死の窯
私の目の前に広がる王都の入り口は、かつて誇った優雅な城門の面影を微塵も残していなかった。
そこにあるのは、煉瓦と黒鉄を幾重にも積み上げて築かれた、終わりのない飢餓を象徴するかのような「巨大な石窯」の口であった。
見上げるほどに巨大なそのアーチは、こびり付いて焦げ付いた煤と、幾千もの犠牲者から溢れ出た脂によって、ぎらぎらと不気味な光を放ちながら黒光りしている。門の縁を彩り、牙のように突き出しているのは、石の彫刻などではない。無数に突き刺さった、鈍い金属光沢を放つ巨大なミートフォークと、鋭利に研ぎ澄まされた肉切り包丁の刃である。それらは、これからこの門をくぐろうとする私という「食材」を、逃さず一口サイズに切り分けるその瞬間を待ちわびているかのように、不吉な角度で整然と並び、私を威圧していた。
門の奥深き暗闇からは、轟々という地鳴りのような音を響かせながら、私の肌を直接焼き焦がすような熱風が絶え間なく吹き付けてきた。その奥にゆらめくのは、その色から判断して、一〇〇〇℃をゆうに超えていそうな業火が渦巻く、文字通りの地獄の釜である。
炎は酸素を喰らって青白く、あるいは毒々しいほどに鮮やかな緋色に燃え盛り、その猛火の中では、かつてこの門を通過しようとした者たちが身に纏っていた鎧がドロドロの液体となって溶け落ちていた。肉を失い、真っ白に焼けて残った骨だけが、熱によって弾ける音が、爆竹のような乾いた響きとなって絶え間なく辺りに鳴り響いていた。
この門を通過するということは、もはや死を意味するのではない。自らの存在そのものを、ひとつの「食材」として無残に焼き上げられることを意味していた。
門の左右に据えられた巨大な石の台座の上には、かつての門番たちが変わり果てた姿となって鎮座している。
彼らはもはや人間としての形を留めていない。巨大な生地の塊の中に、生きたままの人骨と鉄くずを強引に混ぜ込み、そのまま凄まじい高温で焼き固められたかのような、歪な「人肉のロースト」の像と化していた。
その表面は炭のように黒く焦げ付き、熱による膨張で無残にひび割れ、そこからは血の代わりに、濃厚で黒ずんだ肉汁が絶え間なく滴り落ちている。その液体は足元の石畳をべっとりと汚し、拭い去れぬほどに深く染み付いていた。
門の上部、本来ならば誇り高き王家の紋章が掲げられているべき場所には、巨大な「検品済み」という文字が、無慈悲な焼き印となって刻まれていた。
『質の悪い食材は、灰と化す』
その焼き印の溝から、まるで生きているかのように滴る真っ赤なマグマのようなインクが、不吉な文字の形を成している。それは、これから私という侵入者に待ち受けている「調理」という名の恐怖を、逃れられぬ事実として否応なしに突きつけていた。
「……ふん。……笑わせないで」
私は、恐怖に震える指先を隠すように、扇子を骨が軋むほど強く握りしめた。
私の矛となって影で支えたベレッタはいない。不滅を誇ったアルフレッドも、最早いない。
だが、この私を「食材」だというなんて。
そんな身の程知らずで無礼なメニューを立てたのは、一体どこの誰かしら。
私は、熱風に煽られて激しく乱れる髪を指先でかき上げ、その地獄の釜の奥底へと、力強く第一歩を踏み出した。
私の名はセレスティーヌ。この世のすべてを「味わう」側にある者であり、決して誰かに「消費される」側などで終わる存在ではないのだから。




