依頼 第一節
「ふい~やっと解放された」
貸格納庫で整備班の作業の手伝いを終えたトワはそう言いつつ、多くのオフィスビルが立ち並ぶアル・アクーサ市街地の一角をある場所に向かい歩いていました。
「今日こそ良い情報があればいいんだけど・・・」
しばらく街中を進んでいたトワはある建物の前で足を止めます。
「テューロス竜圏組合本部・・・いつ見ても壮観だなぁ」
周囲の背の高いビル群と一線を画す様に建てられた、四階建ての重厚な石造りの建造物を見上げそう呟いたトワは、早速求める情報を得る為に組合本部へ入っていきます。
(相変わらず人が多いな・・・まあ組合の特性を考えれば仕方ないか)
組合本部に入って直ぐのホールは多くの人々でごった返していました。
主にテューロス地方中から集まった機士や魔導師、それにキャバルリーの設計と開発に特化した魔導師である魔工師、魔工師程ではないにせよオドが扱えてかつ機械技術に精通し、キャバルリーの修理や整備等々を行ういわゆる職人ともいえる機工師。
それら各種の職業の人々が組合の斡旋する仕事を求めたり、あるいは戦争や事故で相方を失った機士や魔導師が新たなパートナー探しの為に訪れたりしているためにこの場所は常に多くの人々で賑わっているのでした。
「やれやれ今日も長丁場になりそうね」
トワは目の前に広がる人ごみを眺めつつそう呟くとホール内に設置されている発券機から整理券を受け取ると、ホールに設置されている大型のモニター型魔導器に自身の受付番号が映し出されるまで、大人しく待つことにします。
(しかし相変わらずここに集う機士や魔導師の人達は高レベルだ・・・ハイライン王国の連中とは比較にならないや)
事故によりテューロス地方に飛ばされ、リャンシャン竜圏傭兵機士団に拾われて約半年間この組合本部にある目的で通い続け、今もこうして順番待ちの時間を利用してホールに集う数多のベテラン及びエース級達の静かだけれどもとても強力なオドを纏っている者達を観察し、彼等がかつて所属しかけていた機士団の機士や魔導師達とは桁違いに高レベルにある事を改めて確認したトワは内心でそう呟きます。
そうこうしているうちにポーンという少し間の抜けた音と共に、自身の整理券に書かれている番号がモニターに映し出された為にトワは急いでホールにある受付窓口に向かいます。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
「人物の検索です」
「了解しました。では二階の端末室をご利用下さい」
そう受付の眼鏡を掛け三つ編みにお下げという髪型をした女性職員は、トワに端末の起動キーを渡します。
「いつもありがとうございます」
そう言って職員に軽く会釈すると早速階段を登り本部の二階にある端末室に入り起動キーに書かれた端末の番号の場所に向かい、そこに備えられている椅子に座りキーを差し込み検索端末型魔導器を立ち上げ、手早くトーコとトーコと思われる人物に関する検索及び人探しの依頼を調べますが・・・
「やはりヒット無し・・・」
端末の画面を見ながらトワは嘆息しそう洩らします。
(この半年間、団長や機士団のネットワークを使って探し続けてるけど・・・それらしい情報は一切無い。これってもう・・・)
トワは最悪の事態を想定しますが、すぐにかぶりを振るいソレを否定します。
(いや、まだ表に出ていないだけですでに見つかっていて、どこかの国や組織に保護されて可能性も大いにある。気持ちを強くもたなきゃ!)
実際に自身が所属するリャンシャン竜圏傭兵機士団のネットワークには既に何人かの地球人達が、ベルモンド帝国やフリアンソン共和国で発見・保護されている情報も入っていました。
(ハイライン王国はそれらの国家に対して、公式・非公式問わず地球人達の返還を求めてるらしいけど・・・いずれも拒否されるか、のらりくらりとかわされているらしい。まああれだけの力を持つ地球人達だどの国家も欲しがって当然か)
地球人で圧倒的な力を持つ少年、一騎討ちにおいて自身を完膚なきまでに叩きのめした相手、ジングウジ・ヒロキの事を思い出しトワは心中で呟きました。
(とにかく今は焦っても仕方ない・・・有力な情報が入ってくるまでじっくり待とう)
トワはそう自らに強く言い聞かせると、検索端末の電源を落とし起動キーを引き抜くとそれを返却するために一階に降りて返却口に向かいますが、そこでこの半年間で嫌になる程聞き慣れた男の声を聞きます。




