魂の皿洗い
ようやくハラペコニアの王都に辿り着いた……と思った私の期待は、次の瞬間、無残にも裏切られることになった。
視界の先に輝いていた黄金の尖塔、そして鼻腔をくすぐっていた芳醇なバターとスパイスの香りが、陽炎のようにゆらゆらと歪み、砂となって霧散したのだ。
「……はあ? 偽物? 私の、この至高の期待を土足で踏みにじるなんて……。この景色を構成している原子ごと、一つ残らず根絶してやろうかしら」
私が馬車の窓枠を指先で叩きながら不快感を露わにすると、黄金の街並みが消えた後に広がっていたのは、見渡す限りの赤茶けた荒野だった。そして、その不毛な大地の真ん中に、ぽつんと一軒だけ佇む、あまりにも不吉で悪趣味なレストラン。看板には『空腹の蜃気楼』と、これまた悪趣味な血のようなソースで書かれている。
馬車から降りた私の前に、音もなく現れたのは燕尾服を纏った骸骨の給仕だった。
「ようこそ、伝説のレストランへ。空腹を満たし、永遠の安らぎを……。当店の料理を一口でも召し上がれば、貴女様の魂は肉体を離れ、この厨房の一部として永遠の幸せを手にすることでしょう」
永遠の幸せ? 笑わせないで。慇懃無礼な態度で差し出されたのは、見た目だけは豪華な『魂を絡め取った仔羊のソテー ~暗黒のデミグラスを添えて~』。一口食べれば、その魔力に囚われ、一生この店の地下で無限に積み上がる皿を洗わされるという、美食家を狙った最悪の呪いらしいわ。
私は、不敵な笑みを浮かべてナイフを手に取った。
「……永遠の皿洗い? 私の手を水に濡らす権利を持っているのは、この世で私自身だけよ。あんたのような骨董品(骸骨)に、私のキャリアパスを決められる筋合いはないわ」
私は芸術品を解剖するかのような完璧な手捌きでソテーを切り分けると、優雅に一口だけ口に運んだ。直後、骸骨が期待に骨を鳴らすのが聞こえたけれど、私の心臓が、この程度の料理で動揺するとでも思ったのかしら。
「……ふん。隠し味に混ぜた『絶望の毒』が、あまりにも安っぽいわね。下処理が甘いわ。ラムの野性味を消そうとして、呪いの濃度を上げすぎている。これじゃあ、毒の味がメインになって、素材のポテンシャルが台無しよ。私を殺したいのなら、もっと『高貴な死』を演出しなさい。この程度の味で私の高潔な魂が揺らぐと思っているなら、店主、貴方の審美眼こそ死んでいるわよ」
厨房の奥から、怨念に満ちたシェフの亡霊が姿を現したけれど、私の的確で冷酷な批評を浴びて「自尊心が……呪いの魔力が……!」と震え出し、ショックでその存在そのものが半透明に透けていくのが見えたわ。
「セレスティーヌ様、この店の『魂を縛る秘伝のレシピ』、迅速に全ページパッキングいたしましたわ。後ほど有毒成分だけを抽出して廃棄し、セレスティーヌ様の夜食に活用させていただきます」
ベレッタが給仕の骨を一本も鳴らさせずにレシピを奪い取ると、今度は横から銀色の巨躯が爆風のように飛び出した。
「おおお! 労働を強いる呪いなど、正義の勤労精神で打ち破るのみ! 正義の皿洗い(物理的な全破壊)!!」
アルフレッドが厨房に突っ込み、正拳突きを連打。皿を洗うのではなく、皿を粉砕し、厨房を爆破し、ついにはレストランの建物そのものを、土台ごと正義の熱気で消し飛ばしてしまったわ。幻影が完全に晴れ、私たちは再び、別の意味で不快な匂いが漂う荒野へと放り出された。




