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『既読すらつかなかった元彼に、今さら「ごめん」と言われても遅い』  作者: たま


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2/2

後編

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

最初は、軽い気持ちだった。

「ちょっと距離置こうかな」

それだけのつもりだった。

やよいからのLINEは来ていた。

《最近忙しい?体調大丈夫?》

通知は見ていた。

でも、開かなかった。

開いたら、何か返さないといけない気がして。

正直、面倒だった。


やよいとは大学から付き合って、もうすぐ3年。

特に大きな不満があったわけじゃない。

むしろ、いい彼女だったと思う。

優しいし、ちゃんと支えてくれるし、仕事も頑張っていた。

でも――

「なんか、落ち着きすぎてるんだよな」

刺激がない。

ドキドキもしない。

そう思い始めた頃に、別の女と出会った。

明るくて、ノリがよくて、何も考えなくていい相手。

一緒にいると楽だった。


「やよいとは、まあ…いいかな」

そう思った。

ちゃんと別れるのは面倒だった。

揉めるのも嫌だった。

だから――

何も言わずに、離れればいい。

自然消滅でいい。

そう決めた。


LINEは無視した。

電話も出なかった。

最初は少し罪悪感があった。

でも、3日もすれば慣れた。

1週間経てば、もう何も感じなくなった。

2週間後には、完全に頭から消えていた。


「充、やよいと別れたんだって?」

友人に聞かれたときも、軽く答えた。

「うん、まあね」

別れた“ことにした”。

それで終わりだと思っていた。


数ヶ月後。

違和感は、突然だった。

会社の会議で配られた一枚の資料。

「主要取引先の契約終了について」

「は?」

思わず声が出た。

うちの会社にとって、かなり大きな取引先だった。

それが、突然の打ち切り。

理由は曖昧。

でも、代わりの契約先の名前を見た瞬間――

心臓が止まりかけた。


「……やよいの、実家?」

信じられなかった。

いや、知ってはいた。

やよいの家が、そこそこ大きい会社をやってることは。

でも――

“ここまで”だとは思っていなかった。


調べるほどに、現実が突きつけられた。

美容院30店舗、スーパー20店舗。

地域でも有名なグループ企業。

そして最近、その中で急激に名前が上がっている人物――

「……やよい?」

記事に載っていた写真。

見間違えるはずがない。

あの、俺が“面倒くさい”と切り捨てた彼女だった。


「嘘だろ…」

頭が追いつかない。

なんで言ってくれなかったんだ、と一瞬思った。

でもすぐに気づいた。

違う。

俺が、ちゃんと向き合わなかっただけだ。


その日、久しぶりにLINEを開いた。

やよいとのトークは、もう下の方に埋もれていた。

最後のメッセージ。

《最近忙しい?体調大丈夫?》

胸が、妙にざわついた。


《久しぶり。元気?》

送った。

既読はつかない。


《ちょっと話せない?》

既読はつかない。


《あの時はごめん》

既読は――つかなかった。


その時、初めて理解した。

ああ、これが“無視される側”か、と。

こんなに、何もできないものなのか、と。


仕事の状況は、どんどん悪くなっていった。

大口契約を失った影響は大きかった。

売上は落ち、社内の空気も悪くなる。

そして――

「リストラ、か…」

自分の名前が、そのリストにあった。


「なんでこうなったんだよ…」

帰り道、独り言が漏れた。

答えは分かっているのに、認めたくなかった。


そんなある日。

業界のパーティーで、偶然その姿を見つけた。

「……やよい?」

思わず息を呑んだ。

見違えていた。

いや、違う。

元々持っていたものが、表に出てきただけだ。

自信に満ちた立ち姿。

周りに人が集まる中心。

そして――

隣には、知らない男。


「やよい!」

声をかけた。

やよいは振り返った。

そして――

「ああ、久しぶり」

それだけだった。


その一言で分かった。

もう、完全に終わっていると。


「ちょっと話…」

「忙しいから無理」

即答。

迷いも、躊躇もなかった。


「俺、あの時…」

「聞いてないし、興味ない」

言葉を遮られた。

何も言えなくなった。


そして、やよいは微笑んだ。

静かに、でも確実に突き刺さる声で。

「既読もつけなかった人に、返す言葉なんてないよね?」


何も言い返せなかった。

その通りだった。

完全に、自分がやったことだった。


やよいはそのまま去っていった。

振り返りもせずに。


残されたのは、どうしようもない現実だけだった。

仕事は失い、

信用もなくなり、

隣にいたはずの“楽な女”も、いつの間にかいなくなっていた。


部屋に一人で座りながら、スマホを見つめる。

やよいとのトーク画面。

最後まで、既読はつかなかった。


あの時、ちゃんと向き合っていれば。

あの時、せめて一言でも伝えていれば。

そんな後悔が、何度も頭をよぎる。

でも――

全部、遅かった。


やよいは、もう俺の知らない場所にいる。

手の届かないところにいる。


そしてようやく理解した。

自分が捨てたのは、“楽じゃない彼女”じゃない。

“本当に大事なもの”だったんだと。


でも、その事実に気づいた時には。

もう、何一つ残っていなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

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