも言うつもりか」
「誰も言ってませんよ」
「いい度胸だ。───知ってるか?人を殺しちゃいけないって法律はないんだぞ」
「殺害予告された……」
「アメリカ国防総省の全戦力がお前を屠ることだろう」
「貴女は一体何者なんですか!?」
僕は叫んだ。我らの生徒会長は全力で治安を乱している気がしてきた。
「さて、皆準備はいいかな。───それじゃあ、始めよっか」
先輩が皆を見渡して、ふと相好を崩す。
「ああ」
「はい」
「始めましょっか」
龍宮さん、冴月、慧悟が順に答える。
僕は先輩の目を見据えて答えた。
先輩の綺麗な瞳を。
深く黒い眼を。
笑みを湛えたその眸を。
「はい」
※補足
人を殺しちゃいけないって法律はありません。もちろん当たり前のように刑罰はありますけど。




