知人の知人は赤の他人
新キャラ出てきます
友達の友達は皆友達。
幼い頃、そんなふうに言われたことがある。
これを言ったのが誰だったのか──恐らく何らかの教育者なのだろうとは思うが──全く記憶にないのだが、子供心に「そんな訳はないだろう」と思ったことだけは鮮明に覚えている。
まあ、これは「皆で仲良くしなさい」ということを端的に表したものであって、現実に即したものではないだろう。
教育的視点においてなかなか議論の余地がありそうなこの言葉だが、これと似ていて、なおかつ絶対に違うと断言できる言葉がある。いや「ある」というよりかは今生まれたものなのだけれど。
「知り合いの知り合いは知り合いだよ」
そんな馬鹿な。僕、朽葉秤はそんなことをのたまう桜庭奏先輩をまじまじと見つめた。
「とんでもない暴論だ…。この高度情報化社会においては特に」
「…ってことでこれから私の友達が来るから」
そう。先輩は図書室に来るなり開口一番に
「私の友達が遊びに来るからね」
と言ったのだ。
「いや来るなとは言いませんけど、僕は本を棚に戻したり、席を外してできる仕事をしますから」
気を利かせて、というか初対面の人と臆面もなく話せるコミュ力は僕にはない。が、
「その子もキミの知り合いみたいなものだからここにいなよ」
と謎の理論で引き止められたのだ。
「なんか私に相談があるらしくて」
「じゃあなおさら僕は席を外しますよ。っていうかなんで相談を図書室でするんですか」
「そこはほら…」
先輩は手で周囲を示した。
「人いないじゃん」
「確かに」
我が式折高校の読書家人口は高くない。というか低い。本を借りに来る人はまあまあ居るのだが、本当に借りるだけで居座って勉強だとかをする人は皆無だ。いや式折高校は別に頭の悪い高校ではないし、スポーツ進学校でもないので、勉強自体をする人はいるのだが図書室で勉強する人がいないというだけだ。
「あ、クラスメートの女子ね」
「教室で相談すればいいじゃないですか」
それでなくともいくらでも場所はあるだろう。
「朽葉クンの意見も聞きたくて」
「……!」
僕の意見を聞きたい?それはそれは
「勉強関係なら全く相談に乗れませんよ?」
「勉強関係で入学したての後輩を頼るほど落ちぶれちゃいないよ」
なんだか、一波乱ありそうな気がする。
先輩はスマホを取り出すと何事か打ち込んだ。
数秒後
「入るぞ、奏」
ドアを開けて入って来たのは背の高い──とんでもなく背の高い女子生徒だった。先輩も背が高いと思っていたが、この人はそれ以上だ。180以上はあるだろう。肩より少し下、肩甲骨辺りまで届く髪を一本にまとめている。間違いなく美形だが、先輩を「綺麗」と評するならこの人は「かっこいい」に分類されるほど凛々しい顔立ちをしている、中性的な美人だ。
「いらっしゃい、わかば」
わかばと呼ばれた女子生徒は近くの席から椅子を引っ張ってきて、カウンターの前に腰を下ろした。
「久々だなミッチー」
我が図書委員の公認マスコット、ミッチーマウスのことを知っているとは。何者だろうか。ちなみに今日のミッチーは某海賊王を目指す漫画の海軍大将のコスチュームを身にまとっていた。
「彼が奏の相方?」
「そ。紹介するね。彼は私の相方の朽葉秤クン」
僕はわかばさんの高さに圧倒されるばかりだった。言葉もない。身長を分けてくれないだろうか。
「よろしくな、朽葉。あたしは奏の友人の龍宮わかばだ。わかばは平仮名だ」
「こちらこそよろしくお願いします。──朽葉秤です。朽葉とわかばってなんか示唆的ですね」
と、隣の先輩が僕の脇腹を肘で突いてきた。
「ねえ朽葉クン、私とわかばが友達だってことに驚かないの?」
「驚く?なんでですか?インターハイに出たことがあるとか?」
「えっ…」
先輩、硬直してしまった。みると、わかばさんも顔を引くつかせている。
「え…っと、一応あたしは生徒会長をさせてもらってるんだが…」
「生徒会長?」
この学校に生徒会なんてあったのか。──むしろそっちのほうが驚きだった。
「朽葉クン…生徒会長の名前と顔くらい知っておこうよ…」
なんか半眼で言われた。心外だ。入学一ヶ月で生徒会長を把握してないのはそんなにまずいことなのか?
「いや、まだ一ヶ月なので」
「入学説明会で何分か話したはずなんだが…」
「……」
そういえば何事か話していた生徒がいたような気がする。……こうなるとぐうの音もでない。
「すみません。あのときは……つい……」
まさかスマホを駆使して慧悟と談笑していました、とは言えないだろう。
「ちなみに生徒会長ってどうやって選ばれるんですか?」
「中学でもあったでしょ……選挙だよ選挙」
なるほど。そういえば、ぼんやりとだが中学でも似たようなものがあった気がする。慧悟とかは授業が潰れて狂喜乱舞していた。
「それで?その生徒会長さんが何の御用ですか?」
龍宮さんは声を落とした。
「それが、妙なものを目にしたんだ」
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