図書委員は催促状を運ぶ
新章突入です。
図書室は本を借りる場所だ。
恐らくこれが多くの人の共通認識であり、まさかこの見解に異を唱える人はいないだろう。(中には勉強場所だと言い張る人もいるだろうけれどそんな人だってまさか図書室設立の目的に異を唱えることはないだろう)
利用率が著しく低い我が式折高校図書室でも本を借りる人はまあまあいる。
ただ、なんの本を借りるか悩んだり、図書室で勉強したり、そもそも図書室の場所を覚えていたり、する人が少ないのでほぼ無人である時間が多いが、全く利用されてないわけではなく寧ろ本を借りるだけならばそれなりに利用されている。
そして本を借りる人が一定いるということは比例して──もちろん比例定数は1より少ないだろうけれど──本を返さない人だっているわけで。
いやもちろん彼らをここで糾弾しようというわけじゃない。たまたま返そうと思っていた日に忘れちゃったとかそんな人が主だろう。
けれどそれはやはり図書委員にとっては困ることなのだ。
なぜなら───催促状というものを書かなければいけないから。
「喜び給えよ朽葉クン。それはもう兇器乱舞して」
「デスマッチでも始めそうなイントネーションですね」
図書室につくなり不穏なことを言われた。あ、朽葉クンというのは僕の名前だ。朽葉秤。この名字のせいで先週出会った生徒会長に「散らす」と脅されたことがある。
「何かあったんですか?」
カウンターに座る。隣には既に先輩がいる。
桜庭奏先輩。僕の図書委員の相方。
年上の優しいお姉さん。そんな外見。
まあ中身も外見も印象は大して変わらないが一つ、特筆すべき点がある。
尋常ではない推理力。というか想像力。もっと言うなら再現力。
先輩はその能力に僕は幾度も、驚嘆したり、出し抜かれたり、見破られたりした。
フィクションの中の名探偵顔負けの推理を、僕に何度も見せてくれた。
「今日は期限オーバーが一人しかいないよ」
「いつもそんなに多かったですっけ?」
いや愚問だった。──多い。
ろくに図書室には来ないくせに借りた本を延滞する人たちがこの学校には多い。多すぎる。いつもは優に三、四人は超える。一説には本を返そうとすると図書室に辿り着けなくなるらしい。日本昔話にありそうな設定だ。
「さて、次は悪いニュース」
「悪いニュースあるんですか…」
そういうときって「いいニュースと悪いニュースどっちから聞きたい?」とか言っておくものじゃないですか。
「この人は2週間くらいオーバーしてるんだよね…」
「っ……?長すぎじゃないですか」
図書室での本の貸出期限は2週間だ。つまりその人は一ヶ月も同じ本を借りていることになる。
「読むのが遅いのか、忙しくて読めてないのか」
当然ながら文章を読むスピードには個人差がある。僕は標準だが、きっと普段文章を読む機会のない慧悟なんかは遅いだろうし、普段本を読んでいる冴月とかは速いのだろう。
「だから、朽葉クンには直接催促しに行って欲しいわけ」
「……一応聞いておきますよ。なぜ僕なんですか?」
面倒なわけではない。
面倒なだけではない。
まあ先輩も似たような理由だろうけど。
「もちろん私が面倒くさいからってのもあるんだけど」
やっぱりあるんですか。
「それと、この放課後にその人は学校にいる」
「部活とかで?流石にそこに押しかけるのは…」
「ううん、委員会」
委員会か。僕のこれも委員会活動の端くれなのでそこに押しかけるのはやはり気が進まないというか…
「風紀委員会だよ」
「まだ生き残ってたんですか風紀委員会」
風紀委員会。それはアニメやラノベや漫画で語られる幻の集団。かつてはそれこそ日本中に生息していたらしいのだが、今は数を減らしていると聞く。そんな絶滅危惧種がこの高校で生き残っていたとは。
「まあ珍しいよね。未だに風紀委員会がある学校は。別に式折は今も昔もそんなに荒れてなかったと思うけど、流行に乗っかってなあなあで続けてるんじゃない?」
まあうちの高校は特別上品という訳では無いが取り立てて荒れているわけでもないので必要か不要かで言えば断然後者なのだろう。
それでも風紀委員会が今もなお存在し続けているのは誰も変える必要を感じなかったと言うことなのか。
「あ、その子一年生だから朽葉クンも知ってるかもよ」
そんな言葉で送り出された。僕には初めから拒否権などなかったようだ。
『その子』か。先輩の知り合いだろうか。まあ僕には関係ない。さっさと催促状を渡して帰ろう。
そんなことを考えながら風紀委員会が使用している教室をノックする。
「失礼します」
「…………………」
返事はない。
「失礼します!」
少し大きな声で言ってみる。
「………………」
やはり返事はない。
「…!……失礼───!!!」
「いるよ、うるさいな」
更に大きな声を張り上げようとしたときだった。そんな返事とともにドアが開け放たれる。
「誰だか知らんがとりあえずリア充は死ね」
それは僕が催促状を渡しにきた相手───雨上蒼也だった。
新章突入しました…が、実はまだ書き終わってないのでどんな結論になるのやら作者にすらわかりません。お楽しみに




