憐れな少年──朽葉秤
推理パート入ります
「男子高校生が、晴れの日に、小学校指定の…傘ですか」
僕は頭を押さえた。
「おかしいよね」
「怪奇現象ですね」
都市伝説化しそうだ。『晴れの日の傘男』。通報されなかったのが不思議なくらいだ。
わかば、と僕の隣に座る先輩が友達の名を呼んだ。
「その時って周りの人はどんな反応だった?」
「あんまり人はいなかったんだが、やっぱり変な目で見られていたな」
「警官から職務質問とか受けなかったのかな」
「都市伝説ってスレ立ってるかもしれませんね」
『謎』となるべきポイントはこの場合2つある。
①なぜ彼、中野さんは雨でもないのに傘をさしていたのか。
➁なぜ中野さんは龍宮さんが昔失くした傘を持っていたのか。
どちらにしても僕にはまだ、それらの理由が想像できない。
「でもわかば、どうしてそんなことを知りたいの?」
「どうして、というと?」
「中野さんがどんな理由でその傘をさしていたとしても、わかばに損はないよね。──放課後の時間を結論が出るかどうかもわからない議論にあてる理由は何?」
「言わなきゃだめか?」
「私はその理由を知りたいな」
龍宮さんは少しの逡巡を挟んだ。が、その返答は早かったと言っていいだろう。
「……あとで話す。が、多分この件には関係ない」
「………」
……これで『謎』が3つに増えた。
──③なぜ、龍宮さんはその理由を知りたがるのか。
「これはまさに、ホワイダニットだね」
「ホワイダニット?」
聞き覚えのない単語に聴き返した──のは僕ではない。龍宮さんだ。
「ミステリーのジャンルの1つだよ。英語風にいうと『Why done it』だったかな。──要するに、動機とか理由に焦点を当てたミステリーのこと」
「そんなジャンルがあるのか」
龍宮さんが驚いたように言う。僕は存在そのものは知っているが、別にミステリファンでも何でもないので読んだことはない。
「わかばはミステリーとかあんまり読まないもんね」
「奏はミステリー好きだよな。それはやっぱりあいつの──いや、すまん。無神経だった」
龍宮さんは先輩に軽く頭を下げた。なんのことだかわからないが、きっと先輩にも言われたくないことくらいあるのだろう。
いいよいいよー、と笑う先輩。僕から見えるのは先輩の横顔だけだが、その笑顔には努力が見えた。作為が見えた。無理が見えた。けれど言われたくないことなら、敢えて知る必要もないだろう。
「──朽葉クン、そろそろ何か仮説が浮かんだ?」
「全く浮かびません」
「ふーん…。じゃあ、再現してみよっか」
不吉な予感がした。この上なく不吉な。そして最悪の言葉が、先輩の唇から紡がれる。
「朽葉クン────頼んだよ」
「ちょっと身長が足りないねぇー」
……数分後、容赦なく辱めを受ける僕の姿があった。
「なんで僕がこんな目に……」
「朽葉クンしか男子がいないんだから仕方ないでしょ?」
僕は見るも無惨な状態だった。空高く、丸めたカレンダーを掲げ、差し込んでもいない夕日に目を細め、見知った場所で挙動不審にキョロキョロする──そんな憐れな男子生徒がそこにいた。
「男子だからって同じ生物だと思わないでください」
「あー、170ない男子は人権ないんだっけ?」
そもそも人選を間違えている。龍宮さん曰く、例の中野さんとやらは相当高身長らしい。目測で185くらいらしく、その人の再現を160台の僕にさせるのがそもそも間違いなのだ。
「頑張れ朽葉クン!男には乗り越えなくちゃあいけない壁があるんだッッ」
「だが断る。というか170の壁が高すぎますよ…ウォール・マリアくらい高いです」
「中に巨人が眠ってるのかな」
「……お前らいつもそんな会話してるのか?」
わかばさんが呆れたような声を出す。
仰るとおりです。僕というか主に先輩が。
「そもそもどうして朽葉、お前はカレンダーを丸めて掲げているんだ?」
「……そういうことは先輩に言ってください」
げんなりと答える。先輩はあっけらかんとしていた。いやよく見ると笑いを堪えている。
「そもそも傘っぽい何かがこの図書室にはないからねえ。でも何も持たないのも変だし長い棒状のもので代用しようかな、と」
「でも、それすら図書室にはなかったんです」
「だから使い終わったカレンダーを丸めて代用していると?代用品の代用品はもはや別物だろ」
「代用品の代用品は別物──さすがは我らが生徒会長、名言だね」
「茶化すな、殴るぞ」
怖っ。とはいえ僕も先輩の命令には未だ納得がいってない。主に人選に。だから聞いてみる。
「こんなことして何か意味あるんですか?」
まあ僕の言葉はまともなものだっただろう。この『再現』の哀れな被害者としては。
が、僕の意に反して先輩は頷いた。
「あるよ───だって、仮説が浮かんだもん」
※作中に出てくるホワイダニットですが、ワイダニットとも呼ばれます。




