供養のフルコース、激辛火山
胃袋の洞窟を「指圧」で全滅させ、ピクルス村の「鮮度」を熟成させた私達の前に、次なる混沌が立ちふさがった。そこは、常に薄暗い霧に包まれ、地面からは無数の「食べ残された食材」たちの怨念が、実体を持って這い出てくる『ミート・パペットの平原』だった。
「……何よ、この陰気な場所。腐敗臭ではないけれど、なにか、こう……『未練』のような、生温かい臭いがするわ。私の鼻に対する、これ以上ない冒涜ね」
私が馬車の窓を閉めようとした瞬間、霧の向こうから、巨大な、しかし半透明で骨だけが透けて見える『エビフライの幽霊』が、衣をボロボロとこぼしながら這い寄ってきた。
『……どうして……尻尾まで……食べてくれなかったの……?』
『……一口だけ齧って……残すなんて……ひどい……』
背後からは、噛み残された歯型が生々しく残る『ステーキのゾンビ』や、干からびた『サラダの生霊』たちが、呻き声を上げながら馬車を包囲していく。
「ミート・パペット」:毒舌による「食の断罪」
「……うるさいわね。食べ残された? 尻尾まで食べろ? 笑わせないで。あんたたちが食べ残されたのは、単純に『美味しくなかった』からよ。もしくは、あんたたちを調理した人間の無能が、胃袋の限界を誤認させた。その無能の罪を、この私にぶつけないでちょうだい。私の胃袋は、完璧な美食のみを受け入れる聖域なのよ。あんたたちのような未練の塊を受け入れるスペースなんて、一ミクロンも残っていないわ」
私の一喝に、食材の亡霊たちは「美味しい……くなかった……?」と、ショックで実体が揺らぎ始めた。
「……セレスティーヌ様の味覚を乱す不浄な怨念……迅速に(デス)、成仏(再調理)させて差し上げますわ」
ベレッタが瞬時に動いた。馬車から飛び出すなり、短刀を振るい、這い寄るエビフライの幽霊を超高速でスライス。衣と身を分離させ、空中で再加熱(超高速摩擦)を加え、完璧な『エビのカルパッチョ・怨念抜き』へと加工した。
「おお! これぞ正義の供養! 食材たちの魂に、安らぎの味(闘気)を注入しましょう!!」
アルフレッドも、ステーキのゾンビたちに向かって「正義の鉄拳」を連打。肉質を極限まで柔らかくした直後、彼から放たれる熱い「正義の闘気」を『成仏のソース』として振りかけ、ゾンビたちを一瞬にして『最高級ローストビーフ・闘気仕立て』へと昇華させた。
「……セレスティーヌ様。『食材の成仏フルコース』、完成いたしましたわ」
ベレッタが、かつては幽霊だった食材たちで作った完璧なコース料理を差し出してきた。
「…………(一口食べて)。……まあまあね。衣のサクサク感が足りないけれど、怨念が抜けて、味の迷いは消えているわ。……合格点よ」
私が満足げにそうめんを味わっている間、平原の亡霊たちは全員、アルフレッドとベレッタの「再調理」によって成仏し、平原には静寂が戻ったわ。
平原を抜けた先に現れたのは、王都への最短ルート上に位置する、常に激辛の蒸気を噴き上げている『カプサイシン火山』だった。通るだけで全身が真っ赤に腫れ上がり、呼吸器が炎上するという「激辛の洗礼」が待ち受けている。
「何よ、この山。空気が凶器じゃない。私の高貴な粘膜が、まるで行き倒れの龍の逆鱗を逆撫でしたような痛みだわ」
「セレスティーヌ様、ご安心を! この辛味……これぞ、悪を焼き尽くす正義の情熱へのスパイスですな! 私がその熱源、すべて吸い込んで差し上げましょう!!」
アルフレッドは馬車の屋根に立ち、火山から噴き出す激辛の蒸気を大きく吸い込んだ。常人なら肺が内側から炎上して即死する量のカプサイシンが、彼の超人的な呼吸器へと吸い込まれていく。
「は……は……は……はくしょぉぉぉぉん!!(正義ッ!!)」
アルフレッドが放った史上空前の「正義のくしゃみ」は、指向性を持った衝撃波となり、火山の噴火口へと直撃。猛烈な風圧が火山の内部圧力を押し潰し、噴火を一瞬にして鎮火させた。
「……セレスティーヌ様。お嬢様の粘膜に、一ミリの刺激も許しませんわ」
ベレッタが瞬時に動いた。短刀で周囲の空気中の水分を凍らせ、馬車全体をまるごと巨大な『氷の繭』で包み込んだ。さらに、三頭の「雑巾馬」たちの蹄に、瞬時に『正義の氷点下シューズ(蹄鉄)』を装着。
「スカイ・デリバリー(空中牽引)を開始いたします」
馬車は、アルフレッドが鎮火させた火山の斜面を、ベレッタの糸によって空中に吊り下げられ、猛スピードで、かつ涼しげに駆け抜けていったわ。
結局、火山は鎮火し、私たちは激辛の洗礼を「完全無視」して通過した。
けれど、アルフレッドの「鎮火のくしゃみ」を間近で浴び続けた三頭の「雑巾馬」たちは、その毛並みの汚れが絶妙な具合にカプサイシンと反応し、今や『歩く激辛キムチ』のような芳醇で刺激的な香りを撒き散らす『動くスパイス』へと変貌していたわ。
「……セレスティーヌ様……。ボブたちから、私の食欲を刺激する……殺意(空腹)が湧いてくるのですが……パッキング(解体)してよろしいでしょうか?」
「ダメよ、ベレッタ。食べたら絶対にお腹を壊すわ。……それにしても、アルフレッド。あんた、自分の体温で馬をキムチにし始めるなんて、本当に救いようのない料理下手ね」
「なっ、セレスティーヌ様! 私はただ、彼らに正義の活力を与えただけで……!」
馬車の片隅では、謎の姫が「もう、お城の歴史書にある『平和な旅』なんて幻想だわ……。食材の幽霊を食い、火山をくしゃみで黙らせるなんて……」と、呪いの人形を抱きしめて震えていたわ。
「……さて。キムチも終わったし、次はもっと刺激的な『メインディッシュ』を期待しているわよ。王都の門番が、私の到着を待ち侘びて首を長くしている頃でしょうからね」
私たちは熟成された馬の香りを引き連れ、依然として混沌のハラペコニア街道を突き進んでいく。王都の扉が開くその時まで、私の毒舌が止まることはないのだから。




