風紀委員の審問
風紀委員は怖いです
「さて朽葉秤よ。貴様があの桜庭の相方だというのは本当なのか?」
風紀委員の教室。
彼らの中のリーダー格と思しき人が重々しい口調で僕に問いかけてきた。
「まあ…そうですね」
曖昧に頷く。事実だから肯定するより他ない。しかし困ったことに質問の意図がわからない。
「死ね」
おおっ唐突。全くもって文脈が読めない。
「「「「死ね」」」」
なんか周りの風紀委員の方々も復唱してきた。
「……生ぬるい」
そんな中、一人だけ同調圧力に抵抗する者がいた。我が同級生の雨上だ。けれど、ん?『生ぬるい』?
「本人任せにするなど、この大罪人にはあまりに生ぬるい。我々自ら断罪すべきです」
あ、もうだめだここは。危険区域だ。まるでスペイン異端審問か一時期のアメリカの赤狩りを彷彿とさせられる。こちらの言い分も聞かずに断罪?阿Q正伝かよ。いつからここは中国農村部になったんだ。
「あの、よくわからないんですが」
「わからなくていい。これから行われるのは一方的な虐殺。──貴様には悲鳴をあげる間すら与えない」
あれ?どこが聞いたような言い回し……
「朽葉、優しいこの俺が特別に解説してやろう。リア充になりそうな輩を闇夜に紛れて始末する。それが俺たち風紀委員の仕事だ。いや、使命と言ったほうがいいかな」
「最悪だ……」
思わず心の声が漏れる。やっぱり慧悟と同種の変人だった。早く催促状を渡して帰るべきだったのだ。
この人たちはどうやら僕が先輩と付き合っていると思ったらしく、僕を断罪対象と認識したようだ。
「リア充は撲滅しなければならないのだ」
「あの…さっきから再三申し上げているように、僕は先輩と特別な関係にはないんですが」
「黙れ」
さっきからこの繰り返しだ。
僕が自己弁護をしようと口を開きかけると、すぐに反駁が飛んでくる。
「とはいえ……そうだな。我々としては貴様を見逃すのも吝かではない」
「そもそも無罪ですからね」
「いいや貴様は有罪だ。万死に値する。──しかしだ、司法取引と言うやつを提案してやってもいい」
いつから風紀委員会は司法機関になったんだよ。
「まあ、仕方ないですね。なんですか?」
はっきり言ってこのやり取りは茶番なのだから、席を立って切り上げても良かったのだけれど、僕はできるだけ穏便に事を済ませようと思った。
「──妙なことがあってな、謎を解いて欲しいんだ」
「あー、失言だったかな。流石に人格破綻者は言い過ぎか。俺も秤には何度か世話になってるし」
「秤クンの世話に?」
私は凪霞クンの言葉を聞き返した。
「あれ?桜庭先輩知らなかったですか?秤の奴、あれで結構人の相談に乗ったりするんですよ」
「へえ…そうなんだ」
朽葉クンが人の相談に。あまりイメージできない。
「まあ大体が『僕に分かると思うなよ』で終わらせるんですけどね」
「それは相談に乗るとは言わないね」
「大丈夫ですよ。あいつに相談するのって俺くらいなものなので」
「それはただの雑談って言うんじゃないかな」
話す言葉の九割が冗談。紡ぐ言葉の1割が嘘。
やっぱりこの子、朽葉クンに聞いてた通りの人だ。
「それでも極稀に、本当に困った時は答えを出してくれたりするんですよ。普段はあんなにドライなのに」
「ドライ……?」
ドライ。乾いた何か。
一見すると朽葉クンには似つかわしくない形容詞。
小気味のいい突っ込み。隣り合った私から物理的に距離を置こうとする初な反応。私のわがままに付き合って一緒に頭を捻ってくれる、可愛い後輩。
ドライ。
それは、そんな朽葉クンには似つかわしくない形容詞だと思った。
「ハハッ。納得いかないですよね。秤の奴、ここではどんな人間なのかな」
「…?どういうこと?」
聞き返す。声が、口調が、少しだけ強くなってしまうことを自覚しながら。
『ここでは』?
なら私の知らない朽葉クンはどんな人間だと言うのか。
「ここの秤も『天秤がどうのこうの』って言ってます?」
──天秤が、傾いた。
何度か、本人がそんなふうに呟くのを聞いたことがある。
「先輩はあの言葉の意味、知ってますか?」
奏サイドは少しだけシリアスです




