目撃証言、あるいは龍宮わかばの憂鬱
前回、新キャラ出ました
龍宮さんがその「妙なもの」を目にしたのは昨日のことらしい。その日、龍宮さん生徒会の仕事を終えて帰路についていたのだという。
「生徒会ってなんか仕事あるんですか?」
気になったことを聞いてみる。朧げな記憶を辿るに、少なくとも中学の生徒会は何も仕事なんてしていなかった気がする。
「大きなイベントがあればその運営とかだな。特別なことをするわけじゃないが企画運営は何にせよ必要になる。まあ当分はそういうのがないから今のところは…そうだな、備品の管理とかの雑務が主だな」
雑務か。僕は立候補してまでやりたいとは思わないな。
「どうして生徒会長になろうと思ったんですか?」
僕が訊くと、龍宮さんは少し苦笑した。
「昔から仕切りたがりな性質なんだよ。周りの連中を仕切って目的を達成するのが心地よくてね。きっと、自己陶酔の一種なんだろうな」
そう言って龍宮さんは自嘲気味に笑う。
そんなことありませんよ、とは言えない。それは龍宮さんが受け入れていることなのだろうから。
「話を戻そうよ。わかばが見た『妙なもの』ってどういうものだったの?」
ああ、本筋はそれだった。つい話が脱線してしまう。
「あたしの家の隣に住んでいる人がいるんだが」
「そりゃあいるんだろうね〜。タワマン最上階とかに住んでない限り」
「…奏はさっき話したから少し黙っててくれ」
先輩うるさがられてるよ……。なんだか新鮮だ。
「帰り道にその人が傘をさして歩いているを見たんだ」
「あれ…でも昨日って──」
一日中快晴だったような…
龍宮さんは頷いた。
「そう。昨日は一日中晴れていた。つまり彼は──その人は男だったんだ──晴れていた中で傘を指していた事になる」
「それが日傘とかいう可能性は?西日も結構眩しくて辛いですよ」
「まあ…朽葉クンの意見が一般論だよね」
一般論で悪かったですね。
「ああ、あたしも当然その可能性は考えたよ。別に眩しくなくても、アレルギーだってことも考えられるからな」
「そう言うってことは違うんですか?」
先輩が横から口を挟む。
「それを否定するもう一つのポイントが、最も謎な部分なの。だから朽葉クンと一緒に考えたくてね」
──『一緒に考えたくてね』
これを意識するほど、僕は幸せな人間ではないつもりだが、それでも自然と拍動のリズムが速まってしまう。
「その『ポイント』っていうのは?」
龍宮さんは口を開いた。そして紡いだ。
──どうしょうもなく、笑ってしまうほど、『奇妙』なその情景を。
「あたしの傘だったんだ」
「え?」
「あたしが昔なくした傘を、彼がさしていたんだ」
──開いた口が塞がらない。
この慣用句をまさか我が身で実践する日が来ようとは。
それほどまでに、先輩が語った事柄が衝撃的過ぎ、僕の驚きへの耐性を粉砕するほどには十分なインパクトを秘めていた。
だってそうだろう?
お隣さんが?雨も降ってない中で?昔なくした傘を持っていた?
そんな馬鹿な。
「見間違いとか、同じ製品の別物って可能性はありませんか?」
起こりうる確率を天秤にかけるなら、断然何かの街語彙のほうに傾くに決まってる。それほどまでに、それが真実なら常識から逸脱する事象だ。
「ない。なぜならあたしは幼い頃、あの傘にイニシャルを縫い付けたからな。T.Wって。遠くからだったが、彼が持っていた傘にも間違いなくそのイニシャルがあった」
「そのイニシャルがお隣さんと被ってるってことも…」
まあこれはあり得ないだろう。僕もダメ元で口にしたが、案の定龍宮さんは首を横に振った。
「ないな。お隣さんの名字は中野って人だ」
「その恋人のやつとか」
「そもそも朽葉、あの傘がどんな形状だかわかってるのか?」
「知りませんけど、勝手にぴしっとした黒い傘をイメージしてます」
「まず、中野さんはごくごく普通の男子高校生だ。確かあたしと同い年だったかな。まあ通っているのは式折高校ではないのであまり接点はないな。1歳年上の姉と6歳年下の妹がいる。姉の方は式折だったかな。ご近所とも大して接点がないから詳しくはよくわからないがな、一年くらい前に引っ越してきたんだ」
まあ、どこの馬の骨かも分からない隣の女子高生にあれこれと知られるのは僕も勘弁願いたい。
「その青年がどんな傘を持っていたんです?」
「黄色の傘」
「はい?」
「小学校指定だったお馴染みの黄色いあれさ」
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