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対馬と壱岐島

 ――文永十一年十月五日卯時(早朝6時頃)。


 まず、はじめに対馬国にある八幡宮御殿で異変が起きました。

 そのことに気が付いたのは対馬の宮司でした。


「いったい何事です!」

「た、た、大変です! 御殿内にて火の手が上がりました!」

「なんだと!?」


 境内の人々はその炎で焼け死ぬのではないかと思いましたが、なんと燃える物がどこにも無かったのです。


「これは幻の炎だっ!」

「もしや……これは八幡菩薩さまが我らに凶報を伝えているのかもしれません!」

「それは大変だ。急ぎ地頭殿に凶報を知らせましょう!」

「わ、わかりました!!」


 悲しいことにその予感は当たりました。

 その日の夕方に対馬の西にある佐須浦に、あの〈帝国〉が上陸してきたのです。


「た、大変だ! 海を覆うほどの船団が来たぞ!」

「すぐに宗助国さまに伝えるのだ!」


 その数は五百隻を超え、三万、四万もの異賊が攻め寄せてきました。

 連絡を受けた地頭である宗助国は八十騎を従えて出陣して、佐須浦に行きました。


 それから翌日の早朝に通訳である真継男を使者として送り、〈帝国〉に事の詳細を尋ねたのです。


『ええと、わたし、真継男、なぜ、来た、理由、教え――うあ!?』


 ところが!!


