2 担任指名
「ロゼ・セリスタくん。君に第三王子の担任をやってもらいたい」
「はい?」
学園長にそう言われて私は首を傾げた。
教員として勤めてから早10年・・・学園長じきじきの呼び出しで開口一番にそう言われれば誰でも混乱するものだろう。
「あの・・・何故私に?他にもっと優秀な教師はいると思うのですが・・・」
「君だからこそ適任なのだ。知っての通り第三王子のトラビス・ラフレシア様は婚約者がいない。故に貴族令嬢からのアプローチが多く予測される」
トラビス・ラフレシア第三王子・・・第5側妃様の子供で、容姿端麗な彼には何故か婚約者がいないそうなのだ。それ故に学園に通うようになれば様々な独身の令嬢からのアプローチが予測されることは容易に想像がつくが・・・
「あの・・・なら、私よりも既婚の方か男性教師でもいいのでは?」
「前者が少ないのは知ってるだろ?後者は・・・実力行使の時に異性だと不都合があるだろうから論外だ」
確かにこの学園の教師は基本的に独身のいきおくれた令嬢か結婚まで秒読みの教師・・・あとは既婚の男性教師が主で、既婚の女性教師が少ないのは元より・・・そもそも既婚の令嬢はこんなところで教師をするよりも、嫁いだ家を夫人として取り仕切ることが主なので、その条件に当てはまる人材は限りなく少ない。とはいえ、私が選ばれる理由がわからなかった。
「あの・・・一応、私もいきおくれとはいえ、独身の身ですので、あまり好ましくないのでは?」
「そこは信じているからね。君の仕事ぶりは私は元より他の教師も認知しているところではあるが、特に君の受け持った生徒はどの子も貴族として立派に成長している。それに仕事に私情を挟むようなことを君はしないだろう?」
「それは・・・」
確かに、そこそこ長い教師生活で何人もの生徒を受け持ってきたが・・・正直ここまで評価されているとは思わなかった。とある事情から結婚というものに対してマイナスにしか考えられなくなった私が仕事に精を出して結果的に何人もの貴族の子供の指導をしてきたが・・・それでも、結局は教えることなど誰にでも出来ることだと私は思っている。だからそんな風に評価されるとかえって困惑するというか・・・
そんな風に言葉につまっていると学園長はその沈黙を了承と受け取ったのか頷いて言った。
「君なら間違いは起きないだろうし・・・何より爵位としても君より上の教員はいないんだ。よろしく頼むよ」
「・・・わかりました」
しぶしぶの了承・・・この選択を後々後悔することになるのだが・・・そんなことを知らないその時の私はこれからの大きな仕事に対してため息をもらしてした。