 異賊は船から雨のように矢を射ってきたのです。


「ひえー!!」


 そのあとすぐに大船七、八船から徐々に兵たちが船を降りて、一千人もの敵勢が上陸しました。


 駆けつけてきた宗助国が郎党たちに命じます。


「皆の衆、陣形を組んで戦いに備えよ! 我らには八幡菩薩さまがついている!! 敵に打ち勝つのだ!」

「応!」


 彼らは垣楯を並べ陣を作り、戦いが始まりました。

 異賊は宗助国たちが放つ矢によって数を減らし、射抜かれて討死していきます。


 しかしこのままでは勝てない。


 と、その時です。


 宗助国は異賊の大軍の中に大将軍とおぼしき者が四人が見えました。


 宗助国は叫んで敵陣へと駆けます。

「勝負じゃ!!」


「ガルルルル、どうやら我ら四人と戦う気のようだ」

「軽く見られたものだな洪茶丘よ。お前がみすぼらしいからじゃないか?」

「なに!」と犬猿の仲のような獣人。

「グフフフ、やめるのだ洪茶丘と金方慶、今は目の前の敵を倒すのが先だ」

 そして、頭の禿げた総大将と思しき獣人。


「クドゥン殿、ここは我にお任せを」

 最後にとても髭の長い獣人。この四人の大将軍です。


「ダメだ。お前たち三人にはまだやるべきことがある。おい、そこのお前が代わりに相手をしてやれ」


「ワオォォンッ!」



 異賊が馬に乗り駆け向かう。


 この者に対して、息子である宗右馬次郎が矢を放ったのです。


「破っ!」



 ――――――――



「その矢は見事敵の右乳の上を射抜いたのです」

「右乳の上……」


 童たちがみな、両の手で右乳の上を触る。

 その童の中でもっとも年長でませている子が巫女をみる。

 彼女らも乳の上あたりを押し当てる。


「あ……右下かもしれませんね」

 童たちが乳の下に手を動かす。

 すると彼女たちも右乳の上から下に手を当てる。


「おっとすみません。右上と書かれていました」

 巫女たちも右乳の下から上にその細い指を移動させる。

 童は鼻の下を伸ばしながら、そのふくよかな胸元を――。


「そして!! 馬から敵将が一人落ちたのです!」

「!?」


 童はビックリして和尚のほうを向き居直した。



 ――――――――



「ギャー―ッ!」


 さらに宗助国は勇敢に戦い敵を一瞬で四人も倒しました。

 彼ら対馬の武士たちはよく戦いました。


「あまり調子に乗るなっ!!」

 しかし、敵の矢により惜しくも討たれてしまったのです。


「ぐあっ!!」

「親父殿ーー!!」

「助国さまが討たれた…………」


 それは宗助国が討たれたことに動揺して手が止まった時です。


「ガルルルル、いまだ。一気に攻め込め!」

「オオォォ!!」


 動揺した隙に一方的に攻撃され、郎党全員が同時に討死しました。


「垣楯の陣地を燃やせ! それから水夫と船はすべて奪い、漁村は燃やせ!」

「ウオオッ!!」


 その後、異賊は佐須浦に火をつけていったのです。


「ああ……燃えている。浦で火の手が上がっている……」

「手を休めるな。我らがこの急報を知らせねば、すべてが無駄になる。手を休めるな」

「必ず、必ずや敵を取ってみせる」

「然り」


 最後になりますが、宗助国が郎党、小太郎と兵衛次郎という二人が対馬の南から船を出し、博多に渡ってこのことを太宰府に知らせに出たのでした。




 それから少々時が流れ、彼ら異賊は八日後の十四日の申刻(15時以降)に壱岐島の西側に今度は四百人ほど上陸しました。


 彼らは上陸するなり赤旗をさして東の方を三度、敵のほうを三度拝みました。

「バッ! バッ! バッ!」

「左向け、左!」

「バッ! バッ! バッ!」


 これは大陸の異教徒たちの戦いの儀式と言われています。

 そんな彼らと対峙したのが壱岐島の守護代・平内「佐衛門」景隆でした。


「なんという奇怪な異教徒どもだ。皆の者! 八幡様を信仰する我らがあのような異教徒どもに負けはしない!」

「そうだとも、矢戦だ!!」

「応!!」


 その異賊四百人に対して百騎余り引き連れて矢戦をしました。

 異賊を何時間も狩り射る間に守護代側も二人手負いました。


「ぐあっ!」

「大丈夫か! くそっ、数が多すぎる」


 異賊は大勢なので終いには城に撤退して、籠城戦をすることにしました。

「しかたがない城に退け!!」


 彼らは孤軍奮闘しましたが多勢に無勢、同月十五日には攻め落とされて、場内にて一族郎党自害したのです。



 ――――――――



 そのあと和尚は、十六から十七日に松浦党が負けて平戸、能古、鷹島の男女をとらえたことについて話聞かせた。

『同十六、十七日の間、平戸、能古、鷹嶋の男女多く捕らる、松浦黨敗す。』


「――と書かれているように松浦党は負けてしまいました。それもそのはずです。彼らは源平合戦の時に平家側つまり安徳天皇に付き従ったはずなのに、壇ノ浦の戦では裏切った不忠者。そのような輩を八幡菩薩様は決して助けたりしないのです」


「やっぱ海賊って救われないんだな」

「とーちゃんも海賊たちはおっかないって言ってたからな」

「こわいねー」


 和尚は童たちが松浦党を悪く言うのを確認してから話を進める。


「一方、太宰府軍は太宰小弐、大友、紀伊一類、臼杵、戸澤、松浦党、菊池、原田、大矢野、兒玉、竹崎さらに神社佛寺の司等に至まで、われもわれもと集まったのです」


 童たちは目を輝かせる。

 ついに武士が大活躍するのだと身構えた。


「ほらショウニだ。ショウニが活躍するんだよ」

「オオトモもいたよ。ぜったいオオトモさ」

「あれシマヅは、シマヅどこ?」


「これこれ、これから八幡菩薩さまのお活躍の場面になるのですから、静かに聞きなさい」


「……?」

 このとき童たちは武士が活躍する話じゃなかったっけ、と疑問に思った。


「和尚様、異賊を倒したのは武士たちじゃないんですか?」


 それを聞いて和尚は悲しい顔をつくりながら語る。


「武士たちは――ボロボロに負けてしまったのです……」


「な、なんだってー!!」


 八幡愚童訓は決戦の地、博多へと移る。


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